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断罪

「ま、待ってくれ! 人を襲ったとしても、別に殺しているわけではないだろ? 生きるためにしょうがなくやったことで、だから……!」

「確かに彼女が生きるために、人を襲い血を飲むことは仕方ないことかもしれません。生まれながら罪を背負っている彼女には同情します。しかし、だからといって、彼女の存在を見逃すことはできません。人は自分達を喰らう化物の存在を許容できません。だから、教会が吸血種狩りを主導して全滅させました。まさか、生き残りがこんな所にいるとは思いませんでしたけど」

「――そんなことでっ!」

「カナタ様にとっては、そんなことでも、大多数の人にとっては、そんなことではありません……ほら、見てください。ツバキさんの反応が普通なのですよ」


ツバキは青ざめた顔で、自分の体を抱き、震えている。

……嘘だろ? 短い間だが、仲間として命懸けで一緒に戦った仲だろ? 仲間に対して、恐怖を向けるなんてないだろ……


「わかりましたか? カナタ様の方が普通ではないのです。吸血種について知らなかったのだから、まだ、実感がないだけです」

「……それども、俺は……」

――マリアが手を振るうと、カナタの発言は突如現れた透明な壁に遮断された。

「もう言葉を用いるのは終わりです。音を遮断させてもらいました。その結界は私が許したもの以外は通ることができません。私でも破壊するのが困難な程丈夫なので安心してください……そういえば、聞こえていないのでしたね……それでは、吸血種を断罪します」


マリアはカナタ達の横をすり抜け、アリサの前まで来ると、その大きな十字架を軽々と振るう。アリサは防御もせず吹き飛ばされ、地面を転がる。

「……あら? もしかして、正体がばれてそんなにショックを受けましたか? あなたを殺すとカナタ様が悲しむでしょうが、仕方ありません。無抵抗な相手を甚振る趣味はないので、次で終わらせます」



私が死んだら、カナタが悲しむ……? そんなわけがないっ! 今まで生きてきて、私が吸血種だと知った人は皆、罵倒し、物を投げ、剣を向け、魔法を放ち、殺そうとした。

私を生んだ人間の母は、なんで、こんな化物を生んでしまったんだと嘆き、私の目を見て、憎いといつも叩いてきた。

親友だと思っていた人も、私の事を化物と呼び、よくも今まで騙してくれたなと怒り、最後には、恐怖で震え怯えた目で私を見てくる。

私に仲間はいない。この世界で一人きりだ。一人でもいいと思うようになり、一人でいることを選んだ。誰にも頼らず一人で生きていける……



地面に転がるアリサに止めを刺すべく、十字架を頭上に振り上げ、その先端に力を集めて振り下ろす。地面が爆ぜ、砂埃が舞う。一陣の風が吹いた後には、大きく勧募移した地面だけがあり、アリサの姿はない。

「ふふっ、やっとやる気になりましたね。そうじゃないと面白くないわ」

離れた所に剣を抜いたアリサの姿がある。

「私は、生きる……!」

「そうですか……ですが、それは無理です。あなたはここで死ぬのですから」


今度はアリサから動く。今までより数段速く、鋭い斬撃を放つが、それを余裕で受けられる。アリサは左手を振り、血を撒く。マリアの周囲に散った血が鋭い針となり、その身を串刺しにしようとする。

マリアはアリサを弾き飛ばし、後ろに跳んで針をかわす。

「吸血種固有のスキル、血操術ですか。血を自由自在に操り、身体能力を高めたり、血を武器にしたりと便利な能力ですね?」

アリサは刃を左手首に持っていき、躊躇うことなく手首を切る。血が勢いよく出るが、アリサの周囲に浮かび、短剣の形を作る。それが無数にあり、アリサの意思一つで敵を切り刻むだろう。



俺と能力が被ってるじゃん!? やめてくれよ……つーか、俺の能力の方が上位互換だからな! お前は血だけだけど、俺は何でも操れるからな! そこんとこ忘れないように……まあ、何言っても聞こえていないんだけどさ。蚊帳の外感がやばい。さっきから全力で剣を結界にぶつけているんだけど、掠り傷一つ付かない。これは、傍観を決め込むしかないのか……?



血でできた剣を操り、逃げ場のないようマリアを囲み、一斉に剣を飛ばす。

マリアは構えもせずに、剣の雨をその身に全部受ける。全身に隙間無く剣を突き立てられ、その姿を見ることさえできない。

「残念ですが、その程度の攻撃では私に傷一つ付けることはできませんよ」

「――っ!?」

無数の剣が地面に落ち、無傷のマリアがその身に光を纏い出てくる。

「どうですか? 結界とハローの魔法を合わせた光輪結界です。これを破れるのはほぼ不可能です」


アリサは剣に血を纏わせ大剣を作ると、大きく振りかぶり、力を溜め、解き放つ。蹴り出した地面が爆ぜ、目にも止まらない速度で、渾身の一撃を見舞う。光を押し退け、刃は進み、突破するように見えたが、マリアに届く前に止まってしまう。

「今のが全力のようですね、あなたは私に勝つことはできません」

背筋が凍るような悪寒を感じ、後ろに跳ぼうとするが、上から押しつぶすような不可視の力が加わり、その場に膝をついてしまう。

「それでは、今度こそ終わりにしましょう」

回避も防御もできず、死を覚悟したアリサは目を瞑る。

無慈悲に十字架を振り下ろされた。

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