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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

【連載候補】森で殺され棄てられた死霊術師、吸血鬼(美少女)に拾われ真の力が目覚める。〜自身の力で蘇り、死体も魔獣も従えスローライフを謳歌、自分を殺した奴らが呪いにかかったらしいけど俺は知らん〜

掲載日:2021/10/09

この作品を開いて頂きありがとうございます!

短編ではありますが、楽しんで頂ければと思います。



「ノエル、今日の魔祓いの儀式は終わったみたいだな」


「はい」


「お前にはそれ位しか脳がないのだからな。出来なくては困る」


ゴードン騎士団長はつまらなさそうに鼻を鳴らす。

俺がこの(ほこり)っぽい部屋の中でなじられるのには理由がある。


約300年前、この世界の各地に『森』が出現した。

その現象は突発的に起こり、時を待たずして森にゴーストやアンデットといった魔獣が棲みつくようになってしまった。


それにより近隣の街や村の魔獣被害は大幅に増加し、魔獣の天敵といえる結界を張れる聖職者の需要は高まり、反対に魔獣や森を連想させる黒魔術職は忌み嫌われるようになった。


そして俺はその黒魔術職の1つ――死霊術師だ。


「それにしても質素な部屋だ。ま、死霊術師にはぴったりだな」


ゴードン団長はわざと床を軋ませながら歩く。


10歳の誕生年に行われる神託の儀、そこで授かった職は絶対に変えることは出来ない。

俺は運が悪かったのだ。


「ええ、どうなんだノエル? 私には負け組の気持ちが分からんのだ、教えてくれたまえ」


「……」


ゴードン団長はニヤニヤしながら問いかける。代々騎士の家系の彼にとって、死霊術師である俺がこの屋敷にいることが面白くないのだ。

こんな風に馬鹿にされるのは、俺にとって毎日の日課だった。


「黙ってないで何とか言ってみたらどうだ!」


「――その辺にしてあげてくれないかゴードン」


部屋の入り口に1人の男性が立っていた。

ここの屋敷主であるワイズマン辺境伯だ。


叱言(こごと)を言うのが君の仕事かな?」


「ワ、ワイズマン卿!? し、失礼しました」


「彼は立派に仕事をこなしている、そんな風に言うのは私が許さないよ」


ワイズマン卿は笑顔のまま淡々と話す。


聖職者は貴重だ。

王都や主要都市に優秀な聖職者が集まり、ここのような辺境には中々来れないらしい。


だから毎日魔祓いの儀式で結界の代わりをするという条件で、ワイズマン卿が特別にこの屋敷に住まわせてくれたのだ。


ただ、俺がここに来る前に周りの魔獣の巣を根絶やしにしたらしいから効果があるかどうかは実感出来てないけど……。

それでも、この街の魔獣被害は俺が来てから1度も起きていないのは事実だ。

少しでも、力になっているのなら嬉しい。


「それでは、私はこれで!」


ばつが悪くなったゴードン団長は一礼をすると、足早に部屋を立ち去る。


「すまなかったね、彼には強く言っておくよ」


「いえ、黒魔術職の俺が悪いんです」


「そんなことはない、ノエル君は立派だ。君のお陰でこの街の皆は平和に暮らせているんだ」


ワイズマン卿の言葉が胸に染みる。

死霊術師の俺に、暖かい言葉をくれるのはこの人しかいない。

目の前にいる彼のお陰で路頭に迷わずに済んでいる。正真正銘、俺の恩人だ。


「実は君に頼みたいことがあってね。えーっと、どこだったかな?」


ワイズマン卿は鞄の中身を探り出す。


「俺にですか?」


「うん。今日の夜、騎士団主体でカルガラの森の生態調査をする予定なんだけど……恥ずかしながら人員が足りなくてね。ノエル君には記録係をお願いしたいんだ」


そして(おもむろ)に羊皮紙の束と万年筆を取り出す。


「前から森の植物を観察したいって言ってたもんね」


そんな……俺が何気なく言ったことを覚えていてくれたんだ。


「やってくれるね、ノエル君」


「はい、俺頑張ります!」


俺は羊皮紙と万年筆を受け取る。

ワイズマン卿に頼まれた仕事だ、責任を持って全うしないと……!





