ホブゴブリン
後ろで何か言っているが、気にすることなく前へ進む。
この世界に来てから気を張りすぎていた。この世界では、元の世界よりも死は近くにいる。
だから、奪われないために、何かを得るために、強くなろうと、ずっと気を張っていた。
しかし、今は一人でない。仲間もできた。信頼できるかと言われれば、まだできないが。
何の理由もなしに俺に害をなすことはないと思っている。
少しは、仲間を頼らなとな。
俺がこの世界に召喚された元凶については、全くわからないので、とりあえず放置する。
弱いままなのは嫌だから、強くなるための努力もしながら、人生を楽しもう。やっぱり、人生は楽しまないとな!
光がだんだんと近くなり、広間に出た。
広間はさっきのところより、随分と広い。
メイド服の女が言った通り、そこには、たくさんのゴブリンと三体の二 mはある大きなホブゴブリンがいた。
広間に入って来た俺に何体かのゴブリンが気づいた。
ゴブリンを誘き寄せるべく、大きく息を吸う。
「ここに宣言する! お前らここで皆殺しにするから、かかってこいよ雑魚共!」
ゴブリンは、言葉の意味はわからくても、馬鹿にされていることを感じて襲いかかってきた。
俺は、宣言をした後、すぐに踵を返し、走っていた。
「あ、戻ってきましたね」
「そうだね。あんなこと言ったのに、逃げるのってどうなのだろう?」
「私は何を言っていたか、よく聞き取れなかったのですが、何と言っていたのですか?」
「それは……ん?」
こちらに走ってくるカナタの後ろからゴブリンが追いかけてくる。
それ事態はいいのだけど、ゴブリンの数がどんどん増えている。六十体はいるだろうか。ホブゴブリンも一体混ざっている。
「ちょっと、連れて来すぎじゃないかな」
「そ、そうですね。私、後ろに下がっていますので、後はよろしくお願いします」
「うん。任せて」
剣を構えて、追われている馬鹿とゴブリンたちを見る。
カナタが近くまで来て、おどけて言う。
「ちょっと気合い入れて挑発したら、思いの外たくさんついて来ちゃった」
反省のないその台詞に、少しイラッとするが、我慢する。
「ちゃんとやることはしてよね」
「もちろんだ」
短剣を抜き、アリサの隣に並びながら言う。
その後は、次々と襲ってくるゴブリンを斬って、斬って、斬りまくった。
一体一体は大したことない。通路の広さから、一度に五体までしか来られない。
俺が二体で、アリサが三体を相手にしている。得物の長さと実力を考え、自然とそうなった。
大分ゴブリンを片付けたときに、ホブゴブリンが蹴散らしながら、前へ出て来た。
向かい打つために前へ足を踏み出した瞬間、横からアリサが飛び出し、ボブゴブリンを一撃で斬り伏せた。
俺の獲物が……まあ、いいか。あと二体いるしな。
残りのゴブリンも逃がさずに全部倒した。
「よし。残りのゴブリンも片づけに行こうか」
「そうね」
「私はどうしたらいいですか?」
「そうだな。周囲の警戒をしてくれ。敵に襲われたら逃げ回ってくれ」
「その場合は助けてくださいよ」
「冒険者なら武器が無くてもゴブリンの一、二体倒せなくてどうすんだ」
「くっ……確かにそうですね。わかりました、私の事は放置でいいですよ」
俺たちは広間まで移動する。
やっと、片手半剣が使える。ゴブリン程度では相手にならないので、目標はホブゴブリンだ。
片手半剣を抜き、ホブゴブリンへ駆ける。途中にいるゴブリンを斬り倒しながら、走る速度は落とさないで行く。
走る速度を乗せて、両手で握った片手半剣で斬りつける。ホブゴブリンはそれを剣で防ぐが、勢いのついた一撃を受けきれずに体勢を崩す。
斬り上げるが、それも防がれる。だが、それでいい。
ホブゴブリンは、上体が反れ、胴ががら空きだ。
剣を切り返し、袈裟斬りにする。
ちっ、浅い。踏みこみが甘かったか。
「ガアァァァァァァ!」
ホブゴブリンが怒声を上げながら、振り上げた剣を思いっきり叩きつけてきた。地面が砕け、土塊が飛ぶ。
後ろに大きく飛び退いて躱し、さらに距離をとり、仕切り直す。
怒ったホブゴブリンが剣を振り上げ、走ってくる。
俺は落ち着いて相手の動きをよく見て、剣を横にし、顔の前に掲げて待ち受ける。
ホブゴブリンの腕の筋肉が膨れ上がり、今度こそ俺を叩き潰さんと剣を叩きつけてきた。
刃と刃が当たった瞬間、右手の握りを緩くし、左腕を上げ、剣先を下げ、相手の剣を俺の剣の上で滑らせる。そして、相手の剣は地面に落ちる。柄を握り、剣を跳ね上げ、がら空きの頭に振り下ろす。
その一撃は頭を真っ二つに断ち斬った。




