4 装備をもらう
「こちらがギルドの倉庫になります」
リーリア嬢によって連れられてきたのは建物の地下にある倉庫だった。降りて直ぐに扉がいくつもあるのには驚いたし装備や素材に薬などなど物によって管理している扉が違うらしい。さすがに大都市の冒険者ギルドの倉庫のためか異様に広そうだ。もしかしたら建物の土地よりも広く地下倉庫があるのかもしれない。
俺が入ったのは装備の部屋でその装備の部屋も広すぎて奥が見えない。奥の方から言いようのない異様な気配を感じるから強い武器などは奥の方にあるんだろうが、この圧迫されるような感じからしても今の俺が扱えるような品ではないだろう。強い武器で異世界無双など俺にはできないに違いない。
入り口近くにある物の多くは木箱に入っていたり蓋の空いた樽に突っ込まれるようにして武器が入っていることもある。いかにも数打ち、量産品といった感じだが樽ごとに作った人が違うとリーリア嬢が教えてくれた。
「念のため、呪いの装備などもあるので触れたりしないようにしてくださいね」
「うん、絶対に触れない」
この世界に呪いの武器があることを今知った。そういえば俺の薬袋に呪術解除薬ってあったけどそういうのに使うのかもしれないな。もちろん、触ったら一発であの世逝きも考えられるので絶対に触れない。命を大事に、だ。
「入り口付近だと銀貨数枚、あるいは銅貨で買える物になるので少しだけ奥に行きますね」
そう言われて連れられてきたのは入り口から少し奥に入った部分。なんか武器自体が僅かに光っていたりして特殊な効果があったりするのかもしれない。素人目線だけれど光ってない装備もどこか作りがしっかりしているような気がする。
そうですねえと言いながらリーリア嬢がこちらに振り返る。
「アキラさんから何かご要望はありますか?」
「扱いやすい物かな」
初めての異世界に加えて初めてのダンジョンなのだ。素人でも扱えるような物がいいけれど素人なのでなにがいいかなんて分からないのだ。
「ふむふむ。イシュタルの迷宮の10階層までは洞窟の構造になってます。なので長すぎる武器は初心者には不向きなんですよね。ですのでご要望通りの物が良さそうですね」
「やっぱりリーリアさんは詳しいんだな。装備のことリーリアさんに全部お任せしていいかな」
リーリア嬢はやはり元冒険者であるが故にダンジョンのことや戦闘のことにも詳しそうだ。素人があれこれ口を出しても変な装備になること間違いなしである。
俺のお願いにリーリア嬢はお任せくださいと笑顔で頷いてくれた。
時間にして数十分、リーリア嬢セレクトの装備が集まった。
「ブラックゲイツのレザーアーマーに疲労回復のブーツ、スノウラビットのバックパックに鉄のショートソード。マジックアイテムのブーツがあるとやはり値が張りますので他の装備は無理そうですが10階層までならこれで十分です」
「いや、十分すぎるでしょ。全身装備そろっちゃったじゃん」
この世界の物価がイマイチよく分かってないけれど恐らくこれって原価に近いんじゃないかな。金貨三枚で絶対揃わないでしょこの装備。
リーリア嬢は照れたような困ったような表情をしながら頬をかく。
「実はギルド長から多少便宜を図るように言われておりまして私としてはもらって頂けるとありがたいです。もらって頂けないと怒られちゃいます」
「そういうことならありがたく頂くけどそこまで気を使わなくても大丈夫だよ」
俺としては気軽に冒険を楽しみたいのだ。ギルドのよく分からないしがらみには捕らわれたくないし。
俺の言葉にリーリア嬢は真剣に頷く。
「もちろんアキラさんの冒険の邪魔はするつもりはないので安心してください。あ、このスノウラビットのバックパックに冒険で必要そうな道具詰め込んでおきますね」
「いや、全然そこまでしなくてかまわな……あ!リーリアさん出口に向かって走らないで!置いていかないで!」
断ろうとしたらリーリア嬢がスノウラビットのバックパックを手に凄いスピードで走りだした。おそらく倉庫の道具類が置いてある別の扉に向かうつもりなんだろう。ていうか速い、成人男性の全力疾走より絶対に速い。
何でいきなり強引になるんだ。これはリーリア嬢は絶対に金額の上限まで対応しようとしているぞ。バックパックの紐が結べないくらいパンパンにするつもりだこの人。
「ダメです!初心者はそうやって道具のことを軽視するんです!冒険を甘く見てはいけません!」
「なんでいきなりベテランらしいこというの?!それよりも呪いの武器があるところに置いていかないで!」
倉庫の奥の方を見ればまるでこっちにこいと言わんばかりに変な手が手招きしているように見える。絶対に危険物がここにあると確信できる。背中に冷たい汗が流れてきた。
そんな場所に置いて行かれるのはごめんなので俺は慌ててリーリア嬢が選んでくれた装備を持って出口へと向かって追いかけ始める。
そんなあたふたする俺を見てリーリア嬢はいたずらっ子のように笑うのであった。