15 ラストスパート
血気に逸った奴の首を飛ばし、まずは一人斬り捨てる。
片腕とはいえ、プレイヤーを一撃で即死させるだけの攻撃力はまだ残っている。
そして、斬った後、すぐにバックステップで後ろに下がった。
直後、さっきまでいた場所に大量の矢と魔法が炸裂する。
「チッ! 外れた!」
「クソッ!」
「やっぱ速ぇな……」
「おい!! 俺らも巻き込まれるところだったぞ!!」
「俺なんか普通に当たったぞ!!」
「気をつけて撃てや!!」
「知るかボケェ!!」
「何だとコラァ!!」
口汚く罵り合いながら、それでも仲間割れまでは起こさずに俺を狙って来る雑魚軍団。
多対一という状況は初日の大虐殺にも似ているが、あの時とは根本的なところが違う。
初日の連中は他のプレイヤーに攻撃を当てるのを嫌がって動きが鈍ったが、今はバトルロイヤルの最中。
徒党を組んだとはいえ、あいつらは元々敵同士。
巻き込んで攻撃する事に、欠片の躊躇もない。
それで味方を殺ってしまっても、むしろポイントが増えるのだから。
巻き込まれる側である前衛は多少動きが鈍ったが、もう残り時間も少なく、今さら死を恐れる必要はない。
ぶつくさと文句を言いながらも、俺に突撃してきた。
こんな混沌とした軍団の中へ突っ込んだら、確実に死ぬ。
故に、バックステップで後ろへ後ろへと下がりながら、さっきの奴みたいに血気に逸って突出してきた奴だけを狩る。
遠距離攻撃は普通に避けるか、敵と障害物を壁にして防ぐ。
俺のHPは風前の灯火。
《HP自動回復》が多少は仕事をしてくれているが、それもないよりはマシという程度。
一撃でも食らったら終わりだ。
だからこそ、今は死なない事を最優先とする。
《残り時間4分です》
「ユリウスの仇!! 食らいなさい!! 《シャインストリーム》!!」
音声アナウンスが流れると同時に、ここで聖女が俺を狙って来た。
光の範囲攻撃魔法が、周りの雑魚軍団を呑み込みながら俺に迫る。
危ないが、ちょうど良い目眩ましだ。
これは使える。
俺は後ろを向いて全速力で走り、魔法を避けると同時に、雑魚軍団から距離を取った。
「もう一発……」
「あなたの相手は私よ」
「うっ!?」
俺に追撃をしようとしていた聖女に、サクラが斬りかかった。
向こうは放置してよさそうだな。
欲を言えばあいつらも倒してポイントを奪いたいが、今のHPでは危険すぎる。
女の戦いには手を出さないのが懸命だ。
そのまま裏路地に入って《隠密》で気配を消し、雑魚軍団を撒く。
「どこ行きやがった!?」
「逃げ足の速い奴だぜ!」
「でもよ、これって死神を敗走させたって事で、俺らの勝ちじゃね?」
「確かに!」
「確かに、じゃねぇよバカ共!! お前らは死神を見失うって事がどういう事かわかってねぇ!! いいか! 死神ってのはなぁ……ギャアアアア!!!」
死神は、気づいた時には後ろにいるものだ。
呑気に話していた雑魚軍団の一部を路地裏から奇襲した。
突然の不意討ちに対応できなかった5人ほどを一瞬で仕留め、再び路地裏に姿を隠す。
「チィッ!! ゲリラ戦になったか!!」
「死神の得意分野じゃねぇか!! ど、どうするんだ!?」
「落ち着け!! とにかく探せ!! 探すんだ!!」
「なるべく一塊になって動けよ! 単独じゃ良い的だぞ!!」
《気配感知》のおかげで、雑魚軍団がそこそこ統率のとれた動きをしているのがわかった。
これでは迂闊に飛び出せないな。
路地裏に潜みながら、少しでもHPが回復するのを待つ。
できれば腰の回復ポーションに手を伸ばしたいが、今は一本しかない腕がそれで塞がれてしまうのは危険だ。
ポーションを飲んでいる時に襲撃されるなんて事になったら、目も当てられない。
《残り時間3分です》
そして、時間は過ぎていく。
このままタイムアップでも俺はかまわないのだが、どうやら、そうもいかないらしい。
「フハハハハハ!! 困っているようだな死神よ!!」
