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おっさん

「……はぁー……はぁー……お、終わった」

無茶をして酷使した腕は血塗れで、力無くぶら下がっている。戦闘が終わって、張り詰めていた糸が切れたて、倒れそうになったが、アリサが支えてくれた。


「すまない……もう、大丈夫だ」

「全然大丈夫じゃない! あまり無茶しないでよ……」

心配を掛けてしまったのは申し訳ないと思っている。逃げ出してしまった過去を自分の力で切り抜けたい気持ちがあり、ちょっと逸ってしまった。


「本当ですよ! もう少し自分の体を大事にしてください」

駆け寄ってきたツバキにも窘められる。


「悪かった、俺も痛い目見るのは嫌だし、今後無茶をしないようにするから」

二人に疑いの目で見られるが、無茶をしたくないのは本当だ。でも、状況が無茶を強いて来るのだからしょうがないだろう? まあ、今回は無茶しないでも倒せただろうけど、無茶をしたのは反省はしている。


苦労してアッシュを倒したのに、何の素材を手に入らないってふざけるな! って言いたい。持っていた大剣も灰になってしまった。こんな倒してもメリットのない、損しかしない奴とは二度と会いたくないなあ。


「そういえば、襲われた人は大丈夫なのでしょうか?」

「……? あっ! そういや、いたな……どうせ、死んでるから気にしなくていいだろ」

声が聞こえた時点で引き返していたら戦わなくて済んだだろう。今さら言っても遅いが。もし、次があったら、今度こそ一目散に逃げよう。


カナタは後ろ向きな決意を固めて、先に進もうと言おうとしたら、


「……ん? おいおい、まさか、もうやられたのか?」

アッシュが来た方向から声が聞こえた。前を見ると、曲がり角からこちらに向かってくるおっさんが一人いる。


髪はボサボサで無精髭を生やしたおっさんだ。腰に一振りの刀を差している。


「やはり、生きている人がいるか確認しないといけないですよ? ……大丈夫ですか? 怪我はしていませんか?」

おっさんに近づいて行こうとするツバキの腕を掴んで止める。


「? どうしたのですか?」

いきなり腕を掴まれたツバキは首を傾げながら尋ねてくる。

カナタはその問いには答えず、腕を引っ張りツバキを下がらせる。


抗議の目で見るが、カナタは緊張した面持ちでおっさんから目を離さない。

カナタの様子から何かがあると感じ取り、おっさんを見る。


さっきの魔物から逃れた冒険者ではないのでしょうか? 

アリサもカナタと同様におっさんを警戒している。私だけが何も感じていないみたいだ。


「大丈夫だぜ。可愛いお嬢さんに心配されるのは嬉しいねぇ……それにしても、こんな所で放ったのがいけなかったのかねぇ? そんじょそこらの冒険者に負ける程、弱くはなかったはずだったんだが……これ、お前さんらが倒したのかい?」

おっさんの発言にカナタとアリサは剣の柄に手をかけ、警戒心を露わにする。


「止まれ! おっさん、何者だ?」

「おっさんは酷ぇな。まだ三十だぜ。お兄さんと呼んで欲しいねぇ」

剣に手をかけているカナタ達の事を気に掛けることなく、飄々とした態度を崩すことなく、その場で止まる。


「三十なら、充分におっさんだろうが。こっちの質問の答えは?」

「俺が何者かって知っても意味ないじゃない。なぁー、勇者?」


その言葉を聞いて片方の眉がピクッと動く。

俺が勇者ってことをなぜ知っているかはこの際どうでもいい。あのアッシュとも関わりがあるという事は教会が探している連中だ。味方ではないって事だ。寧ろ、敵と言ってもいいだろう。


おっさん達が何をしようとカナタには興味がない事だ。魔族と戦争させたいなら勝手にすればいい。俺は巻き込まれないように遠くに行けばいい。


カナタとしては、関わりになりたくないのだが、向こうからやってくるので逃げられない。本当に何か呪われているんじゃないかって程、厄介事がやってくる。


今は戦闘になるのは避けたい。おっさんがどのくらい強いかわからないが、少なくともさっき倒したアッシュより強いのは確実だ。逃げる機会を逃したなあと思う。おっさんが現れた時なら、まだ逃げられたかもしれない。


「おっさん、何も見なかった事にして、俺達はこのまま見逃してくれないかな?」

「邪魔する奴は排除するよう言われているんだよねぇ……そういう訳だから、悪いがここで大人しく死んでくれないか」


カナタの額には汗が浮かび、息の詰まる緊張感に空気が張り詰めた。

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