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サンフィアス

次の町の名はサンフィアス。サンフィアスの南に歩いて一時間くらいの所に、滅びてしまった廃都市がある。廃都市の名はタナトス、一千年前に滅んでしまった国の王都だ。今は魔物の巣窟となっていて、タナトスの地下は広大な迷宮になっており、魔物の素材や古代の宝を求めて冒険者が挑んでいる。魔物の素材は武器や防具になり、遺産が見つかったこともあるそうだ。冒険者が集まり大きくなった町なので、冒険者の町とも呼ばれている。基本的に魔物はタナトスから出ることはないが、たまに魔物が出てきてサンフィアスを襲うことがあるので外壁は堅牢にできている。


サンフィアスに着いたカナタは他の町に比べて、冒険者が多いことに驚く。サンフィアスは冒険者の町と呼ばれるだけあって、冒険者関連の店が多く、賑わっている。タナトスは危険も多いが、その分の見返りあるので、小金持ちの冒険者が多い。


まずは、ギルドにフォレストウルフの素材を売りに行った。サンフィアスの冒険者ギルドは二階建てで今まで見た中で一番大きい。周囲の建物より二回り以上大きい、さすがは冒険者の町だ。


一階は、依頼の掲示板とカウンター、食事処になっている。

ギルドに入ってから、注目を集めている。新しく来た冒険者だからと理由だけではないことが、周りから聞こえてくる声でわかる。


何で、メイドがいるんだ? 白髪の方すごくきれいだな、眼帯を着けていなければもっといいんだが。いやいや、俺は眼帯を着けている方が彼女の魅力を引き出していると見た。何を言っているんだ、メイドの方がいいだろ。スタイルを見れば一目瞭然、出るとこは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。それなら、白髪の方は、引き締まったスレンダーな体がいいじゃないか。


男の方は何か冴えないな、影が薄くて気が付かなかった。何であんな奴がきれいな女性二人と一緒にいるんだ、釣り合っていないだろ。などなど、散々に言われているが、気にしない。言いたい奴には言わせておけばいい。所詮は、持たざるものの僻みだ。


フォレストウルフの素材は三万コモだった。安い気がするが、所詮Eランクの魔物ではこんなものか。タナトスにいる魔物は最低でもDランクだからかな。素材を売ってギルドを出て宿屋でも探そうと思っていたら、何か冒険者に絡まれた。カナタではなく、アリサとツバキが。


「二人ともかわいいね。俺たちとパーティー組もうぜ」

上等な装備を身に付けた、イケメンの冒険者三人が声をかけてきた。カナタは眼中にないとばかしに無視されている。


「私たちはもうパーティーを組んでいるので、あなた達と組むつもりはありません」

馴れ馴れしく肩に手を回そうとする冒険者の手をアリサが払いのけ、拒絶する。ツバキはアリサの後ろに隠れ、アリサの意見に同意している。


「パーティー? おいおい、まさかこの男と組んでいるのか、冗談だろ」

「ハハハハッ! こんな頼りない奴と組むぐらいなら、俺たちと組もうぜ」

「そうだぜ、俺たちと一緒なら色々楽しませてやるぜ」

下品な笑いを浮かべる三人に、アリサの目が冷たくなる。心底軽蔑した目だ。あんな目で見られたら、しばらく宿屋に引き込まって落ち込むわ。ツバキが助けを求めるようにカナタを見る。


しょうがない、女の子に助けを求められて、何もしないのは男じゃないな。それに、直接馬鹿にされたら黙っているわけにもいかない。カナタに背を向けている三人に声をかける。


「おい! お前ら……っ」

声をかけただけで頬に拳が飛んできて、吹き飛び床に倒れる。

ツバキはカナタの名を叫び心配してくれるが、アリサはカナタの事を心配しているように見えない。信頼しているなら、いいのだけどなあ。

いってぇ、直撃の瞬間に後ろに跳ぶのが遅れた。面倒くさいことに意外とこいつできる。先に手を出したな。やられたら、倍以上にして返すのが信条なので、てめぇら覚悟しろよ。だけど、三対一は厳しい。こういう時は、仲間を頼る。アリサに視線で助けを求める。三人はちょっときつい、お願い助けてくれ、というか絡まれたのお前たちじゃん。関係ないとは言わないが自分でどうにかしろよ、つーか、一人でできるだろ。

アリサは頷く。こういう人達に絡まれることはたまにあるから、言葉で言っても駄目なら、実力行使しかない。相手が先に手を出して来たらしょうがないよね。

冒険者ギルドでの騒ぎはよくあることなので、武器を抜かない限りはギルドが何か言ってくることはない。そう、武器さえ抜かなければいいのだ。物を壊した場合は弁償させられる。周りの冒険者たちは面白がって、やっちまえ! とはやしたててる。


「やるつもりか、いいぜ、這いつくばらせてやるぜ!」

さっきカナタを殴り飛ばした冒険者がまた殴りかかってきたので、今度は受け止める。手が痺れて、感覚がなくなるが問題はない。遺産の力で自分の体を操っているので感覚がなくても動く。相手の拳を握り潰さんと力をこめる。相手は拳を引こうとするが、びくともしない。もう一方の拳で殴ろうとしてきた腕を、遺産の力で限界以上の力を出して振り払う。


「……っ!」

腕が悲鳴を上げる。力加減を間違えたのか腕が痛い。折れてないか見るが、見た限りでは大丈夫そうだ。ふぅ、良かったと安心している場合じゃない。折れてはいないけど、骨にひびが入っているかも、痛い痛い、ヒール、痛みが無くなった。遺産の扱いには気を付けなければ、これじゃあ自滅しかねない。


落ち着いたので相手の様子を見ると、叫びながら蹲っている。その腕は曲がっちゃいけない方に百五十度くらい曲がっている。完全に骨が折れている。うわぁー、痛そう。自分でやっておきながらカナタは他人事のように思う。また絡まれても嫌だし、弱っているうちに攻める。


「俺たちに二度と関わらないなら、これ以上は何もしないでやる」

カナタは相手を見下し、偉そうに言う。


「だ、誰が、てめぇの言うことを聞く……がぁ!」

「ん? すまない、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれないか」

折れた相手の腕を踏みしめて、とぼけたように言う。


「てめ……っぐぁ!」

「おっと、悪い、つい足に力が入ってしまった。続けてくれ」

カナタはとてもいい笑顔で足に体重をかけてぐりぐりと踏みしめる。それを見て、アリサは、あれは絶対楽しんでやっているよと思うが、相手に同情するつもりは一切ない。ツバキは、ちょっとやりすぎではとは思うが、私たちの事を守ろうとして、やっていることなので止めるつもりはありません。


「すみません、もう二度と関わらないのでやめてくれませんか」

「ああ、最初からそう言えばいいのに」

泣きながら懇願されたら聞かないわけにもいかない。足を退けてやると残りの二人とともにギルドを出ていった。


さて、無駄に時間をくって疲れたので、さっさと宿屋で休むか。

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