立役者のいない世界平和
いせかーい、異世界の事でした。
ある所に、白い胴着を着た男性と、オレンジ色の胴着を着た男性が道端で闘っていました。
その闘いの最中、白い胴着の男性は『波功拳』を、オレンジ色の男性は『虎擊拳』を、ほぼ同時に放ちました。
ですが、その『波功拳』と『虎擊拳』は、紙一重のところですれ違い、それに気付いたふたりは、間一髪のところでお互いの攻撃をかわします。
それから『波功拳』と『虎擊拳』の、宛の無い旅は始まりました。
『波功拳』は太陽の昇る東へ、野を越え、山を越え、海を越えて何処までも飛んで行きます……
そして『虎擊拳』も、太陽の沈む西へ向かって、野を越え、林を抜け、洞窟を抜けて行きます……
『波功拳』は飛び続けている間、色んな物を見てきました。
私利私欲にまみれた王様の命により、無理矢理、魔王討伐に駆り出される民衆の姿を……
そして『虎擊拳』も、西へ飛び続けている間、色んな物を目にしてきました。
悪逆の限りを尽くす魔王の力で、無理矢理、勇者狩りに駆り出される部下達の姿を……
ですが『波功拳』も『虎擊拳』も、ただ慣性に任せて飛び続けるばかり。どうする事も出来ません。
そんなある日でした。
私利私欲にまみれた王様は、朝早くから外の景色を見ようと窓を開けました。
……ああ、何て綺麗なんだろう……世界は我の為にある。そう考える王様。
……その時です。
遥か遠くから何かが飛んで来るではありませんか。それはどんどんどんどん大きくなり、王様に迫ってきます。
……それは『波功拳』でした。
王様は、見たこともない『波功拳』に呆気にとられるばかり。
そうこうしているうちに『波功拳』はどんどん近づいてきます。そして、とうとう王様とぶつかってしまいました。
『波功拳』は王様を激しく吹き飛ばすと長い旅に終わりを告げ、王様は地面で大口を空けながら、血だらけで絶命してしまいます。
時を同じくして、魔王城でも同じ事が起こっていました。
たまたま、魔王城の屋上に出ていた魔王。そこに、何処からともなく飛んで来た『虎擊拳』が背中に直撃したのです。
虚を突かれた魔王はどうする事もできず屋上から転落、帰らぬ人となりました。
これにより権力という呪縛から解き放たれたふたつの国は、お互いに和解、末永く幸せに暮らしました。
そして、道端で7日間と7時間7分7秒も闘っていた、白い胴着の男性とオレンジ色の胴着の男性も、お互いの勇姿を称え合い、固い握手を交わしていたのでした。
……おしまい。