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6  召集

「ギャアアアアア!!!」


《レベルアップ! LV9からLV10になりました》

《ステータスポイントを入手しました》

《スキルポイントを入手しました》


 最後の一人を斬り伏せ、俺はようやく一息ついた。

 もうこの場にプレイヤーは俺とマインの二人しか残っていない。

 他の奴らは、逃げた奴以外全員殺した。

 数の暴力を相手にするのは中々に骨が折れたが、対大人数用の戦い方というものがある。

 立ち回りによって同士討ちを誘うのだ。

 このゲームでフレンドリーファイアは発生しないが、それはパーティーメンバーに対してだけの話。

 レイドクエストでもないのに複数のパーティーが共闘すれば、普通に同士討ちが発生する。

 

 相手の放った矢や魔法を他のパーティーを盾にして防ぐ。

 ダメージを稼げる上に、それ以降はフレンドリーファイアを気にして動きが固くなる。

 近接戦闘も同じく。

 他の奴に当てないように武器を振るのは意外と難しい。

 ましてや、この場に偶然居合わせただけの連中と連携をとるのは至難の技だ。

 その隙を突けば、一見絶望的に見える数の暴力も崩す事ができる。


 それでも俺の防御力を考えれば、一回か二回事故が起きただけでアウトだ。

 難易度の高い戦闘だった事に変わりはない。

 だが、それが良い。

 実に楽しい時間だった。


 結構な人数を狩ったおかげでレベルも大幅に上がった。

 おそらく、現時点ではトップクラスのレベル帯に到達しただろう。

 これほど経験値効率の良いレベル上げは早々ないからな。

 早速ポイントを割り振る。

 戦っている間はそんな暇がなかったのだ。

 そうしてメニュー画面を弄りながら、マインの所に戻った。


「うわああああ!!!」

「ムッ!?」


 突然マインが剣で斬りかかって来たので、あわてて大鎌で受け止めた。

 いや、マインとはパーティーを組んだままだから、斬られてもダメージは発生しないが……。

 それでも、突然襲われたら咄嗟に手が出るのが人間だろう。


「マイン。何のつもりだ?」

「お、お兄ちゃんが……!! お兄ちゃんが……!! お兄ちゃんが非行に走ったああああああああ!!!」


 ヒコウ?

 何を言ってるんだこいつは?

 

「うわああああ!!!」

「待て! 落ち着け! 何の話だ!?」

「とぼけないでよ!! そんな中二病全開の格好で人を襲うなんて……!! 立派な犯罪者だよ!! 非行に走った不良少年そのものじゃん!!」

「誰が不良だ!! そして誰が中二病全開だ!!」


 俺をあんな人種と一緒にするな!!

 このゲームでは、こういう格好が普通なだけだ!!


「ねえ? なんでお兄ちゃんは道を踏み外しちゃったの? 学校で虐められたりしたの? そのストレスをゲームで発散してるの? なんでそうなる前に私達家族に相談してくれなかったの!?」

「頭の中で勝手にドラマを作るな!! 俺は単純にこのプレイスタイルが気に入ってるたけだ! それ以外に理由などない!」


 たしかに学校では少し孤立気味だが、ただのボッチだ。

 断じて虐められている訳ではないぞ。


「うわああああ!!!」

「落 ち 着 け !!!」


 尚も剣を振り回すマインの頭に大鎌の腹を叩きつけた。

 パーティーメンバーの攻撃でダメージは発生しないが、殴られた衝撃までは無効化されない。

 それによってマインを地面に叩き伏せる。


「ハァ……。いいかマイン。俺はモンスターを狩るよりも、生産職をやるよりも、対人戦闘に楽しみを見いだしただけだ。それにこのゲームではPKも一つのプレイスタイルとして認められてる。お前が心配するような事は何もないからな」

「ぐすんっ……。本当に? ゲームとリアルの区別がつかなくなって、リアルでも暴れたりしない?」

「する訳ないだろ。どこの異常者だそれは?」

「……そっか」


 そこまで言ってようやくマインは落ち着いたのか、緩慢とした動きで立ち上がった。

 もう暴れそうな気配はない。


「ごめんね……。まさか真面目なお兄ちゃんがPKに手を染めてるとは思わなくて。思いっきり動揺しちゃったよ」


 動揺どころか、もはや錯乱していたぞ。

 まさかこんな事で実の妹に剣を向けられる事になるとは思わなかった。

 

「でもでも! PKは色んなゲームで嫌われてる行為だからね! ゲームを楽しむのは良い事だけど……程々に自重してね!」

「善処する」


 まあ、頭の隅に置いておく程度には意識しておこう。


 と、そこでピロリンという音が聞こえた。

 メールの受信音だ。

 俺はメニューを開いてメールボックスを弄り始めた。


「お兄ちゃん? 何してるの?」

「メールだ」


 このゲームでは、メールや通信の際の音は当事者にしか聞こえないようになっている。

 隠れている最中に敵に聞こえでもしたら致命的だからな。

 だからこの音もマインには聞こえていなかったという訳だ。


 俺は新着のメールを開いた。


『ギルド跡地にて待つ』


 簡素な文章。

 差出人は……あいつか。

 無視してもいいが、さてどうするか?