――カルガラの森。

街をぐるりと囲むように鬱蒼と生える樹々は月夜に照らされ、その葉を妖しく光らせる。


「よし、それでは出発する!」


指揮を取るのはゴードン団長だ。

屋敷の後にした俺達は黒いローブを羽織り、隊列を組んだまま森の中を進んでいく。

夜に調査をするのは、森の中の魔獣や魔植物の動きが活発になる時間の為だ。

普段自由に外に出られない俺にとって滅多にない機会。


危険地帯ではあるが、辺りの不気味な魔植物も俺には新鮮に映り、頬を伝う夜風は心地良かった。


「それでは各自作業に入れ、警戒を怠るなよ!」


そしてしばらく歩くとゴードン団長の号令が響く。

俺は図鑑と照合し、載っていない魔植物の写生に入る。

森の大分奥まで進んだけど、手元は月夜に照らされ作業はしやすい。


「なぁ聞いたかよ? この森に吸血鬼が出たって噂」


「それ2番隊のフレッドがこの前見たって奴だろ? どうせ見間違いだって」


俺は近くの騎士団員の会話に聞き耳を立てる。


――吸血鬼。

人間の身体に蝙蝠(こうもり)の翼と鋭い牙、人の生き血を食糧とすることで永遠の命を実現した存在。

もし遭遇なんかしたら死を覚悟しなければならないくらいくらい危険な魔獣だ。

まぁ、実際の目撃例も少ないから見た目も本当かどうかは分からないんだけど。


「おいノエル」


そんなことを考えていたらゴードン団長に声を掛けられた。


「は、はい?」


「以前、そっちの茂みで確認していない魔植物を見つけた。お前にはその写生を任せる」


ゴードン団長は少し離れた場所を指差す。

記録係は1つでも多くの新種を見つけ、この森の謎を解明する為の手がかりを探る必要がある。


「分かりました」


「よし、こっちだ」


言われるがまま俺は後を着いていく。


この時、俺は気付かなかった。

後ろで騎士団員同士が、目配せをしていることに。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



そして数分程度歩いただろうか。

俺達はポツンと生えた1本の木の前に辿り着く。


「あれだ、あそこの幹に生えた草だ」


俺は言われるがままに草に近付く。

図鑑を開き、目線を同じにして確認する。


「この根のうねり方は……ヤギリダケ、って言うみたいですね。冬虫夏草の一種で――」



ドスッ



途端、

目の前のヤギリダケが赤く染まった(・・・・・・)


「え」


銀色に光る剣が、俺の腹から(・・・・・)伸びている。

後ろに目を向けると、ゴードン団長が剣を握りながら下衆な顔を浮かべていた。


「ふん、死霊術師でも通う血は赤いか」


彼はそう言いながら突き刺した剣を抜き、滴る血を地面に払った。


「な、なんで……!?」


口から血が溢れ、何が起こったのか理解したのと同時に激痛が襲う。


「なんで? よくもまぁそんなことが言えたなぁ」


「う、ぐぐ」


俺は地面に倒れ込む。

腹から流れ出る血、脚には力が入らず立ち上がることは出来ない。


「簡単なことだ。ノエル、お前は邪魔な存在になったんだ」


「……ゔゔゔ」


「遂に、ワイズマン卿の御屋敷にも聖女がやってくるのだからなぁ!」


ゴードン団長は高らかに笑った。

そんな話、初めて聞いた……!?


