35 『破壊王』
「おらぁ!」
大鎌と大剣はつばぜり合い、少しの間拮抗してから、俺の方が押し負ける。
やはり、パワーでは破壊王の方が上か。
押し負けた俺は、その衝撃に逆らわずにフワリと後ろに飛び、ノーダメージで着地した。
「くたばれ! へぶっ!?」
着地の隙を突こうとしたのか、襲いかかってきた雑魚を一刀両断する。
そして、間を置かず、破壊王に再接近した。
「そら!」
「《デスワルツ》」
「ぬおっ!?」
大剣の一撃を屈んでかわし、その体勢から、アーツによる回転斬りを仕掛けた。
狙いは足下。
まずは、機動力から殺す。
だが、破壊王は凄まじい反射で、これを防いだ。
避けるのではなく、逆に接近し、刃ではなく柄の部分を足で受け止めた。
これでは、威力半減だ。
ダメージは与えたと思うが、斬れなかった。
そうと認識した瞬間、俺は即座に横へ跳んで追撃を避けた。
同時に、引き技の要領で大鎌を一閃したが、それは当たり前のように大剣で防がれる。
……強いな。
剣聖並みか、それ以上の手応えを感じる。
だが、
「僕を忘れてもらっては困るね」
「あぁ!?」
その剣聖が、俺との戦いに集中していた破壊王を強襲した。
剣聖の一撃が、破壊王の背中を斬り裂き、反撃に振るわれた大剣はアイギスこと『鉄壁』が完璧に防いだ。
聖女の魔法が周りの雑魚を散らし、シャロの矢が申し訳程度に破壊王に突き刺さる。
他はともかく、シャロの攻撃はあまり効いていないように見えるな。
そして、破壊王の意識が剣聖達に向けば、今度は俺が斬りかかる。
周りを彷徨く雑魚が鬱陶しくて仕留めきれないが、確実にダメージは蓄積してきている。
「チィッ! 寄ってたかって袋叩きにしやがって! 恥ずかしくねぇのか!?」
「お前が言うな」
破壊王の反論を切って捨てる。
たしかに、俺も自分一人の力で戦いたいと思ってはいるが、これは共同作戦だ。
さすがに、こっちから話を持ちかけた手前、剣聖達に邪魔するなとは言えない。
悪いが、このまま死ね、破壊王。
そう思っていたのだが。
「とー!」
「ぐっ……!」
離れた所で戦っていたマインとサーベルが、率いる部隊と共にこちらへと乱入してきた。
戦っている内に移動してしまったのだろう。
あるいは、サーベルに誘導されたか。
結果として、この場は多くの敵味方がゴチャゴチャに入り乱れる乱戦となり、それぞれが自分の事だけで精一杯、協力は難しくなった。
だが、俺にとっては悪くない展開だ。
剣聖達はマインの援護を優先し、サーベルに付いて来た敵の方を相手している。
今ならば、そこまでの邪魔が入らずに破壊王と戦えるかもしれない。
俺は、とりあえず邪魔な雑魚を何人か斬り殺しながら、破壊王を狙う。
向こうも俺に気づいたのか、サーベルの援護をやめて、俺に向き直った。
破壊王の口元に笑みが浮かぶ。
「《バスタード》!」
「《デスワルツ》」
大きく振り下ろされた大剣のアーツを、回転斬りのアーツで相殺。
その際、回転の流れによって大剣を受け流すような形とし、大剣の上から大鎌を被せて、地面に押し付ける。
「あ!?」
そして、地面に押さえつけられた大剣の上に片足を乗せ、それを軸にもう一度回転。
「《デスワルツ》」
「うぉ!?」
破壊王は、咄嗟に大剣を手放して回避した。
思い切りが良いし、おそらく、それが最善の選択だろう。
武器に固執していれば、避けきれずに真っ二つになっていた。
だが、武器を失っては、俺の相手は務まらないぞ。
大鎌を、なるべく隙晒さないよう、コンパクトに振るう。
決して懐には入らせない。
大鎌の、俺の間合いで確実に仕留める。
その連続攻撃を防ぎきれず、破壊王の体にダメージエフェクトである赤い光が増えていった。
「なめんなぁ!」
ここで、破壊王が賭けに出た。
前にマックスがやったように、破壊王は片腕を犠牲にして大鎌の刃を止めにかかる。
だが、あの時よりも俺の攻撃力は大きく上昇している。
止めきれる筈もなく、大鎌は簡単に盾にされた左腕を切断して胴体に食い込む。
これまでの累計ダメージを思えば、これだけで死にかねない重症の筈だ。
だと言うのに、破壊王の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
何かある。
そう思った瞬間、破壊王が動いた。
「《正拳突き》!」
これは、格闘術のアーツ!?
