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不慮の事故です

ツバキはベットの傍に置いてある椅子に座ってこれまでの経緯を話し終えた。

「なるほど。そういえば、遺産はどこにある」


「……実は……その……」

ツバキは顔を逸らし言いにくそうにしている。


「……ま、まさか。う、嘘だろ……」

絶望を顔に張り付かせ、信じられないとツバキの顔を見る。

いやいや、そんなことあるわけない。あれだけ苦労して倒したのに遺産を回収し忘れたなんてことありえない。もし、忘れていたら今後の付き合い方を考え直さないといけない。馬鹿に大事なことを任せられない。


「……ここにあります」

ポケットから緑色の宝石のはまった指輪の遺産を取り出す。いたずらが成功して、ツバキは少し肩を揺らして笑った。

これはしてやられた。ちょっとムカッとしたけど、まあ、かわいらしいいたずらだから許すとする。


遺産を取ろうと手を伸ばしたが、その手は空を切る。

ツバキが手を引いて避けたからである。


「どういうつもりだ?」


「今渡したら、絶対遺産を使いますので、渡せません」


「別に体を動かすわけじゃないんだからいいじゃないか」

もう一度手を伸ばすが、また空を切る。


「いいえ、駄目です。カナタの事だからきっと大人しくしていられなくなります。まだ、体調が回復していないので、安静にしてください」


「はぁー、わかったよ。大人しくしているよ……何て言うと思ったか!」

降参とばかりに手を上げ、諦めたように見せかけて、ベットに左手をつき身を乗り出し、右手を伸ばし遺産を奪い取る。


「ふふっ、甘いですよ。カナタの行動は読めています」

遺産を持っている手を大きく後ろに引く。あともう少しで遺産に届きそうなところで届かない。


「まだだあぁぁぁー!」

全身を限界まで伸ばす。指先が遺産に触れる、よし、取った! と思ったが、体を支えていた左手がシーツで滑り、前のめりに体が倒れていく。


「あっ……」

「えっ……」

口から間の抜けた声が出る。ツバキも驚いて声を上げる。


ツバキを巻き込んで倒れてしまう。


「すまない、大丈夫か」


「は、はい、大丈夫です」

ツバキを押し倒した格好でいつもより近い距離に戸惑う。床に長い黒髪が広がり、頬を赤く染めている無防備な姿に胸が高鳴る。そのまま時が止まったように見つめ合うが、ハッと我に返り、いつまでもこの体勢でいるのはまずいと思い、慌てて立ち上がる。


ツバキに手を差し出し、立ち上がらせようとしたら、視界が黒く染まり、体から力が抜ける。貧血みたいだ。また倒れてしまう。


「きゃっ、だ、大丈夫ですかカナタ……あっ……」

すぐに意識がはっきりして体に力が戻る。体を起こそうと手に力を入れたら、何か柔らかいもの掴んでしまった。カナタは視線を自分の手元に下げると、その手はツバキの胸元にあり、豊満な胸を鷲掴みにしてしまっている。メイド服の厚い生地越しだというのに、その柔らかさは十分すぎるくらい伝わってきた。


「す、す、すまん!」

慌てて胸元から手をひき、ツバキの上から退く。顔が熱を持ったように赤くなっているのが自覚できる。


「あ……いえ、大丈夫です……」

胸を庇うようにして起き上がる。胸を触られて恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうだ。カナタの顔を見ることができない。


「……」

「……」

お互い気まずさから無言になってしまう。


「そ、そうです! カナタ、お腹が空いていますよね。何か取ってきます」

ツバキが突然立ち上がって、早口にまくしたてて部屋を出ていく。


ツバキのカナタに対する好感度が高くなっているんじゃないか? 前回はビンタ喰らったのに、今回は怒られもしない。まあ、前回は故意にやったけど、今回は不慮の事故だけどな。


ツバキの好感度を上げるために、マフィアから救ったが、最初はあんな命懸けになるとは思っていなかった。結果的には、命を賭してツバキを救ったことになる。それで、好感度が上がらなかったら、やってられない。今さら、恥ずかしいことを言っていたのを思い出すと死にたくなる。


ツバキが俺に好意を持っていることも有り得ると思うが、それはさすがに自意識過剰だな。

でも、ちゃんと仲間ができたと思える。言葉では仲間だと言っても、それを鵜呑みにできるわけない。けど、今は信用しているし、信頼も少しはしている。一応、命の恩人だからな。あの時はツバキたちのことを信頼するしかなかったが、信頼して任せたことを自分でも驚いている。


信頼できる仲間ができて安心できる。これからは、もっと仲間を頼っていこうと思う。

後、この世界に来てから色々あって疲れたから、しばらくはゆっくりしたいなあ。

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