初夜権を題材にした、胸糞転生話。
村長の息子として異世界転生した主人公は、許嫁の可愛い幼馴染がいた。ほのぼのとした村での生活は、いずれ来る幼馴染との幸せな生活を予感させた。
しかし、それも泡と消えてしまう。
ある日、領主が初夜権を行使して、生娘たちに順番に”祝福”を与え始めたのだ。
許嫁との仲睦まじい様子から、主人公は初夜権について知らされていなかった。
そしてその日、許嫁は領主の許へ連れられて行ってしまう。
そして、少しよそよそしくなって帰ってくる。
そこで主人公は、何があったのかを聞いた。
それから二人の関係には亀裂が入り始める。
村のみんなは「良いことじゃないか。」「これであの子も安心だ。」などと、処女の血の穢れが払われたことを、本当に心から祝っている。
しかし、それを主人公が呑み込めるわけがなかった。
そしてさらに、主人公を悲劇が襲う。
村社会において、外から血を入れることは重要事項だった。
村を襲う魔物を討伐した冒険者が望んだのは、主人公の許嫁だった。
まだ、主人公の手垢もついていない、許嫁だった。
その夜の主人公の心の裡の叫びは、いかほどだっただろう。
いっそ、前世の常識など持たなければ良かったと思ったことだろう。
ある日、領主が村の視察に来るという。
主人公は村長一家として領主と対応する必要があった。
許嫁も、主人公とともに領主を歓待する村長の一家との一員として、村長の家で様々な支度をすることになる。
当然、領主に給仕する若い娘役として、許嫁が選ばれることとなる。
それは、領主が泊まる客室に許嫁が給仕に向かった際の出来事だった。
主人公は、許嫁が主人公自身よりも丁寧に持て成される領主への憎悪を増していた。
だから、許嫁が領主の部屋にひとりで向かうことに、耐えられなかったのだ。
それが、単なるお茶の給仕であっても。
突然、客間に押し入って、領主へと切りかからんとする主人公。
それを、身を挺して”庇った”のは、許嫁だった。
剣が、肩口に食い込んで、それでも主人公を諫めようとする許嫁だった。
主人公のことを、愛していたからだった。
その瞳の力強さに、主人公は常識の違いと、許嫁の愛を理解した。
しかし次の瞬間、無情にも許嫁の首は刎ね飛ばされてしまう。切ったのは、領主だった。
これで、お前の過ちを赦そう、と言うのだ。
主人公にはどうすることも出来なかった。許嫁の頭と体を抱えて、愚かな自分を嘆き叫ぶより他に何も出来なかった。
月日は流れる。
とある村に、年老いた男がいた。
その男は酒が回ると、かつて、自分がいかに愚かであったか、ということを語って聞かせてくるらしい。
そして、見せたいものがあるだとか言って、とある場所へと連れていかれるらしい。
老人は、花畑が見えるだろう、かつて二人で一緒に耕して咲かせようと誓った花たちが見えるだろう、と言うらしい。
しかし乾いて固くなった土地があるだけだという。
そういえば。
その老人は、すでに力仕事も出来ず、村長一家のお荷物として死ぬことをだけを望まれている、と聞いた。