「誰からだったの?」

「β版の時に所属していたギルドのギルドマスターからだ。召集のメールだった」

「おお! お兄ちゃんの所属ギルド! 興味ある! 行きたい行きたい!」


 マインがそう言うのなら行くか。

 今日はこいつに付き合うという約束だから無視しようかとも思ったが、本人が行きたいというのなら別にいいだろう。

 俺は「妹を一緒に連れて行く」という内容の返信をしてから、変装を解いて街に向かった。


「ねえねえ! ギルドってどんな感じだったの? 楽しかった? 友達とか出来た?」

「母さんのような事を聞いてくるなお前は……。まあ、俺の所属してたところはかなり緩い感じだった。各々が好き勝手にやって、必要な時だけ協力する。だが、メンバー同士の仲は良い方だったと思うぞ」

「へ~! 早く会ってみたいな~!」


 そんな話をしている間に街の正門を通り過ぎる。

 中に入るのではなく、街の周囲を囲む城壁に沿って歩いた。


「ねえ、お兄ちゃん……? 門通り過ぎちゃったよ? こっちでいいの?」

「ああ。こっちで合ってる」


 そこからさらに歩いた所で、ごちゃごちゃとして汚い雰囲気の場所についた。

 スラム街だ。

 設定としては、街の中に入れない貧乏人や荒くれ者、ならず者といった連中が集う場所となっている。

 その証拠に、世紀末のチンピラのようなNPCをよく見かけるようになった。


「ねえ、お兄ちゃん!? 本当に! 本当にこっちで合ってるの!?」

「合ってる」


 不穏な空気を感じとったマインが悲鳴のような声で聞いてきたが、黙殺する。

 行きたいと言ったのはお前だ。

 まあ、チンピラに襲われるようなら助けるが。


 スラム街の表通りとも言える場所を歩く。

 ここも一応は街。

 ボロい建物や怪しげな店舗が建ち並んでいるが、建物があれば街道もある。

 街道になっている場所が表通りだ。


 だが、目的地はここにはない。

 俺はさらに裏道に入った。

 マインが尻込みしながらもついて来る。

 スラム街の裏道。

 それはチンピラという名のモンスターが襲いかかって来る危険ゾーンだ。

 表通りでもそれは変わらないが、遭遇率が違う。

 まあ、スラム街とはいえ、ここは始まりの街。

 そんなに強いチンピラNPCはいない。

 注意していれば、レベル5くらいの力でも突破できるだろう。

 マインはギリギリだな。


 幸いにしてそんなイベントは起こる事なく、目的地に辿り着く事ができた。

 隠れた場所にある一件の酒場。

 β版の時のギルドホームだ。


 その扉を開いて中に入る。

 前に来た時とは内装が違う。

 β版の時は内装を弄っていたんだが、さすがにそれは初期化されているらしい。

 今はただの殺風景な場末の酒場だ。

 

「待っていたぞ。我が同胞よ」


 そして、酒場のカウンターに足を組んで座っている、目元を覆うタイプの仮面を付けた一人の男。

 バーテンダーもいないのにグラスを手の中で弄んでいる姿は滑稽だが、本人はかっこいいと思っているのだろう。

 口は挟むまい。


「そして、ようこそお嬢さん。我らが夢の跡地、闇ギルド『サクリファイス』の本拠地へ! フハハハハハ!!」


 突然マントを翻して笑い出すな。

 ウチの妹が引いてるだろうが。


「お、お兄ちゃん……この人……何……?」

「こいつは……」

「おっと! 自己紹介が遅れてしまったな! 誠に申し訳ない。───私は闇ギルド『サクリファイス』ギルドマスター! 『深淵』のカタストロフ! 以後お見知りおきを! フハハハハハ!!」


 マインが理解できないモノを見る目でカタストロフを見ていた。

 こいつがお前の会いたがっていた奴だぞ。

 β時代、俺が所属していたギルド『サクリファイス』のギルドマスターにして、


 生粋の中二病患者、カタストロフ。

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