「そ、そんな、でも俺は、魔祓いの……儀式を!」


「あの街に魔獣が来ないのは騎士団総出で魔獣の巣を潰したからだ、お前のお陰ではない」


そう言われて俺は言葉が出なくなる。

確かに俺自身、魔祓いの儀式の効果を実感していない。


「いくら魔獣被害が0とはいえ、聖女が顔を見せないのでは民達は不安な日々を送る事になる。今まで街に聖女がいる風に工作をしてきたが……ようやくその日がやってきた。お前は聖女が来る間の繋ぎ(・・)だったんだよ」


ゴードン団長は淡々と話す。

俺の存在は街では公にされておらず、自由な外出が出来ないのも『街に死霊術師がいる』という噂が広まるのを防ぐ為だった。


しかし、

だからと言って背中を刺されていい理由になんかならない。


「口封じの為に、お前には死んでもらうぞ」


「こんな……勝手なこと、絶対に、許されない!」


「ほう、どうやら私の独断で行ったことだと思っているらしいな、冥土の土産に教えてやろう」


ゴードン団長は蹲る俺に顔を近付ける。


「――これはワイズマン卿の命令だ」


「……は」


俺の頭は真っ白になった。

あの暖かい言葉をかけてくれたワイズマン卿が、

神託の儀で絶望に打ちひしがれていた俺に、優しい笑顔で手を差し伸べてくれたワイズマン卿が……!?


「信じられない、とでも言いたそうだな」


「で、デタラメだ……そんなの!」


「残念ながら真実だ。いやぁ、ワイズマン卿もようやく英断を下してくれた……こんな小汚いネズミを屋敷に住まわせるのがそもそもの間違いなのだ」


「ワイズマン卿は、俺の信頼する人なんだ……!」


「まだ言うかこのネズミがぁ!」


俺は蹴り上げられ、仰向けになる。


「かはっ……!」


「助けでも求めてみるか? そもそも今回の生態調査自体がノエル、お前を始末する為に計画された物だ、貴様の悲鳴で他の団員はむしろ成功を喜ぶだろうよ」


「うぐうううう」


「お前に頼んだ人物は誰なのか、何で今回に限って外に出られたのか、よく考えたら分かることだ」


今まで信じてきた物がバラバラに崩れ落ちる。


『やってくれるね、ノエル君』


ワイズマン卿の言葉と笑顔が脳裏に映る。


嘘だ、そんな筈はない……。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!

ボロボロと涙が流れ出る。


「死霊術師に相応しい有様だ、お前はそのまま魔獣の餌になって死ね」


ゴードン団長は笑いながら立ち去る。


俺は置き去りにされた。

こんな深い森に、たった1人。


「は、はは」


視界がぼやけていく。

もう痛みの感覚すらなくなってきた。


月の光に照らされ、ただ死を待つだけの身体。

思い出が走馬灯のように駆け巡る。


いや、それもあまりいい思い出じゃない。

死霊術師の職を授けられた途端、周りから石を投げられ、虐げられた。


そんな俺を救ってくれたワイズマン卿も、結局は俺を利用し、騙していた。


もう終わりなんだ、何もかも。


そんな時、

三日月を背に、何かが空に浮かんでいた。


人の形、をしていた。

背中には蝙蝠の羽、月夜に照らされる金色の髪に赤い瞳、鋭い牙。

四肢はスラリと細く、女の子だと分かる。


「……吸血鬼、か」


彼女は俺を真っ直ぐに見つめ、ふわりと舞うと俺に近付く。

腹から溢れる血、吸血鬼にとってはご馳走に違いない。


それでも、不思議と救われた気がした。


「……誰かの役に立てるなら、いいか」


瞼を閉じる力も無く、瞳孔が乾いていくのを感じながら俺、ミストは死んだ。



================


――呪法『存在維持』を自身に付与しました

――呪法『(むしば)みの呪い』が発動しました

――ゴードン・マクスウェルに『蝕みの呪い』を付与しました

――ロバート・ヴァインベルグに『蝕みの呪い』を付与しました

――ライアン・エルンストに『蝕みの呪い』を付与しました

――アンドレイ・フェニキスに『蝕みの呪い』を付与しました


etc.


