第八話 ※
コンコン
「おはようございます。朝食のご用意が出来ております。2階へお越しくださいませ」
俺はベッドの中でノックで目を覚まし、ドアの向こうからの女の呼びかけで徐々に意識がはっきりしてきた。
とりあえず一張羅の作業服を着ようとしたが、臭い、かなり臭い。
石鹸でさっぱりした分、匂いがすごく引き立つ。
第一優先で飯食ったら服だな。替えの服は必須だ。
俺は魔道具袋を持って2階に降りると、メイドさんが待っていて俺の席に案内してくれた。
ちなみにメイドさんにはときめかなかった。元の俺と同世代だったからだ。
飯はハムエッグとよくわからない野菜のサラダ、あとフランスパンのようにかったいパンだった。
早く米が食いたい。めんどくさいことをすればすぐにでも食えるんだが、今はやることが多過ぎる。
冒険者ギルドに行ったり、服を買ったり、装備を買ったり、娼館に行ったり、娼館に行ったり、娼館に行ったりだ。
奴隷も気になるが、一発すっきりしとかないと正しい判断が出来ない気がする。
俺はさっさと飯を済ませると、鍵をフロントに預けて服屋を探しに出かけた。
昨日のオヤジに話を聞こうと思ったが、また銅貨がないのでちょっと面倒だ。街の奥のほうが少し高くなっていて、その上に領主の館なのか城なのかが見えるので、それを目安に奥に進んでみた。
ふと気づくと、目の前、いや、足元に人がいる。ガキだ。獣人だ。
「こんにちわ、おじさん、この街初めて?案内してあげよっかぁ?」
幼女だ、くそ女神の手先か?なわけないな。
幼女は栗色の髪に猫とおもわれる耳がついてて、それ以外はまったく人の子と同じ格好をしている。歳は7,8歳ってところか?頭からかぶるシャツのような上着を着ており、ズボンをはいている。服装ははっきりいってボロだ、汚れてもいるしほつれてもいる。靴は履いてない、獣人だから?
よく見ると、右手を開いて俺に差し出してる。
ああ、案内するから金をくれってことか、ストリートチルドレンか。こういうのに施しするとわらわらと寄ってくるからスルーが鉄板なんだが、せっかく異世界に来たんだ。ちょっとのっかってみるか。
俺はしゃがみこみ目線を合わせて、
「じゃあお願いしようかな、お嬢ちゃん」
そういって銀貨を手の上に置いてやると、幼女は花が咲いたような、ニパア!っとした笑顔で俺のズボンを掴んだ
「いいよ!案内してあげる!どこ行きたいぃ?」
「じゃあ服屋につれてってくれないか?」
昨日の教訓を胸に、なるたけ優しい口調で話す。
ちなみに俺にロリ属性はない。断じてない。絶対ない。しつこく言うとフリみたいだがないったらない。
「わかった!こっちよ!」
ズボンを掴んだまま少し裏路地に案内しようとした幼女は、俺が歩くと引っかかるようにとまった。
そりゃそうだ、歩いている人間のズボンを引っ張りながら歩いたら、お互いに歩きづらくて仕方がない。
幼女は俺を見上げたので、手を差し出してやるとまた嬉しそうな顔をして俺の手を引っ張りながら道案内を始めた。
「ここよ!」
うん、ここは無理。
ここは幼女が今着てるような服が売っている。店先にワゴンのようなものに山積みにされている服たちだ。
「こういうんじゃなくて、新品とかの服はないかな?」
「おじさん、貴族様なの?!」
「貴族じゃないよ、あとおじさんでもないよ、おにいさんだ」
「ふーん、そっか、じゃあ新品の服屋ね、おにいさん!」
幼女はまた俺の手をとり引っ張る。
裏路地方面から、メイン通りに戻ってきた。道を横断し服屋の前につく。
「ここよ!」
「そっか、ありがとう。ちょっと一緒においで」
「え?・・・・・・・」
幼女はためらったが、店に一緒にはいると女店員がこっちに早足で向かってきたが、幼女の姿を見ると怪訝な顔をする。俺はそれにかまわずこっちから切り出した。
「この子に靴を選んでくれ」
「「え?」」
店員と幼女が同時にびっくりした声をあげる。
「お客様失礼ですが、お客様の関係者で?」
「ちがうが?」
「この子は奴隷ですよ?」
こいつ奴隷だったのか!!店員はどこで判断したんだ? よく見ると首筋に茶色い首輪のようなものが見える。いや首輪じゃないな、刺青?絵?なんだこれ。まあでもコレで判断したんだろう。
ちょっとした偽善の心だったんだが、大事になってきたな。でもここで引き下がったらなんかかっこ悪い。幼女を見ると、なんか涙目になって俺を見上げている。
・・・・・俺の職の力を発揮する時か?
