第七話 ※
順番待ちはスムーズに進んだ。
俺の後ろには人はいない。日暮れまでなんだろう、俺が最後だ。
衛兵にぶっきらぼうに話しかけられる。
簡易小屋のようなところに案内され、机を挟んで椅子に俺と衛兵が座った。
「身分証をだせ」
俺は用意していた返答をする。馬鹿じゃないから。
勇者の時の二の舞はしない。
「俺はこれから冒険者になろうとしてる。この国は初めてだ。師匠とともに山で修行をしていた。師匠にこのあたりに転移させられて、下界で武者修行をしようと山を降りてきた。街に入れてくれ」
衛兵はあっけにとられた顔をしている。
まあ、山の中からいきなり来たと言えばすんなりはいかないだろうが、これも異邦人の定め。仕方ない。
「お前、馬鹿なのか?修行って大工の修行か?お前大工だろ?」
あれ?予想と違う反応が・・・
「いや、大工じゃないし、馬鹿じゃない。」
「工具を持ってるじゃないか?」
「こ、これは武器だ・・・・」
「「「・・・・ぶはっ! あーっはっはっはっはっは」」」
話していた衛兵と回りにいた衛兵に爆笑された、、、バールか、、、こいつのせいなのか、、、あのクソ女神め、、、
「あは、あはは、はぁ、はぁ、はぁ・・おいおい笑わせるなよ。大工道具で冒険者になりたいって、お前死ぬ気か?」
「そうだぞ、冒険者は一番死亡率が高いんだ、簡単じゃないぞ」
となりの衛兵に言われた。
頭来たから衛兵を鑑定する。
【ステータス】
名前 スコット 年齢 34
職業 兵士
LV 21
STR 53
DEX 40
VIT 51
SPD 36
INT 13
MEN 22
スキル
剣術lv2 木工lv2
なんだよ、お前のがよえーじゃねえか。
しかも木工ってお前が大工じゃねーか!
まあでもレベル21でこのくらいがたぶん普通なんだな。衛兵だしこれで弱いってことはないだろう。
「おとなしくなったな。緊張してるのか?大丈夫だ、この街は犯罪者じゃないなら入街税を払えば誰でも入れるぞ。ほら、これに手を置け」
なんだよ、入れるんじゃねーかビビらせやがって
これはなんだ?まあ犯罪は犯してないだろうから、大丈夫だろ。と、鉄の板みたいなのに手を置く。すると手の下になにか表示されてる。
【ステータス】
名前 タカフミ=コンドー 年齢 20
職業 ハードボイルド
犯罪歴 なし
「・・・・・・・・」
「「「・・職業、ハードボイルド・・」」」
衛兵たちは、顔を見合わす。
「ぶはっ」
「「「ぶあぁはっはっはっはっはっ!!」」」
「はふっ!はは、職業、はふっハードボイルドって・・・あーっはっはっはっはっは」
「ひいぃ、止めてくれ!・・入街、ばふっ!」
「はひっ、はひっ、冒険者希望の大工のハードボイルド、あは、あーっはっはっは!」
「はぁ、はぁ、お前らいい加減にしろ。に、入街、、税、、銀貨一枚だ、、ばふっ!」
わかったわかった、喧嘩売ってるんだな。
こいつら、どうやって殺してやろうか・・・
いやでも、ここで殺したら街に1歩も入れず冒険者が終わってしまう。森の人に逆戻りだ。
いや、こいつらが悪いんじゃない、全てあのクソガキ女神のせいだ。
殺す、絶対だ。あいつだけは殺す。
バールのくだりから、俺は一言も話してない。くちを開いたら我慢ができなくなりそうだ。
怒りに震えながらも、森の人に就職するのを避けるため魔道具袋から銀貨一枚を机に置き、無言で立ち、街の門をくぐって中へと歩き出した。
後ろからまだ爆笑の声が聞こえてくる。黙って金払ったよ渋いなーとかかっちょいいとかも聞こえてくる。
馬鹿にしやがって、、、、、、
ここは異世界だ、もう殺してもいいんじゃないだろうか。これは日本人がここにいれば殺害動機に十分とわかってもらえるんじゃないだろうか。言い返したら負けと心に念じつつ俺は歩き続けた。
ふと、食い物のいい匂いを感じたと同時に、自分の体臭の臭さにも気づいた。
そりゃそうだ。まったく風呂にはいってない。風呂代わりといったら、浄化をしようとして頭から水をかぶったときだけだ。
いかん、思い出したらまた気持ちが落ちてきた。今は何も考えず飯を食おう。なにもかも空腹とクソ女神が悪いんだ。
門からまっすぐ続いてる道を歩いていると屋台が一個だけ残っている。
屋台の形跡はこの道沿いに20件ほどあるが、時間的にもう閉まったのだろう。俺は唯一開いてる屋台の前に来た。
「いらっしゃい、一本銅貨2枚だよ」
焼き鳥だ、いや鳥かどうかわからないが見た目はまんま焼き鳥だ。だがタレというものがないのか塩焼きのようだ。
「10本くれるか?」
「あいよ、毎度あり!銅貨20枚だ」
俺は魔道具袋から銀貨を一枚取り出す。
言い忘れてたが、銅貨100枚で銀貨一枚、銀貨100枚で金貨一枚、金貨100枚で白金貨一枚だ。
日本の相場に照らし合わせると、さほど大きくもないこの焼き鳥のようなものが銅貨2枚なら100円ってとこだろう。ということは銀貨1枚で5千円、金貨1枚で50万か。来栖も見得を張ったな。
俺は銀貨一枚を渡すと、オヤジに話しかけた。
