表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/64

第十一話 アタシたち逃げて大丈夫なの?

 森の端まで車を走らせ、砂漠が見えたあたりで車を停めた。砂漠に沈む二つの夕日は、ここが異世界なのだということを私たちに実感させた。残っていたリングリのパンと水筒の水を飲み、家族五人で車中で眠りについた。


 こつり、と窓になにかが当たる音がして目が覚めた。こつり、こつり、と間隔をあけて、数回音がなる。リクライニングしていた助手席のシートを起こし窓の外を見る。森の中からミカラスが、車に向かってリングリの実を投げていた。


「おはよう、ミカラスちゃん、早いね」

「もう日が登ったから出発するぞ」


 車が怖いのか、ミカラスは森の中から私に声をかけてくる。

 家族がもぞもぞと起き出してくる。


「車はどうしようか」

「森と砂漠の境界に洞窟があるから、そこに隠しておくといい。昔はエルフたちが貯蔵庫として使っていたけれど、今はもうだれも使っていないから」

「へえー、今はどうしてるの?」

「町で小さめの冷蔵庫とか買ってきて使ってる」

「冷蔵庫があるんだ。まあまあの文明は期待できそうだね」


 川で洗って木の枝に干しておいた、ヒロトの制服とリョウの服はもう乾いていたので、体操服からそれに着替えさせる。


 道から少し逸れ、車を森沿いに走らせるとミカラスのいう洞窟があった。予想していたよりもかなり大きく奥行きもある。エルフが置いていったと思われる木の樽や木箱がいくつかあった。大きな麻布のようなものがあったので、それを被せて車を隠す。


 荷物が増えてもいいように、リョウはランドセル、ヒロトは学生鞄、ユウカはリュックサックを持つ。私も自分のエコバッグに、最低限の荷物と水筒を入れて持っていく。


「砂漠あっつ! 森は涼しかったのに、砂漠あっつ!」

「まだ朝だから涼しいほうだ。日が登ってしまう前に、町までいくぞ」


 ミカラスが私たちを先導する。丸太で作られた道らしきものは足元にあるのだが、砂により数センチは埋もれていた。砂に足元を取られ歩みが遅くなる。つくづく、スニーカーを履いてきていて良かったと思う。異世界に飛ばされたあの日、パンプスを履いていたらさぞ不便だったことだろう。


「ミカちゃんは矢を売りに行くの? それ、自分で作ったの?」


 ランドセルを背負ったリョウは、ミカラスと並んで歩いている。ミカラスもたくさんの矢の束を、二宮金次郎のように背負っている。


「森の落ち枝を少しずつ集めて作ったんだ。矢の先端には巻き貝の殻をつけている。プロテクトクラブの殻くらいなら射抜くぞ」

「強いんだねえ、かっこいい。ボクも武器欲しいな」

「プロテクトクラブの硬い殻を射抜くくらいなら、車に傷くらいはつきそうなものなのに。やはり、車に防御かなにかの効果がついているんだろうか」

「水没してショートしていたドアも、なぜか治ってるしね。ウンリイネがやってくれたのかもね」

「ならガソリンも減らないようにしてくれればいいのに」


 ケンイチは燃費メーターを確認し、こまめにガソリンの残量をチェックしていた。基本的に真面目でまめな性格なのだ。


「歩いても歩いても砂漠しか見えないんだけど?」

「いうほど歩いてないよ。まだ十五分くらい」

「まじかー。もう二時間くらい歩いたかと思った」

「陵丘になっているからな。一番高いところまで行けば、町はすぐ見え……」


 ミカラスが話の途中で口をつぐむ。


「どうしたの?」

「しっ」


 歩みを止めて周囲を見渡す。どこからか奇妙な音がする。海岸でゴムボートを引きずるような、かすかな音だった。砂が風に舞う。砂丘の影に蠢くなにかの姿が見える。


「なにあれ、みみず……?」

「デスワームだ! ケンイチたちは逃げろ!」

「デスワーム?」


 ミカラスが砂煙の方向に向けて弓を引く。


「えっ、えっ、アタシたち逃げて大丈夫なの? ミカちゃんは?」

「私一人ならなんとかなる。はやく、町の方向へ!」

「ヒロト、ユウカ、早く!」


 ケンイチがリョウを抱える。私たちは砂を蹴り、ミカラスの言うとおり町の方向へ走って逃げだす。


「パパ、パパ!」


 走りながらヒロトが声を上げる。


「なんだ!」

「ちゃんミカやばいんじゃないの。攻撃があんま効いてないみたいだけど!?」

「まじか……」


 リョウを抱えたまま、ケンイチは振り返り後ろ歩きになる。私も走りながら後ろを見ると、ミカラスがなんども矢を放っていた。だが、丸太ほどの太さもあるそのモンスターは、ミカラスの矢が肉体に刺さっても、全く意に介していないようだった。


「ママ、俺のかばん持ってて!」

「ヒロト、だめ!」


 学生かばんを放り投げ、ミカラスの方に走っていく。


「俺のスキル、なんか出ろ! えーっとゲーム……なんだっけ」

「ヒロト! バカっ、やめ……」


 ミカラスをかばって前に出たヒロトを、サンドワームが襲う。土色の肉体をうねらせ、ヒロトに向き直り、大きく口を開く。傘のように大きく開いたピンク色の口は、ヒロトを包み込むように降りてきて、そのまますっぽりと丸呑みにしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