2 キャラクターメイキング
VRゲーム特有の眠るように意識が薄れるログインの感覚。
脳から身体への命令が遮断され、バーチャルの世界へと繋がる。
そうして気づけば白くて何も無い場所にいた。
アドベンチャーズ・オンラインの初期設定を行う場所だ。
β版の時も最初にここに来た。
そしてオープニングムービーが流れ出す。
『冒険者とは、何かを探し求める者の事である』
『何を求めるのか? それは何でもいい』
『未知の世界を、神秘を求め、それを解き明かす旅をするのも良いだろう』
『強さを、強者との戦いを求め、ただひたすらに己を磨くのも、また一興』
『はたまた、安穏とした平和な日常を求め、心穏やかな生活を送るのも悪くない』
『道を外れ、破壊を混沌を求めて、裏の世界を生きるのも、一つの道である』
『新たなる冒険者よ。君が何を探し、何を求め、どんな人物となるのか、それは君の自由だ』
『ただ私は、君を、君達の未来を祝福しよう』
『ようこそ! 冒険者達の世界【アドベンチャーズ・オンライン】へ!』
やたらと貫禄のある声と共に綺麗な映像のムービーが流れた。
この映像だけでも生粋のゲーマーならば心踊らせ、これから始まる冒険の日々に期待を膨らませる……らしい。
それくらいによく出来ているのだそうだ。
俺にはよく分からないが。
そして、オープニングが終わり、初期設定画面が出現した。
《プレイヤーネームを入力してください》
音声ガイドに従って目の前に出現した透明なディスプレイを操作し『キョウ』と入力する。
本名から一文字抜いただけの安直なネーミングだが、それで困る事もないし別にいい。
《キャラクターメイキングを開始します。アバターの容姿を設定してください》
《β版のデータを確認しました。データを引き継ぎますか? yes/no》
プレイヤーネームの次はアバターの設定。
ここでデータ引き継ぎを選べばβ版で使っていたのと同じアバターでプレイする事になる。
ちなみに、β版から引き継げるのは容姿とゴールド(ゲーム内通貨)、そして一部のアイテムのみだそうだ。
引き継ぎを拒否すれば全く新しいアバターを作る事もできるが、面倒なので素直にyesを選んでβ版のデータを使う。
すると俺の身体が変化した。
リアルでの自分の体からゲーム内で慣れ親しんだアバターの姿へと。
目の前に出現した大きな鏡で自分の姿を確認する。
身長や体格等は現実の体とほぼ変わらない。
俺はゲーム内での体が現実と違いすぎると動かしづらく感じるタイプだから仕方なくこうした。
本当ならゲームと現実の区別をきちんとつける為にリアルとは完全に違う姿にしたかったんだがな。
それでも顔立ちを微妙に弄ったり、髪や肌の色を白くしたり、目の色を赤くしたりと、変えられる所は変えている。
顔も1から設定すれば全くの別人になれるのだが、俺に絵心の才能はないらしく自分で作った顔には違和感しかなかった。
だからこうして微調整にとどめている。
それが一番自然なのだから仕方がない。
《初期ステータスを設定してください》
容姿の次はステータスの設定。
目の前のディスプレイに、【アドベンチャーズ・オンライン】の基本である、ステータス画面が表示された。
ーーー
キョウ LV1
HP 100/100
MP 50/50
STR(攻撃):0
VIT(防御):0
AGI(速度):0
INT(知力):0
DEX(器用):0
ステータスポイント 100
スキル
なし
スキルポイント 30
装備
武器:なし
頭部:なし
胴体:なし
右腕:なし
左腕:なし
脚部:なし
装飾:なし
ーーー
このステータスポイントを割り振って初期ステータスを決め、スキルポイントを使って初期スキルを習得する。
ステータスポイントは、HP、MPに振った場合は10ずつ、他は1ずつ上昇する。
スキルポイントは最下位のスキルを取得するのに10ポイント。
上位のスキルになるほど取得に必要なポイントが増える。
30なら基本の武器スキル一つと弱めのスキル二つか、強めのスキル一つという構成にするのが定石となる。
早速β版の時と同じ方針でポイントを割り振った。
ーーー
キョウ LV1
HP 100/100
MP 50/50
STR:50 〈+6〉〈+1〉
VIT:0
AGI:50 〈+1〉
INT:0
DEX:0
ステータスポイント 0
スキル
《大鎌:LV1》《攻撃力上昇:LV1》《速度上昇:LV1》
スキルポイント 0
装備
武器:『駆け出し冒険者の大鎌』
頭部:なし
胴体:なし
右腕:なし
左腕:なし
脚部:なし
装飾:なし
ーーー
俗に極振りと呼ばれる手法。
スキルは基本の武器スキルとステータス上昇系スキルを選択。
武器スキルにβ版でも世話になった《大鎌》を選んだ事によって、装備欄に初期装備の大鎌が追加された。
ステータスの+分は武器とスキルによるものだ。
この武器スキルのレベルを上げていくと、必殺技のような攻撃手段『アーツ』を取得できる。
そして、対応武器による攻撃力や防御力に補正がつくから、このゲームにおいては必須のスキルだ。
ロマン武器と呼ばれる大鎌に、ロマン仕様と呼ばれる極振りステータス。
案の定、知り合い全員にロマンの塊と言われたこのやり方だが、俺としては合理性を突き詰めた果てに選んだスタイルだ。
文句は受け付けない。
設定を終了させる為に決定ボタンを押す。
《キャラクターメイキングが完了しました》
《全ての項目の設定が終了しました。これよりゲームを開始します》
《いってらしゃい。【アドベンチャーズ・オンライン】の世界へ》
そうして白かった視界が晴れ、俺は最初期のログイン地点、『はじまりの街』の噴水広場に立っていた。
さて、ゲームスタートだ。