アーツの力によって、瞬間的に加速した破壊王の拳が、俺の脇腹を抉った。
俺の紙装甲では、今の一撃だけで死にかねない。
ヤバイと思って咄嗟に回避したからこそ、脇腹だけで済んだのだ。
直撃すれば死んでいた。
「《百烈拳》!」
「くっ……!」
続く連続攻撃のアーツをなんとか避け、避けきれない分は大鎌の柄を盾にして防ぐ。
だが、懐に入られてしまった。
ここは、大鎌の間合いではない。
拳の間合いだ。
「形成逆転だなぁ!」
破壊王が笑いながら攻め続ける。
だが、調子に乗っているように見えて、打撃は正確。
下手を打てば、その瞬間に再び形成が逆転するとわかっているのだろう。
破壊王の拳に、油断はなかった。
「チッ……!」
思わず舌打ちが漏れる。
あと一撃だ。
おそらく、破壊王のダメージから言って、あと一撃を浴びせれば勝負はつく。
だが、その一撃が遠い。
拳はリーチが足りない代わりに小回りが利き、攻撃が素早い。
反撃に転じる隙がない。
「おらおらおらおらおら!」
「くっ……!」
キツイな。
あと一撃で死にかねないのは俺も同じ。
それが攻撃力極振りの宿命だ。
というか、ガードの上からでも少しずつ削られている。
《HP自動回復》がダメージを相殺してくれているが、長くは持たない。
どうにかして、隙を見つけなければ……!
「勝負ありだな! 死にやがれぇ!」
ここで大振りの一撃でも繰り出してくれたなら殺せるんだが、発言に反して、破壊王の攻撃は手数重視のままだ。
見た目に反してセコいというか、なんというか。
しかし、このままでは……
そう思った、その時。
「《ダークブラスター》!」
「何ッ!?」
どこかから飛来した闇の魔法が、俺と破壊王を呑み込もうとする。
咄嗟の判断で互いに距離を取り、俺は破壊王のラッシュから解放された。
魔法が飛んできた方向をチラリと見ると、親指を立てたカタストロフの姿が。
カタストロフ……!
まさか、お前の事をカッコいいと思う日が来ようとは。
あ、こっちに意識向けた瞬間、雑魚に殴り飛ばされた。
やはり、カタストロフはカタストロフのようだ。
だが、お前がくれたチャンスを無駄にはしない。
「クソッ! あと一歩のところで!」
腹立たしいとばかりに吐き捨てる破壊王を無視し、俺は上空へと飛び上がる。
そして、新たなるアーツを発動させた。
「《ギロチンスマッシュ》」
俺の体が、縦に回転しながら、ターゲットである破壊王へと高速で落ちていく。
その速度はアーツによって引き上げられ、見てからの回避では間に合わないだけの超速となっている。
いや、それなりに速度のあるプレイヤーならば、あるいは見てからでも避けられるだろう。
だが、俺は知っている。
破壊王は足が遅い。
おそらく、攻撃力や防御力にステータスポイントを集中させる為に、速度を犠牲にしたのだろう。
そんな破壊王に、この一撃を避ける事はできない。
高速回転した大鎌の振り下ろしが、破壊王に命中した。
「ぬぉおおおおお!?」
咄嗟に残った右腕を盾にしたのはさすがだが、それでは防ぎきれない。
デスサイズの刃は、右腕を斬り裂き、そのまま頭から尻までを通り抜けて、破壊王の体を縦に両断した。
「マジかよ。やるじゃねぇか」
最後にそう呟いて、━━破壊王は光の粒子となって消滅した。
《レベルアップ! LV22からLV23になりました!》
《ステータスポイントを入手しました》
《スキルポイントを入手しました》
「……レオンさんがやられましたか。仕方ありません。撤退しますよ!」
「逃がさないよ!」
「いいえ、逃げさせていただきます」
破壊王が死んだのを見て、サーベルが撤退を宣言した。
それに従わない者も多くいたが、そういう統率の取れていない連中など王道騎士団の敵ではなく、簡単に討ち取られていく。
だが、サーベルは宣言通り、指示に従ったメンバーの大部分を逃がしてみせた。
あっぱれだとは思うが、それでも俺達の勝ちだ。
こうして、俺達はリベンジを果たしたのだった。
 