「知ってるがなんだ?知らない奴隷に靴を買ってやったら領主にしょっぴかれるか?」
「いえ・・そんなことは・・・」
俺はタバコを取り出し、タバコを咥えて火をつけた。
「すうー、はぁー・・・ならこいつを連れて、少しだけ大きめな靴を履かせろ。値段はいくらでもいい」
「は、はい かしこまりました!」
幼女はおろおろした顔を俺に向けているので、俺はタバコを咥えたまま片側の口角をあげて、幼女の背中を軽く押し出してやる。
幼女は後ろを向いたまんま、俺を見つめたまんま、トテトテ歩いていく。
3分ほどで幼女と店員は戻ってきた。
「なかなかいいじゃねーか」
「おじさん・・・・・・」
「おにいさんだ」
「おにいさん・・・・」
幼女は今にも泣き出しそうだ。
「たかが靴だ、なんてこたーねーよ。 俺も服を買うからちょっと待ってろ」
俺は俺の服を適当に店員に選んでもらうように頼む。チュニックのようなシャツとズボン、トランクス、靴下を5枚ずつだ。この世界にはゴムがあるようだ、トランクスにはゴムが通っている。
靴を試着した。日本でツッカケと言われてるようなサンダルと、登山靴のような丈夫な皮作りでちょっとだけハイカットになっているブーツもどきを買った。店員に銀貨40枚と言われたので、そのまま払った。もう相場は考えない。
幼女は俺の後ろに立って、声もあげず涙を流している。俺はタバコの吸殻をポケットに入れ、幼女に振り向いて、目線を合わせた。
「なんだ?泣くほど靴が嫌いだったか?」
「そんなこと・・・私・・こんなに優しくしてもらったこと・・・はじめてだから・・・・」
「いいか、お嬢ちゃん、よく覚えておけ、人生はつらい。長く生きれば生きるほどつらいことばっかりだ、でもな、たまーに嬉しいことがあるからつらい人生でもやってけるんだよ。今日お前には初めての嬉しいことが来た。これからもまたくる。だからそれを待ちながらつらい人生を生きていけ。」
「う゛ん!」
幼女は鼻水をずるずるしながら返事をした。
なんか、俺の後ろで女店員も泣いている。
「そら、もう行け、ありがとうな」
「ありがとーーーーー おにいさーーん!!」
俺は女店員に振り向いて
「じゃあ俺も行くわ、ありがとうな」
「あ゛り゛がとうございばしだ」
俺は服を魔道具袋に詰め込み店を出て、さらに一服をする。
これか・・・・・?これなのか・・・・・?これがハードボイルドか?
つうかハードボイルドとか日本でもやったことないわ。
そもそもハードボイルドの定義ってなんだよ、説明できる人いるのかよ。
まあ、ちょっとだけ女店員の態度がイラっとしたから、ハードボイルドを演じてみたが、かなり疲れたわ。
いや、いや、つうか俺ハードボイルドする必要あるか?でも一生この職業と付き合っていかないといけないなら、ちょっとは練習しないとな、正解がわからないけど。
俺は、宿に帰り服を着替えて、フロントに下りて執事のようなじいさんに話しかける。
「ここは洗濯とかってやってもらえるんかな?」
うん、話し方が迷走してる。どうしたらいいんだ。ハードボイルドを目指すのか、忘れるのか。
とりあえず何日かは色々試すか。変人だと思われる前にキャラを固定しよう。
「はい、行っております。一回銅貨50枚です。枚数の規定はありませんが、あまりに多い場合は銀貨1枚頂くこともございます。今お預け頂いて、お渡しは明日の夕方になります」
「ああ、じゃあこれをお願いしますね」
俺は作業服とTシャツとボクサーパンツと靴下を渡した。すげー臭いから恥ずかしいけど、異世界補正で気にしないとことにする。
服を預けたあと、俺は幼女を手放したことに後悔した。冒険者ギルドの場所がわからない。
あまりに金をばらまいて情報を集めたら、金持ちおにいさんとうわさになったら盗賊とかに襲われそうだ。
俺は歩き回って探してみることにした。
大通りをまた領主の館方面に歩いていると、鎧や剣を挿した人が建物の入り口あたりにわいわいしてる建物を見つける。
あれが冒険者ギルドだろう。俺だけ丸腰はまずいだろう。俺はテンプレってものを知っている。絶対生意気なガキだとか、冒険者のイロハを教えてやるとか絡んでくる奴がいて、戦闘になるんだ。準備はしていかなくては。俺はバールを左手に持ち、入り口に向かって歩く。
とうとう異世界での冒険者デビューだ、ちょっと緊張する。
入り口でわいわいやってた冒険者?はどっか行ったので、そのまま中に入る。
中はちょっと広いフロアになっていて、左手の壁に依頼書らしき羊皮紙がたくさん張られている。
右手には椅子とテーブルが数脚あり、二組の冒険者?が座っている。正面にはカウンターがあり、4つに区切られていてそれぞれにギルド員らしき人が受付についている。
