覚悟
「――アリサは右から! ツバキは後ろで援護を! 俺は左からやる」
「わかった!」
「援護します!」
後方のツバキがおっさんに向ける。
カナタとアリサは左右に分かれ、おっさんに突撃していく。
「……遊んでやるから、かかってきな」
迫り来るカナタとアリサに対し、刀を抜いて構える。
カナタは左から剣を振り上げ、飛びかかる。
アリサは右から地を這うように駆ける。
左右から二人同時に、おっさんに攻撃する。
「はああぁぁぁぁぁ――ッ!」
遺産の力で自分の体を操り、限界以上の力を発揮したカナタの剣が振り下ろされ――
「しぃ――ッ!」
血操術で強化された力で、剣が振り上げられ――
勿論、二人ともツバキのブレスで身体能力を上げている。
「ハッ――」
おっさんは僅かに早く届くカナタの剣を打ち落とし、アリサの剣を受け流す。
何度も剣と刀がぶつかり合い、火花を散らす。二人の攻撃の隙にツバキはフレイムランスを放つ。
どういう絡繰りか、実体のない炎の槍を斬り落とした。
血を撒いて、突き刺そうとしても、躱し、斬り、受ける。
ツバキが投げナイフを何本も明後日の方向に投擲し、必中のスキルでおっさんに向かう。
投げナイフに気を取られる隙に二人も仕掛けるが、ナイフを弾き、弾いたナイフが他のナイフに当たり軌道を逸らされる。
刀を持っていない左手で飛来するナイフを掴み、他のナイフを弾き、二人にナイフを投げてくる。
「ちぃ――ッ!」
急所を的確に狙ってきたナイフの対処に追われ、仕掛けられない。
アリサがおっさんに斬り込み、剣と刀がぶつかり、受け流される前に一歩踏み出し鍔迫り合いに持ち込む。
刀を封じられたところをカナタは逃さず、斬りかかる。
斬撃がその体に届く前に、押し負けたのかおっさんの上体が後ろに傾く。
いけるっ! と思ったが、
「がっ――ッ!?」
腹を抉るように足が突き刺さり吹き飛ばされ、地面を転がる。
「ぐぅッ!?」
アリサがカナタに一瞬気を取られた隙に、拳が叩き込まれる。
拳が当たる瞬間に自分から後ろへ飛んで威力を殺したが、痛みに膝をついてしまう。
おっさんの武器は刀一本といって、そればかりに気を取られていて痛い目を見たが、刀に意識を集中させないと速く鋭い斬撃に対応できず、すぐに斬り殺される。
意外と重い一撃を受けたカナタ達の動きが止まる。
痛ぇ、どんだけ身体能力高いんだよ。俺たちの攻撃を受けている時も余裕があるのがわかり、難なく全ての攻撃をいなしている。
三対一で、こちらの方が手数が多いのに、一回も攻撃を当てれていない。カナタ達は一撃受けただけで激痛に動きが止まるというのに。
「おいおい、こんなもんかぃ? これなら他の勇者の方がまだ強かったねぇ。まあ、大したスキルも魔法も持っていないはずれ勇者だからしょうがないかねぇ」
追撃をしないで悠長に話しかけてくる。カナタ達を脅威と認識していない。いつでも殺せるからこその余裕なのだろう。
「……他の勇者って言っただろ。どういうことだ」
「ん? 何のことかね?」
しらばくれてるわけではないだろう。本当に何を聞きたいかわからないのか首を捻っている。
「……ああ! あれね。もしかしてお仲間だったのかい? そりゃあ、悪かったな。俺の雇い主の旦那が全員殺しちまった。まあ、悲しむ必要はないぜ、すぐに会える」
「……別に仲間ではないが……知り合いだったからな、不快な気分だよ」
おっさんを睨みつけるが、どこ吹く風といった顔で気にも留めない。
今一死んだと聞いても実感が持てないが、不快だと感じる。
「充分遊んだし、もう終わりにするぜ!」
雰囲気が変わった。本気でカナタ達を殺しにくる。
力の差は歴然、どうあがいても勝てる気がしない。なら、逃げるしかないが、逃げれるような甘い敵でもない。どうするべきか、覚悟を決めるしかない。
おっさんの目的は、たぶん俺を殺すことだ。それなら、アリサとツバキに用はないはずだ。俺のせいで二人を巻き込んでしまった。俺がここでおっさんの相手をして、二人を逃がせば態々追わないと思う。
一人ではまず間違いなく殺されるが、三人でもそれは変わらない。なら、やることは決まっている。
「ここは俺に任せて、二人は逃げてくれ」
痛む体で立ち上がり、剣を構え二人に告げる。
「な、何言っているの!? どういうことかわかっているの!!」
「そんなことできるわけないじゃないですか!!」
二人とも必死にカナタを止めようとする。
「ああ、勿論わかっている。大丈夫、ちゃんと策はある。巻き込んでしまうから二人には逃げて欲しい」
安心させるように自信を持って答える。
「――ッ! ……絶対に生きて帰ってこないと許さないから!」
「嫌です! 私も一緒に戦います。だから……」
アリサはカナタの真意を悟ったが、堪えて抵抗するツバキを無理矢理引っ張て走っていった。
カナタは二人の後ろ姿を見えなくなるまで、その姿を目に焼き付けるようにずっと見ていた。




