刺客
「だが、何も知らないよりはいい……」
ベグダはそう呟き、そして、思い立ったように立ち上がり、再び棚の方に向かった。そして、ランプと布を手にしてトファに渡した。
「今夜はもう遅い。狭いところですが休める場所へ案内しましょう」
「ありがとうございます」
案内された場所はレミアの入っていった洞穴の、隣の洞窟だった。
奥には干し草が積んであったが、人一人くらいは余裕で眠れるスペースがある。
「見ての通り、普段は干草用の物置にしているが、ここなら比較的温かく眠れるでしょう」
トファは礼を言うと、ベグダは焚火の方へと戻っていった。
トファは干草の上に寝転んだ。
そして、その日に起きた出来事を振り返った。
美しい青年、レミア――。
愛想が無く余り話をすることも出来なかったが、悪い奴では無さそうだった。しかも彼は命の恩人だ。
月明かりに、つい女性と見間違えてしまったが年齢も同じか少し年下で、明日にはもっと普通に砕けた話もできるだろう。
彼の身の上話なども聞いてみたい、そう思っているうちに、トファは吸い込まれるように眠りに落ちていった。
――バンバン!
突然、聞こえた大きな音にトファは飛び跳ねるようにして起きた。
夢か現実なのかも分からないまま、傍に置いていた剣を掴み、ベグダのいた焚火の方まで走っていった。
そこには消えた焚火の跡があり、代わりに洞窟の入口の方が心なし明るく見えた。
突如、ベグダがその入口から姿を現した。彼はトファの姿を確認すると、走り寄ってトファの手を掴んだ。
「刺客です! さあ、こちらへ!」
(刺客!?)
トファは予想もしないベグダの言葉に、ただ大きな疑問を胸に引きずられるように彼の後をついて行った。