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アストライオスの風  作者: 高輪せら
髑髏の森
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髑髏の森

闇夜が訪れようとしていた―。

梟の鳴き声が、森の静寂に怪しく響き、冷たい夜風が木々を揺らし過ぎていく。

そこは髑髏の森と呼ばれる不気味な森だった。

足を踏み入れば最後、生きて森の外に出られないという危険な森だと言われている。

この森の中を、無謀にも1人、彷徨う青年がいた。

「参ったな……」

叢に転がる人骨を見て、青年はそう呟く。

この森に入って2日。

進めば進むほど、緑が茂り、道という道もなく、方位を示す針も回り続け、なぜか方向を定めない。

危険な森というのは青年も知ってはいた。だが、彼はどうしてもこの森を越えて行きたい所があった。

 

額に嫌な汗が流れ続ける。

狼の鳴き声も聞こえる。

早く安全に休めそうな場所を見つけなければ、あちこちで転がっている髑髏の仲間になってしまう。

青年は疲労と焦りでふらつきながらも、目を凝らし必死で探す。

早く安全な場所を見つけなければ狼の餌食になってしまう。


その時だった。

なぜか笛の音が聞こえたような気がした。

こんな場所でまさかと思いつつも、再び耳を澄ませる。

微かな音色だが抑揚のある旋律が、確かに聴こえる。


青年――トファは走った。

笛の音が止む前に、その笛の主に何としても辿りつかなければならなかった。

その音色が幻聴でない事を祈りながら、夢中で叢をかき分けていく。


突然、飛び込んできた拓けた世界に、トファは驚いて足を止めた。

月光に照らされて煌く夜の湖面、その上を滑るように流れていく白い靄、トファは半ば夢を見ているような気持ちになった


ふと、笛の音が止み、トファは、焦って辺りを見渡した。

(どこだ?笛の主は)

岸辺の岩の上で、長細く黒い影が動いたように見えた。

トファは、その黒い影こそ笛の主だと思い、ゆっくりとその人物に近づき、手前まで行くと話しかけた。

「すみません、貴方が笛を吹いていたんですか? 道に迷っていたので助かりました」

その時、雲が流れ月の光が周囲を薄明るくし、黒い影の正体が明らかになった。

トファは驚いて言葉を失くした。

女神、妖精、もしくは天使、どちらにしろ、この世の者とは思えない程美しい人物が目の前にいた。

金色に光る美しい艶やかな髪、漆黒の闇と対照的な燃えるような赤い唇、そして宝石のように輝く碧い瞳―。

呆然と身動きできないトファに向かって、目の前の人物は澄んだ声で言い放った。

「別に、あんたを助けようと思って、吹いていたわけじゃない」


その言葉を聞いて、トファははっと我に返った。

よく見ると、その天使は男の格好をしていた。

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