遺産特性
宿屋に帰り、ツバキと合流しこの町を出ることにする。カナタたちがマフィアを潰したことは誰にも知られていないと思うが、もしもの事を考えたら面倒だ。
今回は馬車ではなく歩いて行くことにした。しばらく東へ街道に沿って進んで、途中で道を逸れて森の中に入っていく。適度に開けたところで止まり、ツバキから遺産をもらって、右手の中指にはめる。遂に遺産の力を試す時が来た。昨日ずっと寝ていたなら、何でしなかったのと聞かれたので、誰かさんに大人しくするように言われて出来なかったんだよ。アリサとツバキには周囲の警戒をしてもらう。
まずは、落ちている石を浮かしてみようとイメージするが、石は微塵も動かない。石を拾ってもう一度試してみると今度は浮いた。ちゃんと使えるか不安だったが、使えるようで安心した。もしかしたら、遺産の力ではなく、スキルの力で武器を操っていた可能性もないわけではなかったからな。
たぶんそうじゃないかと思っていたが、操れるものの条件は、自分が触れたものだけ。もし、触れていないものも操れるなら、相手の武器を取り上げれば簡単に勝てる。
銅貨を二十枚取り出し、銅貨が宙に浮く光景をイメージすると、銅貨が一つ、二つと浮かぶ。最終的に六枚しか浮かばない。あれぇ? ボスは並列思考のスキルがあったとはいえ、五十を超える武器を操っていたのに、たった六枚しか操れていない。これはどういうことだ?
七枚目が浮いたと思ったら、一枚落ちた。もしかして、操れる数は人によって変わるのか。数については一旦置いておいて、他の性能も試すことにする。
次は操作性を試す。これはうまくいった。複雑な軌道でも可能で、まっすぐ飛ばした銅貨を直角に曲げて飛ばしても、曲がる時に不自然な事に減速しない。奇妙にみえるが、良い事なので何も言わない。
射程は、目の届く範囲なら問題なく動かせる。速さ、威力は、銅貨を人の腕ほどの枝に向かって全力で飛ばしてみたら、目にも止まらない速度で枝を粉砕した。わぉ、すっげぇ威力。
あと、操れるものに自分自身も含まれるか試してみたらできた。普通に体を動かすだけなら、頭を使えばできるが、狙った所に剣を当てることができなかったりする。遺産の力でやれば、百発百中だ、思い通りに体が動くし、体を浮かべて飛ぶこともできた。遺産の適正は量より質に優れている。
ツバキとアリサにも試してもらったが、ツバキは操れる量は多いが、操作性、威力は低い。アリサはカナタと同じく操れる量は少ないが、操作性、威力は高い。これで、この遺産は使う人によって特性が変わることが分かった。
遺産の力は、魔法よりスキルに似ていると思う。魔法は魔力を消費するが、スキルは特に何も消費しない、あえて言うなら精神力だろうか。制限もなく強力な力が使える遺産が重宝されるのも当たり前の話だ。
遺産の実験が終わったので、街道に戻っている時に、アリサが何か来ると警告する。カナタたちは止まり身構える。茂みからフォレストウルフが群れで出て来た。アリサが剣の柄に手を添える。
「下がってくれ、遺産の力を試すいい機会だから俺一人でやる」
アリサは剣の柄から手を放し、ツバキと一緒にカナタの後ろに下がる。
数は十二か、以前のカナタなら苦戦は免れなかっただろう。片手半剣が鞘から抜け、宙に浮き、刃をフォレストウルフに向ける。力を手に入れたことに気分が高揚している。これから行うのは戦いではない。一方的な虐殺だ。
剣を最大出力で射出する。先頭の一匹が爆散した。自分の身に何が起こったかもわからずに死んだだろう。あまりの威力に串刺しにするところが体の耐久力が足りなくて破裂して、死んだフォレストウルフだったものが降り注ぐ。周りのフォレストウルフは何が起きたかまだ理解できていないようだが、それでも果敢に向かってくる。未知数の敵に立ち向かう姿勢は称賛に値する。だが、この場での正解は、蜘蛛の子を散らすようにただひたすらに逃げることだ。そうすれば、僅かな可能性だが生き残ることができるかもしれない。
地面を抉り刺さっている剣を抜き、高速回転させながら、向かってくるフォレストウルフに飛ばす。後ろから迫る高速回転する剣に巻き込まれたものは、斬り裂かれ、中身をぶち撒きながら吹き飛んでいく。フォレストウルフは必死に走ってカナタに向かうが、その牙が届く前に無慈悲に死の竜巻に巻き込まれ死に絶えた。あっさり過ぎるほど早く蹂躙は終わった。
くくくくっ! 最高じゃないか! 俺は力を手に入れた!!
思わず笑いが込み上げて来て、高笑いしたい気分だがツバキたちの手前、口を抑え我慢するが、口角が吊り上がるのが止められない。
「カナタ、どうしたのですか? 口元を抑えて、肩を震わせていますよ」
ツバキが心配して声をかけてくる。そこまで外に出ていたか、自重しないと。正直に答えるのは問題があるので、少し濁して答える。
「いやー、遺産の力ってすごいなあと思っていただけだよ」
「そう、それなら、いいですけど」
カナタたちは街道に戻り、次の町に行く。




