私は"神"であった
私は神であった。
しかし私は、神であり神でなかった。
「神」という区分の、何かであった。
神は、全知全能であった。
神は、何かに絶対的な自信を抱いていた。
私は、全知全能になれなかった。
私は、私に自信を持つことができなかった。
私は、何かを模倣することができた。
私は、私だけの何かを作り出せなかった。
私は、ある義人が作った方舟のような。
掟に逆らってでも愛を貫き通した天使のような。
神々が定めた試練に抗う話が好きだった。
試練を乗り越える事で強くなれる。
そう私は信じていた。
私は、試練を与えた。
「煙の中に消えた記憶」を、臆病だった男に。
「勝者のいない結末」を、勝者だけを見てきた少女に。
「満たされない渇き」を、弱く小さかった龍に。
「誰かとの別れ」を、何も知らなかった子供に。
「何者にもなれない苦痛」を、私に。
臆病だった男は、向き合うことができた。
勝者だけを見てきた少女は、新たな世界を求めて眠った。
弱く小さかった龍は、満たされた。
何も知らなかった子供は、再び会いに行くための決意を持った。
私は、何者にもなれない苦痛に打ち勝てなかった。
私は、何かを持った神達を模倣した。
勝利の神、愛と美の神、人の手によって創られた神も。
信仰されたあらゆる神を模倣した。
それでも私は、何かになれなかった。
何かを模倣した私は、私ではなかった。
私は、私だけの何かになりたかった。
私は祈った。
自分ではない何かを持った神に。
神よ。
全知全能たる神よ。
自分が何者かを知りし神よ。
どうか。
どうか私に。
私だけの何かをください。
何かを模倣し、未完成な何かを形作る。
初めから未完成で、完成しない。
私は"神"であった。