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不可視の暗殺者

地下迷宮にはヒカリゴケがいたる所に生えているためそこそこ明るい。ヒカリゴケは空気中の魔力で光り、引き抜くと光らなくなるので取っても使えない。


「何か地下なのに明るいって不思議ですね」

「まあ、確かにそうだな」

「明るい方が安心するね」


迷宮内は下に降りる程通路の幅が縦も横も広くなっていく。

カナタを先頭にして、最後尾はアリサ、真ん中にツバキを挟んで、下り坂を進み続ける。途中、分かれ道がいくつもあったがギルドで買った地図を見て迷うことなく下に続く道を進む。


雑魚を倒すより、C、Bランクの魔物を倒した方が金になるし、強い敵の方が戦闘経験も積める。

何故か、強い敵と戦う機会が多いから、死なないためにも少しでも鍛えておかないといけない。


しばらく、地図に従って下へ下へと下り続けていて、ある分かれ道を地図を見て右に曲がろうとした時、アリサに止められた。


「ちょっと止まって! 今何か聞こえなかった?」

「ん? そうか?」


全員その場で止まり耳を澄ませるが、何も聞こえない。気のせいじゃないかとアリサに言おうとした時、人の声だろうか聞こえてくる。


「今、何か聞こえましたけど、よくわかりませんね」

「左の方から助けを求める声が聞こえたわ」

「助け? ……そうか、じゃあ行くか」

「そうですね、行きましょう!」


カナタは右の道を進んでいく。


「待ってください! そっちは違います。声が聞こえたのは左ですよ!」

「は? だから右であってるだろ」


「いやいや、助けに行くのですよね?」

「……いや、行くわけないじゃん」


こいつ馬鹿なのかって顔でツバキを見る。


「助けを求めているのだから行くべきですよ!」

「何で見ず知らずの他人を助けないといけないんだよ。面倒くせぇ」

「私の時は助けてくれたじゃないですか!」

「その時とは状況が違うだろ。姿も見えない奴を態々助けに行かねぇよ」


カナタとツバキの言い争いを止めようとアリサが間に入る。


「まあまあ、落ち着いて」

「アリサは助けに行くのに反対だよな」

「アリサは助けに行きますよね」


二人に挟まれてどちらに味方するか迷い戸惑う。


「え、えーと……助けに行った方がいいかなあ」

「ちっ、しょうがないなあ」

「そんな不満そうにしていないで行きましょう」


未知の敵が待ち構えているので、念のためアリサに横に並んでもらって進む。

走って助けに行ったりはしない。助けに行って死ぬなんて嫌だから、敵の気配を探りながら慎重に進む。


しばらく進んで気付いたが、もう声が聞こえてこない……もう死んだんじゃないか? 引き返そうと提案したが、ここまで来たのだから駄目だったとしても、確認はするべきと否定されたので、進み続ける。


もう少しで着くから、と用心するよう注意を促されて、一層警戒を高める。

敵の正体がわからないと不安だな。あー、やべ、ちょっと緊張してきた。


「カナタ――っ!」

何か違和感みたいのに気づいて、行動しようとしたらアリサに突き飛ばされた。


「痛っ!」

いきなりだったので受け身も取れず、頭を壁にぶつけて、目の前に火花が散る。

何だ!? 敵の攻撃か!? 慌てて起き上がりながら状況を確認する。


アリサは通路の奥を見つめたまま、剣を抜き腰だめに構える。

「おい、アリサ今のは――」

カナタが言い終わるより早くアリサが動く。鋭く剣を放ち何もない空間を斬る。


「? 何を――ぶっ!」

顔に何か見えない気色悪い感触ものがぶつかった。微妙に濡れた顔を服の袖で拭って下を見る。赤い腕より太い生々しいい触感のものが落ちている。どうやら、これが顔に当たったらしい。


「ギュアアアアアアァァァ――!」

遅れてこれの持ち主の悲鳴が聞こえて来る。


「な、何なんですか!?」

「たぶん、ヘルバリオンよ」


ヘルバリオン……? 何かどこかで聞いたことがあるな。何だっけ? ……ああ! あれか! 助けを呼ぶ迷惑なカメレオンか。何でカメレオンがこんな地下にいるのか知らんが、まんまと騙されたツバキは後で覚えていろよ!


「アリサ、敵はどこにいる」

「あそこに!」

アリサが指を差したところへ短剣を抜き、遺産の力で飛ばす。短剣は何もない空間に突き刺さる。


「ツバキ、魔法をぶちかませ!」

「は、はい! フレイムランス! フレイムランス! フレイムランス!」

三発のフレイムランスは吸い込まれるように透明なヘルバリオンに直撃し、派手に爆発する。爆炎が晴れた向こうでは、周囲の空間がぶれてヘルバリオンがその姿を現した。


人を簡単に丸呑みにできるほどの巨躯のカメレオンだ。所々炭化し焼き爛れているが、その巨躯の前には掠り傷程度だ。


だが、それで問題ない。爆炎で目が眩んだヘルバリオンの懐に潜り込んだアリサがいる。血操術とブレスで強化された力で、ヘルバリオンの首を斬り飛ばす。


頭を失くしたヘルバリオンの巨躯が力を失い崩れ落ちる。


「終わりましたね。それにしても大きいですね」

「ああ、そうだな。アリサ、素材の回収を頼む」

「うん、わかった」

アリサがヘルバリオンの鱗を剥ぎ取っているのは確認してから、ツバキに向き直る。


「……それで、ツバキ、誰がこっちの道に行こうと言ったんだっけ?」

「えっ、えーと……私です」

「だよなあ。人が反対したのに、態々敵の罠に引っ掛かりに行って、何か言う事はないのか?」

「うっ……すみませんでした!」

「まあ、わかればいいんだ」


Bランクの魔物でも今のカナタ達なら倒せるのを知れただけでも収穫かな。まあ、ヘルバリオンはBランクと言っても奇襲に特化した魔物なので、それが意味を成さなかったらCランクぐらいの強さなんだけどな。

素材の回収が終わったので元の道に戻り下へと進む。

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