36 討伐作戦を終えて
「では! リベンジ達成を祝して! 乾杯!」
ダークマター討伐を終え、王道騎士団の標的が俺達に移る前に、それとサクラの我慢が限界に達する前に撤退した俺達は、ギルドホームで祝勝会をしていた。
カタストロフのテンションがやたらと高い。
だが、もうすっかり、いつも通りだ。
どうやら、精神崩壊は避けられたようだな。
いや、この場合はキャラ崩壊というのだったか?
よくわからん。
「それにしても、キョウ。あなたが一対一で苦戦するなんて珍しいわね」
「……見てたのか」
「ええ。あの忍者が割りとあっさり片付いたから、チラッとね」
サクラに指摘され、少し悔しい思いが沸いてくる。
あの時、カタストロフの援護がなければ、俺は破壊王に負けていたかもしれない。
それは事実だ。
勝ちはしたが……勝利の実感はないな。
「まあ、相性も悪かったし、状況もあなたの苦手な乱戦だったし、仕方ないとも思うけれどね」
「いや、それは言い訳になる」
「……ストイック過ぎるのもどうかと思うわよ。これはゲームなんだから、程々に力を抜いて楽しまないと」
全身全霊でリア充狩りをしてる奴に言われたくないが、まあ、言っている事は正論か。
たしかに、言い訳をしようと思えば、いくらでもできる。
攻撃力極振りの俺は、破壊王やマックスのように、相討ち覚悟でカウンターを狙えるような防御力を持った相手が苦手だ。
しかも、そんなのと戦いながら、乱戦で周囲にも気を配る必要があった。
初日のような連携の取れていない、装備も整っていない雑魚相手ならともかく、破壊王のような強敵を相手にしながら、そこそこのレベルに達した集団にまで気を払うのはキツイ。
そんな不利な状況でも、なんだかんだで勝ちを拾えた。
味方の力を借りたとはいえ、勝ちは勝ちだ。
なら、深く考えず、素直に喜んでおいた方がいいか。
サクラの言う通り、これはゲームだしな。
「それもそうだな」
「ふふ。いつもの調子に戻ったわね」
「貴様ら! 何を静かに飲んでいる!? ここはもっとパーッと騒ぐところであろうが!」
俺とサクラが話している間に、カタストロフはすっかり出来上がってしまったようだ。
ゲーム内の酒にアルコールは入っていない筈だが、雰囲気に酔ったのだろう。
特に、カタストロフにとって今回の酒は、格別に旨い勝利の美酒だろうしな。
そうして、酔ったカタストロフが延々とテンションを上げ続け、宴はまだまだ続いたのだった。
◆◆◆
数時間後。
カタストロフが「リアルで二次会をするぞ!」と無茶な事を言い出した辺りで、俺は後の事をサクラに託してログアウトした。
サクラに恨みがましい目で見られたのが少し怖いが……まあ、今度機嫌を取っておこう。
VRギアを外し、ベッドから起き上がって部屋を出る。
喉が乾いたからと適当に冷蔵庫を漁っていると、同じくログアウトしたらしい舞と出くわした。
「あ、お兄ちゃん! お兄ちゃんも、お疲れ様。大活躍だったじゃん」
「ああ、お前もな」
そのまま、俺は茶を、舞はオレンジジュースを冷蔵庫から取り出し、それを飲みながらリビングで少し話す。
舞曰く、剣聖は俺によろしくと言っていたらしい。
それを素直に受け取るかべきか、それとも「次は君の番だ」的な宣戦布告と受け取るべきか。
悩むな。
「それにしても驚いたよ。ユリウスさんがお兄ちゃんの正体知ってたなんて。
「キョウにもよろしくね」って意味深に微笑みながら言われた時は、心臓が止まるかと思った」
「大袈裟な」
別に、バレたからといって、そこまで問題はないだろうに。
不特定多数に知られると、ゲーム内で少し動きづらくなるというだけだ。
気にはするが、そんな心臓が止まる程、気に病むような事じゃない。
そんな話をしている内に、舞はジュースを飲み終わった。
「プハァ! さてと。じゃあ、私はゲームに戻るね」
「程々にな」
「わかってるって。今日は徹夜だ!」
「おい」
全然わかっていない、というか、聞く気すらないじゃないか。
そのまま、舞は走って自分の部屋へと入り、ガチャンという音を立てて鍵を閉めた。
誰にも邪魔はさせないとばかりに。
……まあ、夏休みの宿題はやらせているし、別に構わないんだが。
それでも、生活習慣が乱れるのは良くないだろう。
それに、徹夜でゲームとか、頭がおかしくなりそうだ。
とりあえず、夕飯の時になっても起きてこなかったら、メールを送ろう。
それでもゲームにのめり込むようなら、鍵開けして強制ログアウトの刑だ。
そんな事を考えながら、俺も自分の部屋へと戻った。
ふぅ……切りのいい所まで書けたかな?
という事で、またしばらく休みます。
再開予定は未定です。
すまぬ。
 




