救い
「今のは危なかった。策はそれで終わりかな、もう魔力を回復する隙は与えん。ここからは狩りの時間だ、ここで死ね!」
全ての武器が一斉にツバキたちを殺すべく壁となって迫る。傷だらけのアリサには止めることはできない。
相手の起死回生の策を破り、自分の勝利を確信した時ほど隙は大きくなる。
「死ぬのはお前だ」
迫りくる武器が一斉に力を失い、金属音を鳴り響かせながら床に落ちた。
「……ば、馬鹿な!? 貴様は、死んだ……はず……」
驚愕に目を見開き、ボスの首を短剣で斬り裂いた人物を見る。血が溢れ出しボスの体から力が抜け、椅子から落ち床に血だまりをつくる。
椅子の陰から出て来た男は全身血だらけで服は斬り裂かれ、穴が開きボロボロだ。その顔は血の気が失せ青白くなっている。
ツバキは信じられないものを見て呆然とするが、現実は認識してすぐに走り出す。
アリサは安堵して、傷ついた体を壁に預けて休める。
「っ、カナタ!」
椅子の傍に立っている男の名前を呼び駆け寄る。
「よおぅ、お互い無事で良かったな」
力なく片手を上げ、ツバキに笑いかける。その言葉を聞いて、ツバキは込み上げて来たもの感情のままに吐き出す。
「何が無事で良かったよ! そんなに傷ついて……私、カナタが死んだと、思って……どれだけ心配したと思ってるの! もう、こんな無茶はやめて、お願いだから」
震える肩で、その目に涙を浮かべて、最後は懇願するように呟く。
人にここまで心配されたことのなかったカナタは戸惑ってしまう。
「あ……その……わかった。俺も死にたくないし、こんな無茶なことはしない」
「……本当?」
「ああ、勿論だ」
安心したようにツバキが微笑む。その表情に思わずドキッとしてしまう。
「ツバキ、君を救えて、良かった……」
言い終えたら気が緩み、膝から力が抜け、前のめりに体が倒れていく。あ、やべぇと思うが、カナタの体にもう力は残っていない。
床に倒れる前に、何か柔らかいものに受け止められる。暖かく包み込んでくれるツバキの腕の中で安心してカナタは眠りについた。
――――――――
目が覚めると、そこには知らない天井がある。
カナタは周りを見る。宿屋の部屋だと思うが、見覚えのない所だ。まだ寝惚けているのか、昨日の事がうまく思い出せない。窓から外を見ると太陽は頂点に輝いていて、もう昼みたいだ。普通なら寝坊だが、別に朝急いで起きる必要もない。そのまま寝転がっていると、徐々に頭が冴えてきて、昨日あったことを思い出していく。
部屋の扉が開き、ツバキが入ってくる。
「あ、良かった、起きたのですね。アリサは心配ないって言っていたけど、少し心配していたんですよ」
ツバキの前でいつまでも寝ていられないので起きようとしたら、止められた。
「怪我人なのですから、大人しく横になっていてください」
「いや、怪我はヒールで治したから、もう怪我人じゃないしいいじゃないか」
「まだ駄目です。丸一日寝ていた人の言うことは聞けません」
ん? 聞き間違いだろうか。丸一日寝ていたぁ?
「俺、どれだけ寝ていたの?」
「一昨日の夜、マフィアとの戦いが終わってから、今までずっと寝ていましたよ」
マジでか。それって一日半くらい寝ていたってことか。死にかけていたのに、これぐらいで済んで良かった方か。
「せめて、体を起こすくらいはいいだろ。食事もできないし」
「そうですね、上体を起こすだけならいいですよ。けど、無理はしないでください」
ツバキが上体を起こすのを手伝おうとしてくる。介護がいるほど弱っていねぇと拒否したが、有無を言わさず手伝われた。ちょっと情けない。
「ところで、あの後どうなったんだ?」
「倒れたカナタをアリサが背負って、火の手が屋敷全体に広がって戻れないので、窓から跳び降り飛び降りて屋敷から抜け出しました」
カナタを背負ったアリサがまず跳び降りて、次に私が跳び降りてアリサに受け止めてもらいました。二階といっても結構高かったので、怖かったです。屋敷から逃げたところは誰にも見られていないと思います。その後、アリサが泊まっていた宿の空き部屋をとって、カナタを寝かして今に至るというわけです。




