遺産の力
とても広い部屋で、剣や槍、斧、盾などの武器が四方の壁一面にかけられている。
正面奥の一段高くなっている所に豪奢な椅子に偉そうに座る男がいる。小太りの中年の男で、目が少し離れていて魚みたいで、金髪をオールバックにしている。こいつがマフィアのボスだ。
「俺の屋敷で随分と派手に暴れてくれたな! その報いをしっかりと受けろ!」
右手を上げこちらに向けると、壁にかけられた武器が一人でに動き、刃を向けて飛んでくる。
アリサがツバキを守るように立ち、迫り来る武器を剣をぶつけて弾く。カナタは避けれるものは避け、避けれないものは剣で弾き、ボスへと駆ける。
武器を受け損ねれば、深く刺さり動きが鈍ったところに武器が殺到してきて終わる。今までにない緊張感に
額に汗が浮かび、手に汗を握る。
たくさんの武器を操っているからか、飛んでくる武器の軌道は直線的で一つ一つを避けるのは容易く、武器の一撃もそこまで重くないが、それを補って余りある物量で圧倒してくる。
カナタはボスを倒すべく、武器の雨の中を進む。最初の攻撃は序の口だと言うみたいに攻撃が激しくなる。捌ききれない武器に斬られ血を流しながらも足を止めない。
ツバキはカナタを援護するべくカナタに飛んでいく武器をフレイムランスで吹き飛ばし、ボスを直接狙うも周囲に浮かぶ大盾で防がれてしまう。ツバキの火力を厄介に思ったのか、武器が殺到してくる。アリサはそれを防ぐのに手一杯でカナタの援護をする余裕がない。
背後に通り過ぎていった武器が反転して、カナタの背中を襲うのに気づいたツバキが警告の声を発する。
「カナタ、後ろ!」
前から襲ってくる武器を捌きながら、後ろをちらっと見ると武器が迫ってくる。前後を挟まれたら、さすがに捌けない。よそ見をして、刃に肉を抉られる。少し注意を逸らした程度でこの様だ。左へと身を投げ出して躱すが、躱しきれずに深くはないが背中を斬られ血が舞う。
三人を相手にして椅子に座ったままで圧倒しているボス。過小評価していたつもりはないが、ここまで強いとは想定が甘かった。部屋の左側にいるカナタと、右側の扉付近にいるアリサとツバキ。離れているのに同時に相手にでき、たくさんの武器を操ることができるのは並列思考のスキルの力だ。思考で物を自在に操る遺産の力と相性が良すぎる。
前だけでなく躱したものが後ろからもくるので避けるのに必死で、ボスの所まで辿り着けない。時間が経つにつれ、傷が増え長期戦はこちらに不利だ。迫りくる武器から逃げながら、どうにかボスまで行けないか考えようとするが激しい攻撃に考える暇がない。
だんだんと追い詰められて左の壁際まできてしまった。こうなったら一か八か賭けるしかない。
全力で壁に沿って走る。後ろから武器が壁に刺さる音が聞こえて、足が竦みそうになるが走る。前からも来る、横に跳んで避けようとしたが、攻撃の面が広く避けきれない。迎撃しながら進むと走る速度が落ち、後ろからくる武器に追いつかれるから、僅かな隙間を狙い、床に転がる。
武器は足元付近はあまり飛んでいない。それでも幾つかの武器に斬られて傷を負うが、あのまま迎撃するよりましだ。立ち上がろうと身を起こした時、横から剣が襲い来る。籠手を盾に何とか防ぐが体勢が崩れ倒れてしまう。背筋が寒くなり、本能が警告を上げる。
死に物狂いで転がって避けるが背中が壁にぶつかって止まってしまう。手を床について上体を起こし、足に力を入れようとした時には、目の前に剣の切っ先が迫っている。
無理だ、防ぐことも避けることもできない。死が避けられないのならば、死から目を反らして無様に死ぬことだけは避けよう。
今から自分を殺すだろう剣をの切っ先を目を反らさず見る。刃が刺さる直前、目の前で爆発が起こり、突き付けられた死が頬を裂いて吹き飛び、カナタも衝撃で吹き飛び転がり壁にぶつかって止まる。フレイムランスを撃ってツバキが助けてくれたが、死ぬまでの時間が少し伸びただけにすぎない。
体勢を立て直す前にまた武器が襲いかかってくる。壁に手をつき急いで立ち上がり走るが目の前に壁が迫る。爆発で予想外に吹き飛んだみたいだ。隅に追い詰められて、武器に囲まれ逃げ場はどこにもない。
覚悟を決めるしかない。物量で圧殺しようと武器が殺到してくる、頭を両手で守り衝撃に備える。
剣が左足に刺さり、槍が腹を貫き、斧が胸を打ち、次々とカナタの体を削り取って、血の花を咲かせる。
カナタは全身血まみれの体でふらつきながら、体を貫いている槍を力任せに抜くと腹から血があふれる。全身から力が抜け、膝をつき倒れる。倒れた体から血が広がっていき床に血溜まりができる。
そうして、カナタは動かなくなった。