================



 


「……うーん」


気が付くと俺は軟らかなベッドの上にいた。

天蓋が付いた、如何にも貴族の使用する物と言った印象だ。


朧げな視界のまま見渡す。

部屋には豪華な絨毯が敷かれ、深い茶色の書棚に絵画、どの家具にも気品を感じる。


「……屋敷の、中か?」


「お目覚めですか」


ふと俺に語りかける声が聞こえる。

声の主は、口元に添えたティーカップをそっとテーブルに置いた。


金色の髪に赤い瞳、

翼は見当たらないが、間違いなく俺が死ぬ前に見た吸血鬼だ。


……ん?


「あれ、俺、生きて……?」


俺は剣で貫かれた腹を確認する。

傷は見当たらず、跡も残っていない。


「勝手ながら傷を治させていただきました、もう大丈夫です」


吸血鬼はゆっくりと頬を緩めた。


「私はベアトリス、この屋敷に住んでいる吸血鬼です」


ベアトリスと名乗った吸血鬼はスカートの両裾を持ち、ゆっくり会釈をする。

まさか助けてもらえるなんて思わなかった。

彼女は俺の描いていた吸血鬼のイメージとは違い、ただの可憐な少女に見える。


「この屋敷は森の奥深く、険しい谷を2つ程超える必要があるので普通の人間には来れません。安心して下さい」


「俺はノエル。君が助けてくれたんだね、ありがとう」


「いえ、私はただ傷を癒しただけです。心臓を動かしたのはノエル様ご自身です」


ノ、ノエル様……?

呼ばれ方に違和感を感じたが、それ以上に気になることがあった。


「俺が心臓を動かした?」


「はい、ノエル様は死霊術師で有らせられるようですね。一度死んだ自身の肉体に死霊術をかけ、

この世に止まる事に成功させるとは……永遠の命を手に入れたと言っても過言ではありません、お見事でございます!」


ベアトリスはぱちぱちと拍手をする。

俺は今まで魔祓いの儀式以外に死霊術を使ったことはない。

まして教わったこともない。

それで永遠の命と言われてもピンと来ない。


「どうされました、ノエル様?」


キョトンとした顔で首を傾げながらベアトリスは言った。


「ごめん、そんなことやった自覚がないんだ」


「左様ですか、無自覚なら尚のこと素晴らしいです!」


そう言いながら俺の手を包むように握る。

彼女の温もりを直に感じ、思わず頬が火照る。


「森の中で察知出来たのも、ノエル様から強力な呪いの力が流れ出ていたからなんです!」


呪い……また少し引っかかることを言ったような気が?


「ずいぶん死霊術に詳しいんだね」


「ここの本で勉強しました。別館の図書室には黒魔術の書物が沢山あるんですよ」


本棚から一冊の本がひとりでに離れ、彼女の手元に吸い込まれる。


「『死霊術の成り立ちと魔獣』、この本に記されていました」


ベアトリスは金の装飾が施された本の表紙を見せる。


黒魔術の書物……初めて見た。

俺が生まれるずっと前に全て燃やされたって聞いていたけど、残ってる物があるなんて思わなかった。


「どうやら……この御屋敷の持ち主は死霊術師だったようです」


「持ち主、ってことはベアトリスの屋敷じゃないの?」


「はい、私はあくまで空き家だったこの御屋敷に住み着いているだけです」


ベアトリスは悪戯っ子の様にちょっぴり舌を出す。


「でも、何でこんな見ず知らずの俺を助けてくれたんだ?」


「それは、私の個人的な願いの為です」


ベアトリスは俯くと、意を決した様に頭を上げた。


「――ノエル様、どうか私と契約して頂けませんか?」


「契約……?」


「死霊術師の方は皆、魔獣を従える力を備えています。契約した魔獣は更に力を増し、能力も進化します」


「どうしてそんなことを?」


「私は、太陽の下を歩きたいのです」


俺は思い出す。

吸血鬼は日光に弱く、少しでも浴びてしまうと身体は灰になってしまう事を。


「私は吸血鬼、たとえ永遠の命を持ってしても、あの美しい陽光の世界の中を過ごせないのです。そんな時、この屋敷の本でヴァンパイアロードの存在を知りました。太陽を克服した、吸血鬼の上位種だと……」


