消えた焚火②
レミアは、つかつかとベグダの側まで歩くと、二度と自ら動くことのない彼の体を冷たく見下ろして言った。
「国一番の剣士も、年齢には勝てないんだな。以前のベグダなら、これ位の人数相手に命は落とさなかっただろうに」
トファはかっとなって思わず声を荒げた。
「な、何を言っているんだよ!? 敵は10人以上もいたんだ。彼一人で一人残らず敵を倒して俺達を守ってくれたんじゃないか」
「家来が死んだところで、どうということはない。主を守って死ぬなら本望だろう」
「家来って、お前――、お前、まさか貴族なのか?」
「そんなものだな」
大きな功績を上げた者から王族に縁のある者まで、どの王国にも貴族が存在する。
彼らのほとんどは国の王に分け与えられた領土内に城を築き、膨大な金銀を所有し、領民の誰もが羨望する優雅な生活をしている。
領民との距離が近い小貴族もいるが、大貴族ともなれば自らを守らせるために傭兵や私兵、なかには魔法使いなどを雇う者もいるが、その多くは、主従関係がある以上、家来や使用人が命を落としたとしても泣いたり嘆いたりはしないだろう。
レミアが貴族の出ならば、彼が家来をどう扱うか想像に難くない。
だが、彼はベグダと2人だけで長い年月、生活を共にし、ベグダはその間ずっとレミアを守ってきた。
ベグダが家来だったとしても、悲しみ一つ感じてないように取れるレミアの言葉が、やはりトファには冷ややかなものに感じとれた。
「――俺は貴族に会ったことは無いけど、そんなものなのか? 俺には分からないけど、どちらにせよ、彼を早く弔ってあげよう。こんな冷たい土の上にいつまでも寝かせておくのは可哀想だ」