建物の屋根の上に立った、それなりに豪華なマントを身につけた男が話しかけて来る。
見るまでもなく誰だかわかる。
「仲間のよしみだ。ギルドマスターとして、せめて私の手で葬ってやろ……」
一人で語るカタストロフに攻撃を仕掛けた。
武器の届かない距離、魔法の間合いにいるカタストロフを狙うには、遠距離攻撃を使わなければならない。
ナイフを投げようにも、右腕は斬り落とされ、左腕はデスサイズを持って塞がっているから不可能。
《鎌鼬》は予備動作が大きい。
故に、俺は現在使える最速の遠距離攻撃を使った。
《投擲》のスキルを使って、カタストロフ目掛けてデスサイズを投げつけた。
回転しながら飛翔する曲刃が、カタストロフを真っ二つに切り裂いた。
「は?」
間抜けな声を上げながら、崩れ落ちるカタストロフ。
「まさか、この私が……!! こんな、あっさりと……!!」
油断して話しかけて来るのが悪い。
そうして我らがギルドマスターは、実にあっさりと光の粒子となって消滅した。
「いたぞ!! あそこだ!!」
「チッ……」
だが、代償として、宙を舞うデスサイズを見た連中に居場所がバレてしまった。
しかも、デスサイズまで手放した。
持ち主から一定以上の距離が離れたアイテムは、自動でイベントリに戻って来るが、今はメニューを操作している暇もない。
腰のナイフを引き抜き、四方八方から迫って来る雑魚軍団に応戦する。
戦闘回避を優先して、ひたすら走る。
「逃がさない! 《ウォーターランス》!!」
「《アースランサー》!!」
「《速射》!!」
「《剛射!!》」
後ろから放たれる矢と魔法を《危険感知》に任せて察知し、回避する。
狭い路地裏では横には避けられない。
建物の間の壁を蹴ってジャンプし、森林エリアの時のように立体的な動きで避ける。
「化け物かよ!?」
「動きが人間やめてるな……」
「リアルチート野郎が!!」
後ろの集団は速度の差で撒ける。
問題は《気配感知》が捉えた、正面の曲がり角から近づいて来る集団。
対処にもたつけば挟み撃ちに合うだろう。
速攻でカタを付ける。
「見つけた!」
「今度こそ!!」
「殺ってやらぁ!!」
現れたのは3人。
即座に左足を軸にして右側へと飛ぶ。
壁に張り付きながらナイフを投擲し、一人目の喉に命中させる。
「なにッ!?」
まずは、一人。
間髪入れずに壁を蹴って距離を詰め、光の粒子になる直前の一人目に刺さったナイフを回収。
迎撃に振られた剣を屈んでかわし、逆手で持ったナイフでこれまた喉笛をかき斬る。
残り一人。
「このォッ!!」
籠手をつけた拳で殴りかかろうとして来る最後の一人。
俺はナイフから手を離し、格闘家と思われる女のパンチを、腕に掌を添えて軌道を剃らす事で、いなした。
「嘘……ッ!?」
そして そのまま手を伸ばし、女の首を掴んで締め上げる。
さらに腕に力を籠めて、その首をへし折った。
このゲームには痛みも苦痛もないが、現実ならさぞや苦しい死に方だろうな。
《残り時間2分です》
仕留めた3人組が光の粒子になって消滅する。
それを見届ける事なく、俺は再び走り出す。
手放したナイフを回収する時間も惜しい。
腰からまた新しいナイフを引き抜く。
そのまま走り続け、雑魚軍団が絶賛探索している路地裏を抜け、大通りに出た。
しかし、そこで想定外の奴に遭遇してしまった。
「あーーー!!! ここで会ったが百年目だよ!! さっきはよくも!!」
……ここでまたお前と会うとはな。
つくづく奇遇なものだ。
「マイン……!」
《残り時間1分です》
残り1分。
おそらく、これがラストバトルになるだろう。
その相手が、さっき斬り殺した実の妹というのも因果なものだな。
「手加減はしないぞ」
「上等だよ!! そっちこそボロボロだけど、私も手加減しないからね!」
「ふっ……それで良い」
そうでなくては、おもしろくない。
さあ、一緒にゲームを楽しもうじゃないか、妹よ。
そうして、このイベントの最後を飾る戦いが始まった。




