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赦す

振り下ろされた十字架は横から割って入ったカナタの直前で止められた。風圧で吹き飛ばされそうなのを踏ん張って何とか耐えた。

……やべー、し、死ぬかと思った。もし、マリアが攻撃を止めなかったら確実に死んでいた。本当馬鹿なのか!? せめて、剣で受けるぐらいしろよと自分につっこむが、まあ剣で受けても死んでいたかもしれないが。マリアがカナタを殺さないだろうと考えての行動だったが、うまくいって良かったー。


「……どうやって、結界を壊したのですか? カナタ様ではどうやっても壊せないはずです」

「ああ、そうだな。壊せなかったさ……だから、開けただけだ」

カナタの立っていた場所を見ると結界は残っているが、結界の一面に人が通れるぐらいの空間が扉を開いたみたいに開いている。


「……なるほど。優れた遺産を持っているようですね……ところで、どういうつもりですか? なぜ、その化物を庇っているのですか?」

「仲間を助けるのに、理由なんていらないだろ」

「……そこの化物より弱いカナタ様が私に勝てると思っているのですか?」

「勝てる勝てないじゃない。俺が仲間を見捨てたくないから、立ち向かっているんだよ!」

「彼女はカナタ様をただの食糧としか思っていないかもしれませんよ? 吸血種にとって人は血の入った肉袋という認識が普通ですよ」

「それが普通だとしても、常識だとしても、俺は、自分で見て聞いて感じたものを何よりも信じている! 例え、誰に否定されたとしても、俺は俺が信じるアリサを信じる!」


「圧倒的強者相手に立ち向かうその姿勢は、さすが勇者ですね」

「あー、それで見逃してくれないか? 血が必要なら俺が血を出す。これなら人を襲う必要もないだろ?」

正直言って、戦いたくない。戦えばまず殺されはしないだろうが負ける。勝てる策がないわけじゃない。一回しかチャンスはないだろうがある。だが、何をもって勝利と言えるんだ? マリアを殺せば勝ちだろうが、それはしたくないというかできるとは思えない。マリアに諦めてもらうしかないが、どうやすればいいんだ? お願いだから、見逃してくれ!


「確かにそうですが、もし彼女が人を襲った時、彼女より弱いカナタ様では止められませんよ。彼女の手綱を握れないような人に任せることはできません」

「じゃあ、俺がアリサより強いと証明できれば、見逃してくれるんだよな?」

「強さの証明ができればの話ですが」

「よっし! 言質は取ったぜ! 俺があんたに一撃でも攻撃を通したら認めてくれるか」

「ええ、いいですよ」

「それじゃあ――」

「待って!!」

アリサの静止の声にカナタは振り返る。


「何だよ、さっさと後ろに下がってろよな」

「私はあなたに助けてなんて言ってない! 私の事は放っておいて! 私は一人でも大丈夫だから!」

はぁーと溜息を零し、アリサの胸倉を掴み上げる。

「何が大丈夫だよ! お前が仲間でもない赤の他人なら、どこで死のうが俺の知ったことじゃない。勝手に死んでらいい。言っとくけど、お前のためじゃねぇからな。お前に死なれたら俺の寝ざめが悪いんだよ。だから、俺は俺のために戦うんだよ」


「でも――」

「でもじゃねえ! 黙って後ろで大人しく、俺の戦いを見ていろよ」

アリサを下がらせるとマリアに向き合う。

自分より圧倒的な強者に勝つためには、短期決戦しかない。こちらを下に見て油断している隙を突くしかない。長期戦なんかになったら実力の差が出て、長引けば長引く程不利になる。一撃入れるためにも絶対に零距離まで近づかないといけない。幸い一挙手一投足の間合いだ。距離が離れていなくて良かった。


「話は終わりましたか?」

「ああ、待たせて悪かったな。それじゃあ始めようぜ!」

言うと同時に剣を抜き斬りかかるがそれよりも速く振り下ろされた十字架を横っ飛びして躱したが、その程度意味はないとでも言うように、カナタの全身に押しつぶすような力がかかり、余りの重さに膝をつき、持っていられない程重くなった剣を手放す。剣は地面にめり込んで落ちた。


「ぐぅ……重力か」

「はい、よくわかりましたね。この十字架の遺産の力は重力制御です。わかったところでもう意味はないですけどね、このまま押し潰すこともできます。降参してください」

「……くははははーっ! 降参なんてするはずないだろ」

「そうですか。ならもっと強くしましょうか」

カナタを地面に縫い付けるように重力を強くするが、マリアの思惑とは逆に立ち上がり、素早く接近し、拳を振りかぶる。遺産の力で体の限界を超えた、その動きは普段のカナタからは想像もできないほど速い。


「――なっ!? まさか重力を操りましたか! ですがっ!」

十字架の間合いの内側に入ったカナタの強化された動きに合わせ、高速の左拳を撃ち込んできた。だがマリアは再び驚愕させられることになる。

「――っ!?」

拳がカナタに当たる前に止まったのだ。いや、拳だけではない。全身が時間でも止まったみたいに動かない。


「はぁああああああ――っ!」

その隙を見逃すはずもなく、撃ち込んだカナタの拳はマリアを捉える。結界を剥ぎ取り、ハローの魔法防御を貫き、頬を抉り殴り飛ばす。


「……はぁー……はぁー……はぁー……どうだ……やってやったぞ!」

限界を超えた行使に拳は砕け、指が変な方向に曲がって、見るも無残な有様だが、一撃入れてやった!


「……約束ですから、彼女の存在を赦します。ただし、カナタ様の監視下の場合だけです」

ダメージなどないようにマリアが立ち上がり、渋々といった感じで言う。

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