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3 報告 2


「では最後に、マルーディアの件ですが」


 玉座に座り、献上品としてもらった珍しい宝石を眺めていると、いつもの定例報告を終えたトマスが、最後にそのような話題に水を向けた。

 マルーディアと聞いて、フリードリヒは魅入られていた石から文官へと視線を移した。


「どうした。ついに賊を捕まえたか」


 フリードリヒは前のめりになった。

 前回の報告からさらに10日ほど経過していた。

 その間、続報は何もなかった。

 彼は日々の施政に追われながらも、心のどこかでいつもマルーディア領の事件を気にしていた。


 いえ、とトマスは首を横に振った。


「それがその、未だに」

「そうか。被害の方は」

「ますます広がっております。現在、死者は350人を越えております。軍人の死者だけでも80名ほど。その影響で、近隣の小さな村が1つ消滅しました。ローラー作戦による山狩り遠征は現在までで5度試みられておりますが、全て軍が敗戦しております。マルーディア領主はいよいよ本格的に軍隊を投入しようと考えておられるようです。そしてどうやら、今回は国営ギルド頭の一人である、件のデイモンも負傷した模様で」

「デイモンが?」


 フリードリヒは顔を顰めた。

 デイモンはまだ若いが、かなりの腕の持ち主だ。

 剣も魔法も高レベルで習得しており、様々な武具を使い熟せ、高い次元で安定した戦士である。

 国内において恐らく指折りの戦闘能力に長けた、まさに一騎当千の傑物である。

 フリードリヒも、いつか自分の手元に置きたいと考えていた。

 今はまだ外で経験を積んでもらい、見聞を深めてもらい、年を経て成長を終えたら、あらゆる策を弄してでも、必ず宮仕えにして傍に置いてやろうと目論んでいる。

 一目見れば分かる迸る才気。

 王ならば、誰でも欲しがる人材。

 それがクルーガー=デイモンという人間なのだ。

 

 そのデイモンすら敗北してしまう、謎の男。

 どれほどの男なのか。

 どのような人間なのか。

 いいやもしかしたら。

 人間の容をしているだけで、本当は人間ではないのではないか。

 デイモンの安否が気になるのと同時に、様々な妄想が去来して、フリードリヒの胸は高鳴った。


「怪我の具合は深刻なのか」

「いいえ。致命傷に近いダメージを負ったようですが、マルーディアの魔法兵団による懸命な治療により、現在は順調に回復して、命に別状は無いようです」

「そうか。では、動けるようになればデイモンをここに連れて来い」

「デイモンを」

「そうだ。奴はマルーディア軍と共に臨場したのだろう?」

「ええ、それはそうだと思われます」

「ならば話を聞きたい。その化け物のような男と対峙したときの様子を」

「承知しました。それでその、マルーディアからの後方支援要請の方は」

「無論、してやれ」

「御意に」


 フリードリヒはくくくと笑い声を漏らし、再び宝石に目を移した。

 大した輝きを見せないこの石は、しかし、学者連中に依れば大変貴重で珍しい鉱物らしい。

 さらにその禍々しい屈折率の具合から、ある部族では呪物として忌避されているものでもある。

 しかし、フリードリヒはこの石が気に入っていた。

 稀少なものというのはそれだけで美しく感じるもの。

 どうしようもなく心が惹かれるもの。

 例えそれが悪であっても。

 


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