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何でこんなことに

まさか、あの化物がねぇ。何か普通とは違うとは思っていたけど、自分に関係のあるものだったとは。あんな化物とは、関わり合いになりたくない。前は、逃げるだけで精一杯だったけど、今戦ったとしても勝てるかどうかわからない。ここでマリアに化物の事を言えば、倒しに行くだろうし、いや捕まえにか。マリアと同じ執行官が倒せたんだから、心配する必要もないし、ここは任せた方がいいかもな。

「……あー、たぶん、そいつと前に会ったんだけど……」

「本当ですか!? どこで、いつ会ったのですか!」

身を乗り出して聞いてくるマリアに、少し驚きながらも以前会った時の事を話す。


「……外見的特徴も合っていますし、まず間違いなくアッシュでしょう。場所もそんなに遠くないですし、会ったのが最近なら、まだその付近にいるかもしれませんね。……ああ、良かったです。何の手掛かりもなく、探すのは大変で、聞き込みをしてもそんな魔物は知らないと言われるばかりで、何の進歩もなく、旅をしてきましたが、やっと報われる時が来たのですね。ここでカナタ様と会ったのも神の御導きですね。感謝します、カナタ様」

両手で手を握られて、救われたましたと嬉しそうに言われると、大したことをしてないので照れるな。

「逃げられる前に早く捕まえに行かないといけないですね! カナタ様できれば道案内をしてくれると助かります」

「それは、面倒だから断る」

「つれないですわね。情報をもらっただけでも充分ですので、それでは、ちょっと行ってきます」

ちょっとそこまで散歩してくるみたいに化物を捕まえに行くと言えるなんて、どんだけ強いんだよ。そのまま今回の黒幕も倒してくれるといいけど。戦争になんてなったら、ゆっくり、のんびりできないだろうから、頑張ってほしい。


「あれ? ……カナタ、何しているのですか」

マリアが立ち上がる前に通りの方から聞き覚えがあるけど、覚えのない冷たい声が聞こえた。恐る恐る通りの方を見ると、ツバキとアリサが一緒にいる。ツバキは無表情でカナタを見て聞いてくる。

もしかして、なんか怒っている? 別に怒られるようなことはしていないはずだ。昨日、今日は休みにするって言ったし、何をしていてもいいはずだ。……おかしい、何で怒っているのかわからない。

こういう時は今日あったことを客観的に振り返ろう。まず、朝にツバキから一緒に行こうと誘われたけど断った。昼頃起きて、マリアに会ってお茶をしている。……うむ、今の状況って、彼女の誘いを断って別の女とデートをしている、まるで浮気現場を見られたみたいだな。いやいや、別に付き合っているわけではないから、浮気ではないけど。だけど、何でだろう、嫌な汗が出て来て止まらない。


「……あ、あの、ツバキ、これは違うんだ。俺は何も疚しいことはしていない。……まずは落ち着いて話し合おう。たぶん、何か誤解していると思うから。些細な勘違いが大事に発展することもある。だから、話し合いは大事なんだ」

「ふふっ、カナタ、私は別に何も誤解はしていないわ。……カナタが私の誘いを断って、他の女の人と楽しそうに話しているだけよね?」

おいぃぃー! 確かにあっているけど、何か違う。うまく言えないけど何かが決定的に間違っている。嘘じゃん! 絶対誤解しているじゃねぇか! やべぇ、どうしようと悩んでいたら、マリアが真実を言うために出て来た。

「心配しなくても、私と彼はあなたが思っているような関係ではありませんわ」

そうそう、そうだよ。マリアの言う通りだ。ナイス援護射撃だ。よし、これで誤解も解けるだろう。

「……本当なんですか?」

「はい、本当です。彼とは今日初めて会いまして、……会ってすぐに有無を言わさず、人気のない所まで連れていかれまして、表立って言えないようなことを……そして、ここであったことを黙っているように言われて……」

マリアは頬を赤く染めて爆弾を投下する。

てっめえぇぇー! 何言ってくれてんだよ!? 援護射撃してもらって喜んでいたら、後ろから味方に撃たれて死に体だよ! 

俺はそんな鬼畜外道なことは一切していない! と否定したいが、たちの悪いことに言っていることに嘘がない。……こいつ、態と誤解されるように言いやがって、なに? 俺が困っている様がそんなにおもしろいか! 

状況が初めより悪くなっている。本当に恐ろしいのは敵ではなく、まさか味方だと思っていた奴だったとは。


「…………」

ツバキの冷たい視線が痛い。物理的ダメージまである気がする。助けを求めて視線を彷徨わせるが、アリサはツバキと同じように冷たい視線を送ってきている。マリアは面白そうに笑顔を向けてきている。

駄目だ、味方がいない、周りに敵しかいない。どうすればいいんだ……!? 

その後、ツバキにこってり絞られた。何とか誤解は解けたけど、何でか機嫌は直らなかった。

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