原罪
お互い軽く自己紹介をして、別れようとしたがマリアがアリサたちの方を見て止まっている。
「ん? どうかしたのか?」
「……い、いえ、何でもありませんよ。……皆さん、教会に寄って行きませんか」
「別にそこまで興味がないから俺はいい」
「折角ですので教会に行きたいです」
「私はあまり行きたくない」
賛成1の反対2だ。多数決の結果、行かないでいいんじゃないか。行きたければツバキ一人で行って来たらいい。俺たちは適当に過ごせばいいし。まあ、どうしても一緒に行ってほしいなら、ついていくけどさ。
カナタに教会に行く意思がないのを見て、マリアが近づいてきて二人に聞こえない声で言ってくる。
「カナタ様は、知らないで後悔するのと、知って後悔するのか、どちらがいいですか?」
「……それは、どう意味だ。何が言いたいんだ」
「もし、知らないでいたいなら私についてこないでください。知りたいなら、全員で私についてきてください。どちらを選んでも後悔すると思いますので、お好きな方を選んでください。……私としてはカナタ様に嫌われたくありませんので、このまま何も知らないで帰ってほしいですけど」
「……よくわからんが、どっちを選んでも後悔するなら、知って後悔したい」
「そうですか、それは残念です。……では、皆さん行きましょう!」
カナタはマリアの後ろを黙ってついて行く。ツバキも続くが、アリサが迷うように立ち止まっている。
「おい、アリサ行くぞ」
「……え……あ、うん」
カナタに言われてアリサもついてくる。
そのままカナタ達はマリアについて教会まで行った。教会に着くと教会には入らず、裏にまわり、教会の建物の後ろにある広場に出た。
てっきり、教会内で何か話をするのかと思っていたが、こんな何もない広場で何をするつもりなんだ?
前を歩いていたマリアが振り返りカナタに謝罪をする。
「カナタ様、すみません……ですが、これは教会の執行官として見過ごせません」
マリアは何を言っているんだ? カナタが疑問に思っていると、背筋が凍り、空気が変わった。
背負っている十字架を手に取り、こちらへと向ける。十字架から何かが放たれる。突然のことに驚くが、とっさに腕で体を守るようにし、衝撃に備えて体を固くするが、いつまでたっても何も起こらない?
腕を解き、周りの状況を確認する。マリアが依然カナタに向けて十字架を向けているが、よく見ると、十字架はカナタを指してはいない。十字架の先を、後ろを振り返るとツバキがいて、さらにその先に血を流して膝をついているアリサがいる。血が出ているが、そこまで深い傷ではなさそうだ。
……どういうことだっ!? なぜ、アリサが攻撃を受けている!?
なぜこんなことをしたのか、問いただそうとする前に、マリアが告げる。
「カナタ様、彼女を見て気づく事はありませんか」
マリアが何を言っているのかわからないが、アリサの様子をもう一度見る。血を流し傷ついていること以外は普段と変わらないように見える。いや、いつもと違う所があった。さっきの攻撃で切れたのか、眼帯が外れている。今まで眼帯で隠されていた事実が曝け出されている。赤い目だ。どういうことだ? 目を魔物にやられたと言っていたはずだが、傷らしいものはなく、どこも問題ないように見える。なぜ、嘘をついたのか、何を隠していたかったのかわからない。
「――っ!? そんな、まさかっ!?」
信じられないものを見たように驚愕の表情でツバキはアリサを見て凍り付いている。
ツバキは何かわかったようだがカナタには何が何だかわからない。
「カナタ様はまだこの世界について詳しくないようですので言いますと、彼女は魔人族です」
「はあぁ!? いやいや、何言ってんだよ? 角とか尻尾とか生えてないじゃん」
「それは当然です。彼女は魔人族は魔人族でも、吸血種ですから。吸血種は人間族と姿は変わりません……ある一点を除いて……それは、瞳の色が赤いということです」
「……別に魔人族の吸血種だからといって、何もいきなり攻撃することもないだろう? アリサが何をしたっていうんだよ!」
「彼女は人を襲っています。人に害をなすものを排除するのは執行官の務めでもあります。例え執行官でなかろうと彼女の存在を容認するものはいないでしょう」
「アリサが人を襲っている証拠なんてないだろ? 俺はアリサが人を襲うような人とは思えない! 俺は仲間として信頼している」
「信頼ですか……証拠ならありますよ。彼女が今も生きて、そこにいることが何よりの証拠です。吸血種は吸血種以外の種族の血を飲まないと生きていくことはできません。わかりましたか? カナタ様、彼女は人の姿をしていますが、人を襲って血を飲む化物です」
そんな……馬鹿な!? アリサが今まで人を襲ってきたなんて信じられない。信じたくはないが、アリサに聞かなければならない。
「アリサ……人を、襲っていたのか?」
カナタの問いには答えず、顔を伏せ、縮こまっている。その沈黙が何よりも雄弁に真実を語っている。




