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決戦前

……あの化物と一対一で闘えって? いやいや、冗談だろ? 百年以上生きている化物と闘って勝てると思っているわけ? どう考えても無理だろ。……俺が死んでいると思っているはずだから、その隙をついて奇襲すればどうにかなるか……? 


……もしかして、俺は囮で元勇者を封殺して、さっきは狙撃できないと言っていたが、光速の狙撃なら勇者殺しの効果が消えてから、元勇者が何かするより前に仕留めることができるんじゃないか? 


俺が闘うのが一番勝率が高いんだろうけど、完膚なきまでやられて、もう少しで死ぬとこだったのに、そんな相手にもう一度闘いを挑めってか? 考えるだけで、震えが止まらなくなるっていうのに。そもそも、俺には関係ないことだろ? だから、お前たちでどうにかしてくれ。俺を巻き込むなよ……


「……無理だ……俺には、できない……」

震える体を抱きしめながら、弱弱しく言う。


「……申し訳ありませんが、これはお願いでありません、命令です。カナタ様に拒否権はありません」

膝に置いている拳を握りしめ、冷酷に言い放つ。


「何で、俺なんだよ! 他の奴がやればいいだろ!?」

「これは、カナタ様にしかできないことです。教会では、元勇者に勝てる確率は低い、としか言えませんので……もし、教会が負けたら、今度はカナタ様の番ですよ」

「何だよ、今度は脅しかよ……」

「カナタ様が拒否されるなら、彼女たちを人質に取ることも厭いません」


「てめぇ――――!!」

それを聞いた途端、頭に血が上り、マリアの胸倉を掴み睨みつけていた。


「カナタ様に恨まれようと、勝つためには何でもします」

マリアは決意を込めた目で言う。言葉通り、本当に何でもするだろう。


「私達が負ければ、彼女たちにも被害が及ぶかもしれない事をわかっているのですか」

マリアから手を放して、両手で頭を掻きむしる。

「……ああ、くそ……わかった! やってやるよ!」

「ありがとうございます……それでは、これを受け取ってください」

そう言って、棒状の包みを渡してくる。それを受け取り、窺うようにマリアの顔を見ると頷いたので、包みをとる。


中から出てきたのは、鞘に入った白銀の剣だ。装飾の類は一切なく、ただ一つの目的のためだけに作られた事が一目見て分かった。剣を鞘から抜き放つ。刀身は、鏡のように磨かれ、カナタの姿を映している。


カナタが勇者殺しを鞘に納めるのを見てから、

「さっそくで悪いのですが、こちらの準備ができ次第、出発するので準備をしていてください」

「待て、用意して欲しいものがある――」

出ていこうとするマリアを引き留め、用件を告げる。


「……わかりました。ちゃんと用意しておきます」

今度こそ部屋から出て行ったマリアを見送り、ベッドに倒れ込んで、ため息をつく。


目が覚めたばかりだというのに、すぐ出発か。随分と急いでいるが、何か事情があるんだろう。時間が経つほど、決意が鈍りそうなので、早い事に越したことはない。さて、寝たままで鈍った体を解すか。


ベッドから出て、勇者殺しを抜いて構える。体の調子を確かめるように部屋の中剣を振って動き回る。

力が溢れてきて、体が妙に軽く、剣が羽のように軽い。身体能力を強化したと言っていたが、本当のようだ。どのような手段を使ったかはわからないが、体に害はないらしいので、よしとしておくか。


しばらく、体を慣らすために剣を振って、額にうっすらと汗をかき始めたころ扉が開き、ツバキが入って来た。剣を鞘に納めてツバキに向き直る。


「もう動いても大丈夫なのですか?」

「ああ、普段よりも調子がいいくらいだ……それに、準備ができ次第行くみたいだからな」

「……そうでしたね」

カナタの言葉を聞いても、驚いた様子は見えないとこをみるに、事前に知っていたんだろう。


「……アリサからの伝言を預かっています」

「……伝言? 何かあったのか?」

アリサの身を心配してツバキに問いかける。


「アリサは吸血種なので、教会の本部で騒ぎが起こらないように、部屋の外に出ないように言われていまして……アリサはずっと部屋に閉じこもって暇だと文句を言っているくらいです。それで、伝言ですが、教会の本部なんかに置いて行かれたら困るので、ちゃんと戻ってくる事、だそうです」

「ハハッ、確かにそれは困るだろうな……ちゃんと戻ると伝えておいてくれないか」

「わかりました」


行く前にアリサに会っておきたいけど、元勇者にカナタが生きている事を知られるわけにはいかないので、部屋から出たら駄目みたいだ。



「……それで、その……あの……」

両手でスカートを握りしめ、下を向き、ちらちらとカナタを見ながら、何か葛藤をするようにしどろもどろになっていた。

珍しいツバキの様子に何も言わず待っていると、決意を固めたようにカナタをまっすぐに見てくる。


「カナタに渡しておきたいものがあるの……」

そう言いながら、ポケットから細いチェーンがついた小さな銀色の金属板を二つ出した。手の中にある金属板を見て、一つをカナタに渡してきたので、受け取る。


金属板を見ると、何か文字が書いてあるので、よく見てみる。金属板には、ツバキの名前が刻印されている。

「ツバキの名前が刻印されているけど……渡す方間違えてないか?」

「ううん、間違えてないよ」

ツバキは首を左右に振り、もう一つのカナタの名前が刻印された金属板を首に提げる。


「カナタのタグは私が預かっているから、私のタグを返すためにも無事に帰ってきてね。私はずっとあなたの帰りを待っているから」

カナタのタグを胸元で握りしめ、カナタを見つめる。


「……ああ、約束するよ。必ず帰ってくる」

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