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第三十五話 ここってダンジョンみたいだね

「タイテ帰っちゃったね」


 リョウがしょんぼりと肩を落とす。リードとともに正門から出ていったタイテは、あっという間に姿が見えなくなってしまった。


「草原に行けばいつでも会えるっていってたし、また会いに行けばいいよ」

「うん」


 建物の壁伝いに歩いて裏口を探す。裏庭にはハーブや野菜の小さな畑があったが、少し荒れていた。雨が降っていないのか、葉物野菜がしおれかけている。


 裏門より少し向こう側に木で造られたドアがあった。鍵穴の周辺は真鍮のような金属でできている。ケンイチが鍵を差し込み回すと、カチャリと音を立てた。


「開いたみたいだ。行くか」


 裏口を開けると、そこは台所だった。


「しばらく使ってないみたいな台所ね」

「そう?」


 清潔に掃除されているようだが、食べ物の匂いはしなかった。

 かまどからすすの匂いもしないのは、おそらくエネジェムを使っているからなのだろうけれど、壁にかけられたフライパンや棚に置かれた鍋、大きな木のまな板も、完全に乾いている。


「何年も使ってない、というわけじゃなくて、ここ数日は使ってなさそう」

「ママそんなんわかるん。すご」

「じゃあユウカは、どこでご飯食べたのかな」


 台所を抜けて、石造りの廊下を歩く。高い位置にある採光用の窓のおかげで歩けないほどではないが、薄暗い通路だ。


「電気とかないんかな」

「聖堂は豪華だったけど、居住スペースは簡素なのね」


 聖職者が住んでいるのならば、そういうものかもと思う。

 さきほどタイテが外から覗いていたあたりに、地下に降りる階段があった。窓からの光も届かず、数段下は真っ暗になっている。


「ユウカは地下にいるっていってた?」

「おーい、ユウカー! 迎えに来たよー! 起きてー!」


 リョウが下り階段に向かって大きな声を出すが、その音は石に吸収されて消えていく。


「ケンイチのスマホの懐中電灯ってまだ使える?」

「いや、もうバッテリーが切れた。だが……」


 ケンイチがポケットからエネジェムを取り出す。

 以前、道具屋で購入したもので、ケンイチが魔法を注入したために仄かに発光している。


「それ、懐中電灯代わりに使えるかな。パパもっと明るくしてみてよ」

「光の精霊の名において我が石に光を与えよ」

「なんか変わった?」

「いや、なんともなってないな」


 宿でケンイチが呪文を唱えたときには、エネジェムは少しだけだが発光し魔力を蓄えた。だが、今はなにも変化したように見えない。


「ははーん。俺、わかっちゃったよ」

「なになに、ヒロト」

「つまり、パパはエネジェムを充電できるほどの魔力があるわけじゃないんだ。あのとき、パパの肩にはいつものように王が座ってたやん。つまりは、王の祝福があってパパの魔力が増幅されてたんだよ」

「あっ、なるほど」


 タイテは自分に危害を加えると、精霊の怒りを買い魔力が使えなくなるといっていた。ならばその逆もあるのかも知れない。妖精の王を肩に乗せたケンイチの魔力は、本来の力よりも増幅していたのだろう。


「なーんだ、パパはタイテの力を借りてもあの程度だったのか」

「そもそも、普通の人間に魔力などあるわけがないだろう」

「パパが開き直った」

「しょうがないなあ」


 私はエコバッグから自分のスマートフォンを取り出し、電源を入れる。バッテリーの残量は六パーセント。ユウカを連れて帰ってくるくらいならなんとかなるだろう。


「ママ、自分のスマホのバッテリーまだあるんやん。ずるい」

「電源を切って、使わないようにしてたからね。でも懐中電灯モードはバッテリーをたくさん消費するから、もうこれでおしまいだと思う」

「どっかにモバイルバッテリー落ちてないかなー」


 ケンイチの持つエネジェムの仄かな明かりをたよりに、階段を降りてみる。思ったとおり、数段降りただけで足元を照らせなくなったので、私は仕方なく自分のスマートフォンを懐中電灯モードにする。


「明るいねえ、ママ。スマホは便利だねえ」


 リョウは私と手をつなぎ、階段を降りる。思ったほど深くはなかった。ただ、懐中電灯の光が届かない先は、完全な暗闇でなにも見えない。


「ねえねえヒロト、ここってダンジョンみたいだね」

「教会の地下がダンジョンなんてことあるかー?」

「意外と、そういうゲームもあるぞ」


 ケンイチたちがゲームの話をしている。ダンジョンとはどういうものだろうか。なんとなく、地下の迷路みたいなものだと認識しているが、詳しいことは分からない。


 石造りの廊下を挟んで、両側に木のドアがある。ノックをしてみるが返事はないし、ドアも鍵がかかっているようで開かない。

 念のため、リードにもらった鍵を使ってみようとするが、そもそもの大きさが違い、鍵が鍵穴に入らない。


 廊下の奥を照らしてみると、数メートルおきにドアがあるようだ。思ったよりも随分と奥行きがある。

 ずうん、と鈍い音がする。


「なに、今の」


 周囲を見渡していたケンイチが急に、今来た道を戻っていく。


「やられた。閉じ込められた」


 階段を登ったケンイチが、忌々しげに天井を叩く。

 さっきまで地下への入口が開いていた穴は、床や壁と同じ石で塞がれてしまっていた。

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