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とけい

作者: 瑪瑙

いつ頃のことなのかは、もはや定かではありません。

あるところに、とある少年が自分の部屋にてひとつの不思議を抱えていました。


*****


頭上の掛け時計。

毎秒毎秒飽きることなく秒針が動いてる。働き者なのかな?


いや、きっと時計にとっては呼吸みたいなものなんだろな。


なら、その時計は何を吸っているんだろう?


毎日毎日飽きることなく空想に耽って眠り、髪が逆立つ。

その僕がぼんやりと指でくるくるといじって戯れたひとりの空気とか、気持ちを塞ぎ気味に口ずさんだうたがこの部屋には、きっとたくさん渦巻いているはずだ。


そんなものを少しでもいいから、吸い込んでいてくれたら嬉しいなあ。


でも、その時計は何を吐いているんだろう?


さっきのうたも昨日の空気も、全部すぐに無くなっちゃうのかな?


そうして、何も変わらない形を保ち続けられているのかな?


もしかしたら、最近頭の中で自転車が軋むような音をたてて物を思い出せなくなったのは、この部屋に置いていった感情を時計が全部くすねていたからかもしれない。


本当に、いつも何処からか取って付けたような言葉ばかり言うようになっちゃったなあ。


でも、放っておけば何かを吐き出してくれるかもしれないよな。この部屋に居れば。


ちょっと無責任な気もするけど。


でも、やっぱり大好きだなあ。

この内気なようでどこか眠りにつけそうな共存感に浸った部屋と、ちょっと愛想ない掛け時計が。


*****


そうして、気が遠くなるほど少年と呼吸を共にしたとけい。


そのとけいは今、私の抱える腕の中にあります。


今でも、毎秒毎秒飽きることなく針は動き続け、呼吸をし続けています。

そのいちばん近いところで、私も息をしています。


あの少年はあれから、とけいを手首に巻き付けて部屋を飛び出したり、太陽の光を受けてその影をなぞったり、部屋に帰って砂の流れを見つめたりして暮らしていきました。


いつもいつも、何度も何度も繰り返して。

なにも、ずっと変わることはありません。


とけいは変化の象徴。


でも、不変の憧れ。


なんだか、笑ってしまうようなものをずっと信じ続け、少年は部屋の外でたくさんの人に触れて変わり続けながらも、部屋に帰るととけいと呼吸をぶつけ合い、不変を確かめ続けました。


そうした二律背反をもって蒐められたものたちは、今何処にあるのか。

それは、このとけいがぜんぶしっているようなきがします。


このとけいにだけは、ぜんぶをみせてきましたから。


「ありがとう。」


さいごにそうわたしはつぶやき、めをこすってから、とけいのひょうめんのがらすをやぶり、それぞれのはりをゆびでいっしゅうだけまわしてから、そのはりをとりはずした。


ああ。


わたしはすこしのえみをうかべ、まどろみのなか、へやにうずまくさっきのうたやきのうのくうきにゆっくりとせなかをあずけた。

はじめまして。瑪瑙と申します。普通の男子高校生です。

「小説がかきたい!」と唐突に思い立って、一晩で衝動的にかいてみました。

初めての投稿で至らない点も多いと思いますが、満足していただけたら嬉しいです。

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