洞窟
トファは、半ばがっかりしたような安心したような複雑な気持ちになった。
「あ、いや、森で人に会えるなんて本当に良かった。安心した……」
トファは、背筋を正して改めて、目の前の人物を見上げた。
まるで陶器で造られたような美しい顔の輪郭、男と分かっていながらも胸の高鳴りを覚え瞬きすら忘れそうになる。
「俺の名はトファ。森で迷ってしまって、もう2日目なんだ。君の笛の音が聞こえてきて、やっと茂った森の中から抜け出せた。助かったよ」
笛の主は、冷ややかな瞳でトファを見下ろした。月光に照らされた金髪がそよぐ夜風になびいていた。
「――俺の名はレミア。幼い頃からこの森に住んでいる」
トファは驚きに声を上げた。
「この森で生活を?! この森は呪われた危険な森と言われているのに?!」
レミアは、トファの動揺をよそに顔色一つ変えずに、岩場を飛び降りた。
「住めるから、ここにいる。ついてくるといい、死にたくないのなら」
すたすたと歩いていくレミアの後ろを、トファは踵を返して慌てて後をついていった。
レミアは、トファを森の中を少し分け入った先の小さな洞窟へと連れて行った。
人一人が屈んで入れる程度の入口だったが、進むにつれて広くなり、やがて洞窟内には、まばらに散る光る石が行く手を浮かび上がらせた。
(この辺りに光石が。高価で貴重な天然石だ――)
やがて普通に歩ける程の高さになり、そのまま進むと拓けた場所に辿り着いた。