ヴァンパイアロード……数百年以上の間、言い伝えでのみ存在が語られた伝説の魔獣だ。


「ずっとノエル様のような死霊術の使い手を探していたのです……勝手なことを言っているのは分かっています! けど、それでも……私は!」


ベアトリスは捲し立てる。

けど、俺はまともに死霊術の事を知らない。

王国では基本、魔払いの儀式以外の死霊術の使用は禁止されている。

魔獣と契約が出来るのも初めて知った。

それに、もしベアトリスと仮に契約出来たとしても、ヴァンパイアロードに進化させる程の力が自分にあると思えない。


「買い被りすぎだよ、俺にはそんなこと出来ない」


俺は正直に今の気持ちを伝えた。


「数年前から森の南東の方角に行こうとすると身体がすくんでそれ以上進めないのです。今なら分かります……あれはノエル様の魔祓いの儀式だったのですね」


ベアトリスは古い地図を広げる。

大部分が森で埋め尽くされており、ポツンと屋敷の位置と思われる×印、その南東には……。


「……俺のいた街だ」


間違いない、名前も同じだ。

俺の魔祓いの儀式に吸血鬼を抑える程の力があるとは思わなかった。


「そして『死』を経験したノエル様は死霊術師としての力が更に増幅されているんです……!」


ベアトリスは涙目で訴える。

彼女は死にかけていた俺をここまで運んでくれた、助けてくれたことには変わりない。

初めて会った俺をこんなに信じてくれている。


「――わかった、やれるだけやってみる」


少しでも力になりたいからね。

そう言うとベアトリスの顔は、ぱぁぁと明るくなる。


「ありがとうございます! それでは、私の手をお取り下さい」


ベアトリスはベッドの横に立ち、ダンスに誘う貴族のように手を差し出す。


俺は、強く握ると壊れてしまいそうな、細く綺麗な彼女の手をそっと握る。


すると、

頭の中に女性の声が響いた。


============

――契約可能の魔獣を感知しました

――ベアトリス(吸血鬼)と契約可能です。契約を結びますか?

