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最後の戦い

ツバキとの別れを済ましてしばらく経った頃、準備ができたマリアが入ってきて、ローブと小瓶を渡してきた。小瓶には黒い液体が入っている。使用法をマリアに聞いて、受け取った小瓶を開け、中の液体を使う。効果があるかわからないが、うまくいったらいいなあぐらいに思っていた方がいいだろう。


ローブを着て、フードを目深にかぶる。最後に改めて装備を確認し、首から下げて服の中に入れているタグに触れる。


部屋を出て、マリアの後ろをついて行き、床に魔法陣みたいなのが刻まれている部屋に着いた。

この部屋は、各地の教会へ一瞬で行ける転移陣があり、これを使って敵の拠点に一番近い教会まで転移するそうだ。

マリアに促され転移陣の中に入る。マリアが転移陣の傍に立っていた男に合図を送ると、男が何かを唱えると転移陣がぼんやりと光り出す。光はだんだんと強くなり光に包まれる。


一瞬地面がなくなるような感覚に襲われ、よろめていてしまう。地面があることを確かめ、周囲を見るとさっきまでいた部屋に似た部屋にいる。本当に転移したみたいだ。



マリアに言われるまま付いてきているが、他に誰もいないのだが、まさか二人だけなんてことはないだろう。少し不安になってマリアに聞く。

「なあ、他に誰かいないのか?」


前を歩くマリアが振り向いて、安心させるように微笑む。

「勿論、他にもいますよ。今回の作戦に参加する執行官の皆さんには、先行して仕掛けることになっていますので、……今、着いたようですね」

「……は? どういうこと?」

初耳のことに驚いて聞き返す。俺、今回の主役なのに何も聞いてないんだけど? どういうこと?


「今回の作戦で先行組は敵を倒しながら、元勇者の元まで辿り着くのが役目です。先行組と視界を共有している私が目視での転移をカナタ様にして、元勇者と一対一で闘ってもらいます」

右目に触れながらマリアは答える。

「他の敵ごと私たちは別の場所に転移しますので、決して邪魔はさせません。安心して闘ってください。この戦いの勝敗はカナタ様次第ですので頑張ってください」

笑顔でそんな胃が痛くなるようなことを言ってくる。


やめろよな。プレッシャーかけてくるなよ。確かに俺が負けたら全滅するかもしれないけど、態々言うなよ。緊張してくるだろ。

俺がやることは、とてもシンプルだ。俺が死んだと思い込んで、油断しているだろう元勇者を勇者殺しを使い、不意を打って殺すことだ。言うのは簡単だが、もし、最初の一撃で決められなかったら非常に不味い。

ネガティブな事ばかり考えても気が滅入るだけだ。とにかく、俺にやれる全力を出し無事に帰る事だけを考えよう。胸元に手を置き、深呼吸をして、気分を落ち着ける。


敵の拠点である森の中にある放置された砦まで馬車で行く。砦まで行かないで、森の入り口で出番が来るまで待つみたいだ。転移で元勇者の元まで行くのだから、教会で待ってても良かったんじゃないかと思ったが、あまり距離が離れすぎていると転移できないから近くまで行く必要がある。


教会が用意した馬車に人目を避けるようにこっそりと乗り込む。御者はカナタと同じようにフードを目深に被り正体を隠しているマリアだ。着くまで中で大人しくするよう言われてので、初っ端から作戦が失敗するのは避けたいので言う事に従い大人しく馬車に揺られた。


先行組は脱落者を出すことなく、順調に砦内を進んでいるらしい。先行組の状況を見て、森まで馬車を飛ばしてきたので、案外早く着いた。


「先行組が元勇者と戦闘を始めました。もう少しで転移しますので、準備と覚悟をしておいてください」

「ああ、わかった」

答えながら、馬車に揺られた体を解すように軽く動く。


普通ラスボス戦とかだと暗雲が立ち込めていて陽の光が届かないものだと思っていたが、幌の間から顔だけを出し、仰いで見る空は雲一つない快晴だ。今からの戦いに曇っているか晴れているかなんて関係ないだろうが、天気が悪いより良い方が断然良い。


幌の中に顔を戻す。転移をしたら、すぐに闘いになる。勇者殺しを抜き、刀身を見ると薄っすらと光っている。自らの役目を、元勇者が近くいるのを感じているのだろうか? 左手を胸元に置き、一度タグを握りしめる。そうすることで力が湧いてくるような感じがする。


「カナタ様、準備はいいですか」

「いつでもいいぜ」

ローブを脱いで、不敵な笑みを浮かべながら言う。

「それでは、行きます。カナタ様の勝利を願っています!」

カナタの肩にそっと触れる。次の瞬間には、カナタの体はその場から忽然と消える。


決戦の場へと――――




戦闘の余波で壁や天井は崩れ去り、砦の原型を保てなくなり、瓦礫の山を築いている。至るところに灰の山ができ、空へと溶けていく。

先行組の執行官たちは傷がないところを探すのが難しいほど傷付いて、息も絶え絶えになりながら、それでも武器を振り、魔法を放ち、途切れれることなく攻撃を続ける。


腕に覚えがある者であろうと、何もできずに跡形もなく消えるだろう攻撃の波を前にして、元勇者は笑みすら浮かべて、悉くを防ぐ。元勇者が腕を振るう度に、執行官が血を流し、紙切れかのように吹き飛ぶ。魔法は、まるで太陽と見紛うほどの灼熱の火球を生み出す。そこにあるだけで、周囲の瓦礫が溶け落ちる。


それは、戦闘と言うには一方的な展開で、元勇者の独壇場だ。そんな状況に変化が起こる。不意に元勇者と対峙していた執行官たちが忽然と消えたのだ。



「……逃げたか?」

勝てないと思って退いたか。賢明な判断だが、その程度で逃げられると思っているなら甘い。すぐに追うべく転移しようとしたら、後ろに気配を感じる。


「ハッ! その程度で不意を突いたつもりか!」

振り向きながら、時間停止のスキルを行使するが――


「――――――ッ!?」

時間停止は不発に終わり、有り得ない事態に驚愕に目を見開く。


その隙を逃さず、元勇者の背後に転移したカナタは左肩から右腰まで袈裟切りにする。

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