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邂逅

「どこまで進むのですか?」

「とりあえずは、日帰りできる範囲で引き返す。野営したこともないのに、いきなり強い魔物がたくさんいる所でしたくないからな」

「うん、その方がいいよ。ここで野営するには、経験も力も足りないからね」


こんな所で休めるかって話だ。いつ魔物が襲ってくるかわからないのに、しかも、へたしたら死ぬような魔物がたくさんいるんだ。


「そういえば、何でヘルバリオンの攻撃をわかったんだ? 透明で見えないのに」

「血の臭いがしたからよ。他の冒険者を襲った後だったのかも」


なるほど。流石は吸血種、血の臭いには敏感なんだな。助かったので感謝はしている。例え舌に捕まっても簡単に食べられる気はなかったけどな。


地下に潜ってからあまり、というか一体しか魔物に会っていないなあ。浅い所には魔物が少なく、深く潜るほど魔物が多くなる傾向なので、こんなものかなと思って進む。


「――――――ッ!!」

進んでいると、通路の奥から人の悲鳴が聞こえてきた。奥で道が右に曲がっているので悲鳴の主の姿は見えない。

またか! 自分の運の悪さに頭を抱えたくなってくる。


一本道なのでこのままだと戦闘は免れない。ここは、一端引き返して別の道から行こうかなと踵を返そうとしたらアリサに止められた。


「待って! 今度は本当に人の声だと思う」

「はあぁー!? 何でそんなことがわかんだよ?」

「血の臭いが新しい。今出たものだよ」

「……おい、それならさっきのもわかったんじゃないのかよ」

「そ、それは……今はそんな事より速く助けに――ッ!?」


途中で黙ったアリサにどうしたのか聞く前に言葉を発する。

「――近づいてくる!」


アリサの警戒を含んだ声にカナタはいつでも剣を抜けるように柄に手を添える。

魔物か? それとも負傷した人か? できることなら人であってほしい。


カナタ達は音を立てないように待ち構える。


ズンッ、ズンッと重々しい足音が聞こえてきた。

これは、怪我人ではないだろう。怪我人なら、ちゃんとした足取りで歩いて来るわけがない。それに、この重々しい足音……


恐怖と緊張に耐え続けていると、曲がり角からそれが出て来た。

まず、目に付いたのが、血に濡れた武骨な大剣だ。次に、鋼のような強靭な肉体。顔には、目と口とおぼしき黒々とした闇がある。


「……な!? 何であいつがここにいる!?」

そいつを見間違えるはずはない。何せ、殺されかけた相手だ。それに、つい昨日話しに出てきた。教会でアッシュと呼ばれている奴だ。


「カナタ、あの魔物を知っているの?」

「……あ、ああ、知っている……」

アリサはカナタ達を庇うように前に出て剣を構える。


他にもいたのだから、同一個体とは限らないが、短い間に二回も出くわすなんて自分の不運を嘆きたくなる。


何で探している奴のとこに出ないで俺の前に現れるんだ!

正直言って怖い。前回の時を思い出して、尻込みしてしまう。


その時、剣の柄を添えた震えている手が暖かく包まれる。

「私はカナタが何をそんなに恐れているのかわかりませんが、私達がついています。だから、大丈夫です!」


そう、前回とは状況が違う。遺産を手に入れ強くなり、それに心強い仲間もいる。

前回は、他の人を囮にして逃げたが、今回はそれはできない。いや、したくない。アリサとツバキはもう他人ではない。信頼する仲間だ。

俺達の力でアッシュを倒す!


「アリサ! 手加減はなしだ。本気でやってくれ! ツバキはあいつに攻撃が通らないなら、牽制に徹してくれ!」

「……うん、カナタが必要だと言うならわかった」

「はい、任せてください」


アリサが剣で手を切り、血を流している腕を振るう。

歩いて近づいて来るアッシュが大剣を振り上げ、地面を踏みしめて、一気に加速する。


アッシュの突進をアリサは真正面から受ける。大剣と剣が衝突し鍔迫り合いになる。

重い――ッ! だけど、受けられない程じゃない!


「喰らえ――ッ!」

地面に撒いた血から幾つも針が飛び出し、アッシュの体を串刺しにする。だけど、あまり効いていないのか剣にかかる圧力に変化はない。

腕や足、胴体を貫かれているのに、効いていない!? この魔物普通じゃない……



右側から剣を大上段に振りかざしたカナタが現れる。アッシュは針を力づくで砕き折り、カナタに拳を叩きこもうとその剛腕を振るうが、アッシュの顔にフレイムランスが直撃し、その体が後ろへと少し傾く。さらに、アリサが剣を押し込み、バランスを崩させた。


「はあああぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」

気合一閃、カナタは剣を振り下ろし、アッシュの左腕を斬り飛ばす。


「まぁっだぁだあああぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」

悲鳴を上げる筋肉を無視して腕を操り、猛烈な速さで左下から右上に、逆袈裟に斬り上げた。剣がアッシュの胴体を斜めに一閃する。


「もう――ッ! 一撃いいいぃぃぃぃぃぃぃ――ッ!!」

骨が軋み、腕から血が噴き出すが構わない。これで決める!


アッシュもやられてばかりではない。大剣でカナタを両断せんともの凄い速さで大剣を振り下ろした。

カナタは自分に迫る大剣の対処など眼中になく、ただ渾身の一撃で首を刎ねることだけを意識する。


アッシュの大剣の方が速くカナタに届くのはわかっている。勿論、自棄になったわけではない。仲間を信頼して自分命を預けているのだ。


「――――――ッ!!」

大剣と剣が衝突し、大剣の軌道が変わり、カナタの横を通り過ぎ、地面を割り砕き、破片を盛大に飛ばす。


返す刀で横一線にアッシュの首を刎ね飛ばした。


首を失くしたアッシュの体は動かなくなり、やがて、その体は白い灰になって崩れ去った。アッシュがいた所には灰の山が残っているのみだ。

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