カウンターの左隣には階段があり、上にいけるようだ。受付は左から女、おっさん、おっぱい、おっさんだ。右から二番目の女は絶対わざとだ。狙い過ぎている。
まだ娼館に行ってない俺には危険なので、一番右のおっさんの前に立つ。
「あのー、冒険者に登録したいんだが」
「はい、初めてですか?」
「この街に来たばかりだ」
「では、ギルドカードを作りますね。このカードのここに血をたらしてください」
おっさんは、カウンターの裏から木の板に鉄板が張ってあるようなものと、針を一本取り出してカウンターに置いた。
右のテーブルでひそひそ話が聞こえる。
「・・・・・ハード・・・・」
「あいつが・・・・・・・・ボイルド・・・・」
「・・・・大工・・・・・」
俺はキッとにらみを利かせて、右の冒険者たちを見る。ほとんどのやつが目を咄嗟に逸らしたが、その中の1人がニヤニヤ笑ってこっちを見てる。
そいつは立ち上がってゆっくりこっちに来た。
キタ、テンプレキタゾ
「あなたがハードボイルドさんですね?よろしくお願いします!」
「は?」
「いやーうわさは聞いてますよ、ハードボイルド(笑)さん!」
マジか、、、昨日の衛兵が言いふらしてるのか、、、、、、、
また予定がくるってきた。
「いや、なんのことだか・・・」
「とぼけなくてもいいですよ!山から降りてきてかっこいい工具を身にまとい冒険者業界に殴りこむイカしたハードボイルド(笑)さんが近々やってくるってうわさでしたよ!」
うん、もうこいつ殺したい。
もうバールで殴りつけそうになった時に
「いやー頑張ってくださいね!ハードボイルド(笑)さん!」
と言ってそいつとそいつの仲間は、笑いながらギルドから出て行った。
俺はうつむいた。
俺悟ったわ、テンプレの絡んでくる冒険者たちもさ、譲れないなにかがあったから絡んできてぶっ飛ばそうとするんだよな。それはもう異世界の理なんだよ。そう、それを我慢してたらもうそれは異世界じゃない!ただの法治国家だ!
よし!殴ろう!今殴ろう!
俺はバールを振りかぶり、そいつの背中から殴りかかろうとしたら
「君ぃ!落ち着きなさい!!」
俺の受付をしていたおっさんから怒鳴られた。
「いいかい?冒険者をやるなら血の気が多いのはダメだよ。もっと冷静に行動しなさい!」
「は、はい・・・」
おかしい、こんなのは異世界じゃない。テンプレはどこにいったんだ。俺が絡まれて、返り討ちにするまでが1セットなんじゃないんか?それがなぜ冒険者に激励(笑)されて、登録前からおっさんに説教されるんだ。
俺はおっさんに冒険者としての心構えとルールと言う名の説教を小一時間ほどされたあと、板に血をたらしたあと、それを受け取って出てきた。
俺は街の中央と思われる噴水のところに座り、一服した
ルールは普通のことだった。冒険者同士で喧嘩を売ったりするな、しても関知しないとか品行方正に努めろとか普通のことだった。
冒険者にはランクがあり、F~SランクまでではじめはみんなF、Bなんて稀、Aなら超一流、Sはこの大陸に3組しかいないとかそんな話だった。
しかし、気が滅入る。滅入る原因はどれもこれもバールと職業だ。
「はぁぁ」
ため息をついたときに、頭に何かがぶつけられた。ぶつけられたものが地面に落ちる。
「痛てっ」
足元を見ると、銀貨だった。
目線を前に向けると、15,6歳の男とさっきの幼女が目の前にいた。
「おい、お前だな!俺の奴隷に靴を買い与えたのは!」
「は、はぁ そうだけど・・・・」
「勝手なことをするな!俺のサリイには俺が買ってやる!靴をけちってたんじゃない!サリイはまだ俺のところに来たばかりなんだ!これから靴をかってやるはずだった!!服だってそうだ!!俺のサリイを連れ去ろうとしたのか?!」
「そ、そんなんじゃないよ、ただ靴がないからかわいそうだなと思って・・・」
「それが余計なことなんだ!! いいか! 俺がしてあげるつもりだったことを取るな!今後サリイに付きまとうな!!」
そう怒鳴りつけて、二人は去っていった。幼女は俺のほうを向いてペコペコお辞儀をしながら男についていった。
な・・・・なんなんだこれは・・・・・
門で笑われ、冒険者に馬鹿にされ、ギルドで笑われ、かっこつけた偽善は空回り、、、、、
なんだ、異世界は黒歴史製造所か?
恥ずかしい、むかつく、恥ずかしい、むかつく・・・・・
やばい、このままでは黒水晶の力がなくても、魔王になれそうだ。
この怒りをどうする・・・・・どうしたらいい・・・・
そうだ・・・・魔物だ、ウサギだ。魔物にぶつけてやる・・・・徹底的にぶつけてやる!!!!




