32 同盟を組む
会議が終わった後、俺は早速メールを送った。
送り先は剣聖だ。
前にパーティーを組んだ時、剣聖の方からしれっとフレンド登録されたのだが、それが役に立った。
『ダークマター討伐に対して同盟を結びたい』という感じのメールを送ったら、『とりあえず話し合いたいから、王道騎士団のギルドホームに来てくれ』という感じの返信がきた。
聞く耳は持ってくれたようだ。
まあ、あいつの性格を考えれば、いきなり断られる可能性は低いとは思っていたが。
という訳で、俺達は王道騎士団のギルドホームへと出向く事となった。
メンバーは、俺とカタストロフの二人だ。
サクラはリア充アレルギーが出るから無理だし、ハンターは口下手、武器子は話し合ってる暇があったら工房に籠る。
マックスにいたっては、半裸の変態として、王道騎士団には最悪に近い印象を持たれてるからな。
連れて来ないのが正解だろう。
それに、どうせ街中もギルドホームも非戦闘エリア。
俺達だけで行って袋叩きにされるという事はない。
ならば、人数が多くても少なくても変わらないという訳だ。
ポータルで王国騎士団のギルドホームがある第二の街に向かい、奴らのギルドホーム近くの路地裏でPKスタイルに変装してから乗り込む。
王道騎士団のギルドホームは、ウチの寂れた酒場とは比べ物にならない程に立派な建物だった。
中央ギルドには劣るが、それでも相当の敷地面積を誇っている。
さすが、大手の正規ギルド。
少数闇ギルドのサクリファイスとは格が違う。
そのギルドホームを見上げて、カタストロフが悔しそうに歯ぎしりしていた。
前提条件からして違うのだから、こういう面では勝てないとわかり切っているだろうに。
面倒な奴だ。
そんなカタストロフを引き摺って中に入ると、ザワザワと王道騎士団のメンバーと思われる奴らがザワめき出した。
「おい、あれって……」
「『死神』だよな? なんで、ここに?」
「お前、聞いてないのか? ダークマター退治で、一時的にサクリファイスと手を組むって話」
「なにそれ、キイテナイ……」
「ま、まあ、ついさっき決まった事だしな」
「フ、フフフ……」
隣を見ると、カタストロフが少し笑っていた。
注目されるのが嬉しいようだ。
賢者タイムは終わってしまったのだろうか?
そんな感じで少し待っていると、一人の女プレイヤーが早足で俺達に近づいて来た。
マインだ。
その顔は、本当に来たのか、とでも言いたそうな微妙な感じに歪んでいた。
「本当に来ちゃったかー……」
口に出しおった。
「じゃあ、とりあえず、こっちに来て。ユリウスさんが待ってるから。
行くよ、お兄ちゃ……」
「待て」
余計な事を口走ろうとしたマインの口を手で塞ぐ。
んーんー! と唸っていたが、知った事ではない。
そのまま、マインの耳元に顔を近づけて呟く。
何故か、一部の連中が歓声を上げた。
「この格好の時は知らない人で通せ。PKの正体がバレると面倒な事になる。
わかったか?」
マインが、コクコクと頷いたのを見て、手を離してやる。
まったく。
鈍い妹を持つと大変だ。
「失礼しました。では、こちらにいらっしゃってください」
「……別に敬語にしろとは言ってないぞ」
「あ、そっか」
そうしてマインに連れられ、会議室みたいな場所に通された。
ウチのギルドは、酒場の真ん中にテーブルを持ってきて会議していた事を考えると、酷い格差だ。
そして、その部屋の中心に剣聖はいた。
前にパーティーを組んだ時にいた連中もいる。
聖女と,アイギスこと『鉄壁』、それとシャロ。
あとは、幹部っぽい連中が数人だ。
ほぼ全員、どこかで見たような気がする。
おそらく、知らない内に殺した奴らだと思う。
「ようこそ。我が王道騎士団のギルドホームへ。歓迎するよ『死神』。そして『深淵』さん。
立ち話もなんだし、座ってくれ」
「ああ」
「……ふん」
カタストロフが若干不機嫌になっている。
自分が俺の後に呼ばれたのが気に食わないのだろう。
本当に面倒な奴だ。
俺はカタストロフだけを席に座らせ、俺自身はその護衛のようにカタストロフの背後に佇んだ。
こういうのが好きなんだろう、カタストロフ?
そして、俺の予想通り、カタストロフは一気に機嫌を直した。
面倒だが、まあ、扱えなくはない奴だな。
「それで、ダークマター討伐において、僕達と手を組みたいという話だったね。
僕達としても強い戦力は欲しい。
だから、手を組む事に異論はないよ。背中から斬りかかりでもしない限りは、ね」
「安心しろ。我らにもそれくらいのモラルはある」
「うん。それはわかってる。あくまでも確認の為だよ」
ぶっちゃけ、約一名、後ろから刺さないと保証できない危険人物がいるんだが……まあ、なんとか抑え込むしかないな。
できるだけ隔離する方向で検討しておこう。
「さて、それじゃあ作戦の詳細を話し合おうか」
「よかろう」
そうして、カタストロフと剣聖の間で話し合いが進んでいく。
途中、俺や向こうの幹部連中も口を出したが、特に問題はなく作戦が決まっていった。
その結果、王道騎士団が雑兵を抑え、俺達がダークマターの幹部級の相手をする事に決定。
連携を取るのは難しいと見て、完全に役割を分担した形だ。
これは俺が進言した事でもある。
目的は、言うまでもなく危険人物の隔離だ。
あいつと王道騎士団を同じ場所にいさせてはならない。
混ぜるな危険。
そうして、会議は大きな問題もなく、意外な程あっさりと終了し、
王道騎士団の準備を整えた一時間後に、ダークマター討伐作戦が決行される事となった。




