初陣
彼方:体を動かすことは肉体労働だが、頭脳労働でもある
さっそく、盗賊Aが斬りかかってきた。動きは速くも遅くもなく普通だ。左上からの斬撃を左斜め前に半身になりながら踏み込んで避け、マントの内に隠していた脇差を無防備な首目掛けて振り抜く。脇差を握る手に刃が肉を斬る感触が伝わってくる。盗賊は首から血を盛大に噴き出しながら倒れる。この出血量なら、回復魔法を使ったとしても戦闘は無理だろう。
まずは一人。やはり、たいしたことない、恐がっていたのが馬鹿みたいだ。
盗賊Bが来るが、まだ少し距離があるので足元に落ちている盗賊Aの剣を拾い上げる。右手には脇差、左手には盗賊の剣、別に二刀流がやりたいわけではない。慣れないことをしても痛い目を見るだけだ。
まだ、剣の間合いにはまだ遠いが、右下から左上へと、剣をおもいっきり振るう。それを見て盗賊Bは馬鹿にするように笑うが、気にせずそのまま剣をぶん投げる。盗賊Bの笑みが驚きに変わり、慌てて剣で防ごうとする。剣と剣がぶつかり、衝撃を殺せず盗賊Bは体勢を崩す。
剣を投げるのと同時に走りだしていた俺はその隙を見逃さず、心臓に向け刃を突き刺す。刀身が半ばまで埋まる。二人目。
突き刺さっている脇差を引き抜こうとするがなかなか抜けないので、左手で盗賊Bの体を押しながら、引き抜こうとしていたら、盗賊Cがこちらの胸目掛けて槍を突き出してくる。
それを両手で移動させた盾で防ぐ。槍が盾を貫通するが、それでいい。これですぐには抜けない。実際、脇差は抜けなかったので、そのまま盾に刺さったままである。槍を抜こうと躍起になっている盗賊Cの懐に入り、小刀で首を斬る。三人目。
盗賊Dを見ると、後ろを向き逃げだそうとしている。投げナイフを取り出しながら、周りの様子を見る。残っている盗賊は四人、もう、こちらの勝ちかな。当たるかあまり自信はないが、盗賊Dにナイフを投げる。足に当たって倒れた。的の大きい背中を狙ったのだが、いいところに当たった。止めをさすために駆ける。
「ひっ、ひぃー! 降参する! 降参するから許してくれ!!」
剣を捨てながら、両手を上げて盗賊Dが降参する。
降参したからといって、油断はできない。警戒をしているのを悟らせないように傍まで行き、少し屈む。
「わかった、降参だな、そのまま大人しくしてろよ」
相手を安心させるように言う。
それを聞いて盗賊Dは、ホッと一息つき安堵したが、次の瞬間には、その表情が凍りつく。首から血が噴き出している。なぜ?と疑問に思いながら、盗賊Dは倒れた。
「敵に情けをかけるわけないだろ。殺そうと襲ってきたのに不利になったら、降参するなんて甘いんだよ」
脇差を回収して、周りを見るがまだ数人残っている。このまま護衛に任せても大丈夫だろうが、せっかく余裕があるので、実戦経験を積むことにする。
体から適度に力を抜き、足音を消し、盗賊に気づかれないように後ろから近づく。盗賊は護衛とやりあって、こちらには気づいていない。
つまらない。簡単に背後をとってしまった。まあ、雑魚だからしょうがない。目の前のことに精一杯で周りに気を配る余裕もないとは。首を斬り終わらせた。
盗賊と戦っていた護衛が俺の存在に気づいたようで、驚いた顔をしている。お前も気づいてなかったのかよ。
盗賊はあと三人しかいない。次の獲物をどれにしようかと思っていたら、一人逃げ出した。
逃がすか。先回りして退路を塞ぐ。
盗賊は走りながら斬りかかって来るので、全力で斬る。
剣と刀が激しくぶつかる。衝撃が手にまで伝わってくる。相手の剣のほうが重いけど、押し負けることはなかった。
盗賊は止まり、剣を前に構えるが、腰が引けている。
ちゃんと防げるように真正面から斬りかかる。当然、盗賊はそれを剣で防ぐ。そのまま、とにかく攻める、攻めて攻めて攻めまくる。正面から斬り合うことがなかったので、死なないように手加減をしながら斬撃を放つ。
一方的に攻めるだけでは、斬り合うって感じではないので、わざと隙をみせるが、すっかり腰が引けてしまって攻めてこない。
飽きてきたので、少し本気を出し一方的に斬る。盗賊は攻撃を受けきれなくなり、傷が増えていく。
そろそろ終わらせたいので、剣を持っている方の腕を深く斬り、袈裟斬りにして終わらせた。
周囲には盗賊の死体がころがり、生きている敵はいない。戦いは終わった。
俺は負傷している護衛の怪我を魔法で治してやる。馬車の反対側でも、なんとか盗賊を退けたようで、数人取り逃がし、護衛の冒険者が一人死んだ。あの程度の連中に殺されるなんて弱いな。
盗賊たちの死体を見て、顔を青白くして吐いている乗客が何人かいる。
何でこいつらは吐いているんだ? 死体の放つ臭いがくさいとかか? 嗅いでみてもそこまでくさくない。死体を見て吐くのは精神が弱いんじゃないか? 俺には理解できないなあ。まあ、理解できなくても問題ないしいいか。
盗賊の襲撃で馬車の車輪が壊されてしまったので、壊れた馬車は放棄し、後ろの馬車に乗れるだけ乗り、あとの人は歩くことになった。
誰が馬車に乗るかで乗客が揉めている。町まで歩いて二時間程度なので、まあいいかなと思い俺は歩くことにする。
彼方:弱肉強食、それが世の摂理