「釣りはいい、俺はこの街がはじめてなんだ、少し教えてくれるか?」
「にいちゃん、いい漢っぷりだねえ!、いいよ今日はにいちゃんが最後の客だ、なんでも聞いてくれ」
「まず風呂屋はあるか?」
「風呂屋なんてねーよ、どこの貴族様だい?にいちゃんの国では風呂屋があったのかい?」
ああ、マンガの知識どうりだな。
「いや、なかったが大きな街だからあるかと思ってな」
「宿屋と娼館に行けば、お湯がでてくるが、あとは川にでもいくしかねーなぁ」
「そうか、この街で高過ぎず、寝床がいい宿ってのはあるか?」
「それなら、ほら、ここから見えるだろう。あの銀の鈴亭ってのがいいんじゃねーか?たしか一晩銀貨3枚だか4枚だったはずだが、お湯も結構でかい桶でもらえるし、ベッドはやわらかいって評判だぜ、ちと狭いらしいが」
十分だな、そこにしよう。でも最も大事な情報を掘り下げないとな。
「娼館っていうか、歓楽街があるのか?」
「どっちもあるよ、歓楽街の中に娼館がある。娼館の値段はピンきりだ。歓楽街はここの裏をもう少し奥に進めばそれっぽい雰囲気が見えてくるよ」
「そうか、悪いな、助かった」
「いやあ、こっちこそごちそうさん!にいちゃん!またな」
俺は、焼き鳥もどきをかじりながら銀の鈴亭にまっすぐ向かう。うん、焼き鳥だ。銀の鈴亭はぱっと見、5-6階立てに見える。辺りがもう薄暗いからか、入り口から暖かな光が漏れている。俺は暖かな光に包まれるように入り口をくぐる。
「いらっしゃいませ ようこそお越しくださいました。お1人でございますか?」
おお!日本のホテルのフロントのようだ。いい宿なんだな。
「1人だ、お湯をもらいたい。一泊いくらだ?」
「一番お安い部屋で銀貨2枚でございます。お勧めのお部屋は銀貨3枚でございます。お食事をお付けになるなら、朝と夕飯をセットで銀貨1枚頂きます。お湯をお付けになるなら銅貨50枚頂きます。」
「じゃあお勧めで頼む。お湯も頼む。石鹸ってのはあるのか?」
「石鹸でございますか?置いておりますが少々値が張りますが」
「かまわないいくらだ?あとタオルもあるか?」
「石鹸は銀貨10枚、タオルは銀貨1枚でございます。両方とも貸し出しではなく、お買い上げいただく形になります」
石鹸高っ!!銀貨10枚って5万かよ!本当に高級品なんだな。タオルの5千円も大概だが。
いや、もう日本円に換算するのはやめよう。ここは異世界だ、切りがない。この世界の相場になれることが大事だな。
まあ、高いならたくさん稼げばいいだけだ!!
「全部もらおう、それと7泊したい。毎日お湯つきで。今日だけはお湯を2人分くれ。石鹸は1個、タオルは2枚くれ」
「かしこまりました、少々お待ちください・・・・・・・・・・・では銀貨44枚頂戴いたします」
おお!計算はや!俺正解かどうかわからねーよ。まあ金払いがいいのを見せといたほうが、あとあといいことあるかもしれないしな。細かいこというのはやめよう。
俺は金貨一枚を魔道具袋から取り出し、カウンターに置いた。
「・・・・確かにお預かりいたしました。お返しは銀貨56枚でございます。 夕食と朝食は2階の食堂でお召上がりください。」
きれいに10枚ずつならんだ銀貨と銅貨をカウンターの下から取り出し、俺の目の前に並べた。
俺はそれを10枚ずつ魔道具袋に入れていく。
「お部屋は302となります。一時ほどあとにお湯をお持ちしますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「では、ごゆっくりどうぞ」
本当にいい宿だ。フロントは執事のように丁寧だし、俺の匂いで判断して先にお湯を勧めてきた。気が利く。こいつなら日本のホテルでも一流になれるんじゃないだろうか?高級ホテル行った事ないけど。
俺は鍵を受け取り、フロントの隣の階段を3階まで上る。電気はないはずなのに照明がたくさんある。魔道具かな。
鍵をあけドアを開けると、照明がついている。照明も調べたいがまずはゆっくりしたい。
俺は魔道具袋を備え付けのテーブルに無造作に置き、ベッドに腰掛けて一服する。
「はぁー やっと落ち着いたな~」
しかし、街についてからの俺の口調はなんなんだ。上から目線で話すつもりもないし、日本でもこんなんじゃなかったんだが、なんか偉そうな話し方になってしまった。衛兵にイラっとさせられたのを引きずってるのか、ハードボイルドの効果なのか。
ちょっと明日は気をつけよう。
一服して、タバコの吸殻をアイテムボックスに閉まってすぐ、お湯とタオルが来た。お湯は大きなたらいがふたつだ2人分だからな。
俺は一つのたらいの中に入り、まずタオルで体を濡らし、石鹸とタオルを使って頭から全て泡立てながら洗った。
洗い終わったら汚れたたらいの中でタオルをすすぎ、となりのたらいに移動して使用済タオルで泡を洗い流す。
未使用タオルで体を拭き、ベッドに腰掛けてまた一服する。
俺は夜の繁華街に行く気マンマンだったが、さっぱりした体が睡眠を求める。
娼館のことを考えつつ、夕食も食わずに眠りに落ちた。