→はい

 いいえ

============


聞こえた……。

俺にまさかこんなことが出来るなんて思わなかった。


「ノエル様、どうされましたか……?」


「最後に聞かせて欲しい、本当にいいんだね」


「元より覚悟は出来ています。それを尋ねると言うことはっ……」


「一緒に陽の下を歩こう」


俺は頭の中で「はい」と答えた。

するとベアトリスの身体は輝く光を纏い、光の粉が舞い散る。

見た目は変わっていないが、頭に響く声が成功を伝えた。


============

――ベアトリス(吸血鬼)と契約を結びました

――契約により、ベアトリス(吸血鬼)は上位種のヴァンパイアロードに進化しました

============


「これが契約……とても暖かくて、ノエル様と見えない糸で繋がった、そんな気がします!」


カーテン越しの窓から、太陽が登って来るのが見えた。


「行こう……!」


「はい……!」


俺とベアトリスは手を握ったまま、部屋を後にする。


長い階段を駆け降り、

ステンドグラスが見下ろす大広間を抜け、

屋敷の扉を開ける。


「あ、ああ、あああ」


彼女は今、陽の世界の中にいる。

庭園の奥から登る太陽は、まるでベアトリスを歓迎するかのように陽差しを降り注ぐ。


「ずっと……ずっと……恋焦がれていた……太陽の下……ノエル様、本当にありがとうございます! 貴方は私の恩人です……!!」


ベアトリスはボロボロと涙を流す。

こんな俺でも、役に立てた。

今はただ、それが嬉しかった。


「ノエル様、貴方は相当な死霊術の使い手で間違いありません。そんなノエル様に使役して頂けるとは身に余る光栄です」


ベアトリスは片膝をつき、胸に手を当てた。


「やめてよ、そういういいから……!」


「私はノエル様に忠誠を誓います……これからはこのお屋敷で一緒に過ごしましょう!」


ベアトリスに再度手を握られ、動揺してしまう。

前までは死霊術師なんて大嫌いだった。

でも、こうして誰かを幸せに出来るのなら案外悪くないのかもしれない。


他にも死霊術の本があるって言ってたな。

俺はそびえ立つ屋敷を見上げる。


「ここで学べることがもっとあるはずだ……!」


もっとこの力のことが知りたい。

今の俺には、

永遠に近い時間と、それを共に過ごせる人に出会えたのだから。





ノエルが殺害された夜が明ける。

屋敷に戻ってきたゴードン団長は、ワイズマン卿の部屋に向かい報告する。


「ご命令の通り、ノエルは始末しました」


ゴードン団長は口の端を吊り上げる。


「彼には……悪いことをしたよ」


ワイズマン卿は背中を向けたまま言った。

しかし、台詞とは裏腹にその表情は微笑んでいた(・・・・・・)

決して嘲笑ではない、慈愛に満ちた笑顔。


「そんなことはございません! 私はむしろ素晴らしい判断だと考えます!」


「ありがとう、君のような部下を持てて私は幸せ者だ」


ワイズマン卿は優しい口調で話す。

普段から彼には笑顔が張り付いていた。

ノエルに見せていた温厚な顔は、あくまで表面的な物に過ぎなかったのだ。


「ノエル君の部屋の処理はどうかな?」


「既に済んでおります」


「手際が良い、美徳だね」


「もったいなきお言葉です」


「謙虚さも君の美徳だね」


言われてゴードンは一礼する。


「ところでゴードン、聞きたいことがあるんだ」


「は、何でしょうか?」


ワイズマン卿は間を空けると、問いかける。


「君はノエル君が、亡くなった瞬間を見たかい?」


「え……あ、いえ、私は」


ゴードンは言葉に詰まる。

彼は確かにノエルに致命傷を負わせた。

助からない身体にしたのは間違いないが、息絶える前にその場を立ち去っている。


「その、見たわけではありません……だけど背中を剣で刺し貫いたのです、まともに動くことは出来ないでしょう! きっと魔獣の餌に――」


「――見てないんだね」


ワイズマンの言葉にゴードンは背筋をゾクッと震わせる。

時折、ゴードンは彼の醸し出す雰囲気に圧倒されそうになる。


「はい、申し訳ございません……」


「まぁでも、剣で刺したのなら死んでるはずだよね」


ワイズマンはくるりと振り返り、笑顔を向けた。


「汚れ仕事をさせて済まなかったね、1番隊はゆっくり休むといい」


「はっ! 失礼致します!」


ゴードン団長は意気揚々と部屋を後にする。

彼はむしろ清々しさで一杯だった。

汚らわしい死霊術師を、この手で始末することが出来たのだから。

今回のような密命はいつも1番隊に与えられる、いわば精鋭部隊だ。


「そして私はその団長、将来安泰である!」


ゴードン団長は1人呟き、屋敷の騎士団専用の食堂に向かい、朝食を取る。


トレーに載せられた料理に果物、栄養バランスが考えられたメニューだ。


ゴードン団長はスプーンを手に取り、スープを掬おうとする、が。


カチャーンッ!


「ん……?」


スプーンが手から零れ落ち、床に落としてしまった。


「ちゃんと握ったつもりだったが」


そう思うと、すぐ指に違和感を感じた。

注視してみると、指がピクピクと痙攣している。


「?」


ゴードン団長は首を傾げるが、ほんの少し手に力を入れるとそれは止んだ。 


「疲れているのか……?」


そして彼は何事もなかったかのように、食事を済ますのだった……。


――『(むしば)みの呪い』

死霊術師が殺された際にのみ発動する防衛呪法。それは自身を殺した者、加担した者に返り血のように染み付き、身体を少しずつ、確実に衰弱させる凶悪な代物。


後にゴードン団長は、自分の行いを後悔することになる。



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