NTR魔王
異世界転生を果たした主人公。神に「愛する妻の様子を知りたい。」と願ってしまった。その願いのために得た、白雪姫の鏡のようなチート能力「千里眼」。しかし、妻は浮気していていて、実は主人公が転生したのも妻の企みだった。
激しい嫉妬と怨嗟の声を上げ「もう見たくない!」と叫ぶも、神は応えない。チート能力は、神が与えたもう能力であるから、主人公に制御できるようなものではないのだった。ゆえに、四六時中NTRに苛まれる主人公は、魔王と成り果てる。
次元の壁も超えて何でも覗き見ることができるチートで成り上がる主人公の心は、しかし晴れることなどなく、妻と間男との幸せな日常に目をつぶることもできない。
異世界で自分を慕ってくれる者に対しても、冷淡に接してしまう。もちろん、閨を共にするヒロインに自分勝手な行為を押し付けたり、泣き付いたり、ベッドで役に立たないこともしばしば。
時には、自分を間男に投影し、ヒロインを妻の名前で呼ぶこともあった。
それでも付き従う、魔族のヒロインの献身を、主人公は幾度となく踏みにじる。
そして、ゆえに家臣に付け入る隙与えてしまった。一瞬、気が緩んでしまったヒロインに近づく魔族の男。それは密会のようにも見えてしまった。
主人公の、前世の世界も現世の世界も覗き見れるチート能力によって、浮気を疑われたヒロインは、当然それを否定する。
しかし、盲目な主人公は信じず、崩壊へ向かう。
家臣が敵になり、唯一の味方のヒロインを信じず、負けて逃げ堕ちる主人公に、奴隷のようになって付いて行くヒロイン。
敗走の最中、何かを忘れたくて情事に耽る主人公とヒロイン。時には、ヒロインが身を売ることで食いつないでいく。それが、主人公をさらに苦しめた。
そして追手は迫り続け、住む場所も転々としながら、どんどん追い詰められていく。
終に主人公を見かけたという報告が途絶えて少し時が経つ。
かつて、主人公の家臣だった者が、辺境を捜索中に、ボロボロの小屋を見つける。
まさかと思って中を覗けば、そこには白骨化した遺体が二つ。どのような姿勢で亡くなればそうなるのか、二人の骨は並んでおらず、一か所にまとまっていた。
ただ、主人公が前世の知識で作らせた、いくつかの無価値なものが、その二人の片方が主人公であることを物語っていた。
かつての家臣は何を思ったか、その小屋を燃やして、何もなかったと報告する。
時は経ち、発見されなかった主人公たちが、どこかで幸せに暮らす、という物語になる。
そして黒幕の神は、高らかに笑う。