03 善意
私には許せない人間がいる。
私は彼女の事は知っているし、彼女の見たもの、彼女の感じたものはほぼ全て共有していると言っても良いが、感情は別だった。
彼女が好きだと思っている人間がいても、私が嫌いな事が多い。
その嫌いな人間の中で、嫌いの枠に収まらず、大嫌いの枠から飛び出して、許せないの域に達した人間がいる。
彼女はその者達の事が好きで、許しているのかもしれないが、私はとにかく嫌いなのだ。
顔も合わしたくないし、言葉も交わしたくない。
けれども何とも不幸な事に、その許せない人間達は、とても身近にいる者達だった。
当たり前のように共に過ごし、当たり前のように隣に居続ける事ができる人間達。
ただただ世間一般で言う、切っても切れない縁があるだけの他人。
彼らは許されざる事の多くを彼女にしでかした。
無自覚に彼女を傷つけて、己の事しか考えない。あまつさえ自分が仕出かした事に何一つ気づかず
いつも、いつだって正しい事をしていると思い続けている。
彼らは大抵はひどい人間だったが、気まぐれに彼女に親切を働く。
薄っぺらな偽善心を働かせて、善意という名の、悪意よりも業が深いそれを振り回すのだ。
ただの暇つぶしで、その場の空気で、良い人間を演じたいから、世間体が悪いから。
全てが自己中心的で、自己満足のもの。
たまに、彼女の為にやっている事だとそう述べはするものの、私も彼女もそんな言葉は一ミリも信じてはいない。
もしも、ありえない事であるが。
隠せるものならば、最後までその見るに堪えない醜い本性を隠し通してほしかった。
善意を装うのも、自分勝手にふるまうのも、百歩譲って構わない。だから、その心の底にある物を気づかれないだけの労力を払ってほしかった。
彼らが中途半端に行った善意の行動で、彼女はどれだけ嬉しく思い、そしてどれだけ傷ついたのか、微塵も思いもしない。
彼女はそれでも彼らを許してしまうだろうが、私は許せなかった。
どれだけ時間が経とうとも、許す事など出来そうにない。




