06 私は誰でしょう
幾多の困難に耐え、努力を重ねて歩き続けて来た彼女はとうとう膝を屈してしまった。
私の好きな彼女は、この世界から退場することを選んだらしい。
もう歩けない、と彼女は言った。
もう頑張れない、と。
誰も頑張らなくていいと言ってくれなかったし、誰も頑張らない彼女の居場所になろうとしはしてくれなかった。
好きだった人達に助けて欲しかったけれど、それは叶わなかった、
唯一ただ一人に伸ばした手は、拒絶され振り払われた。
絶望した彼女は最後まで、誰かを嫌いにならないように努力していた。
限界がくるまで、最後まで、信じ続けたままでいた。
そうして、悲しい彼女はこの世界から退場したのだ。
生きて、生き続けて頑張る事を諦めて。
そんな彼女の最後を見届けた私は許せなくなった。
彼女にそんな終わり方を強いた世界が、彼女を助けなかった人間達が、そんな事になっているとはついに何一つ知ることなく、何かが終わった事すら気づけないでいる者達が。
ここにいる私は、彼女の代わりなのだ。
彼女の後を引き継いで、彼女の出来なかった事をして、彼女の志を組んで、彼女の為に生きていく。
私は私の生き方に不満はない。
何故ならば私と言う存在はそういう物だからだ。
ゼロが無である事という同じで当たり前の事、私の正体がどうだとか、何者だとか、そんな事はどうだっていい。些末な事に過ぎないのだ。
肝心なのはここにいる私は、そういう成り行きで存在して、そういう目的を持って存在している事だ。
従って、彼女の元いた場所の、その席を埋める様に私は存在している。
私は彼女が感じた事、思った事、見た事、聞いた事、ほぼすべてを把握し共有している。
能力も同じくらいだ。
だが、そこにいるのは彼女ではなく私なのだ。
まったく同じ人間などではない。
だが周囲の者は彼女がいなくなった事など気にも留めない。
同じ人間だと、変わってなどいないように扱うままだ。
何も気づかない、何も変わらない。
これほど愚かしい事が、嘆かわしい事が他にあるだろうか。
私はこの日常に苛立ちを隠せない。
人一人の生きた日常はそんなに軽い物ではない。
見せかけだけ同じである人間が、本物と同じ能力でその席に座ったくらいで、誤魔化せる様な存在ではないはずなのだ。
なのに、周囲の者達……いいや、私の大嫌いな彼らはその事実に一向に気づく気配がない。
私は彼等に言ってやりたい。
貴方方は一体誰を見ているのか、と。
まあ、言ったところで戯言と受け取られ、その言葉の意味に気づきもしないのだろうが。




