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吹き飛ぶメイド

階段を下りた先は、また分かれ道だ。

今度は、前と左右の三通りだ。


「右に行きましょう」


「ああ、わかった」


右の道を進み、また右に折れたところで、前方に光が見える。

何か音が聞こえてくる。


たぶんあの光のところにゴブリンがいるのだろうが、光石を一旦しまうかどうか考えていると、光の中から何かが出てくる。

その何かの後から、何かが複数出てくる。遠いし、逆光なので、何かとしかわからない。


「たぶん、先に行った冒険者だと思う。ゴブリンに追われているわ」

自信なさげにアリサが言う。冒険者かどうかわからいのか? まあ今はいいや。


「そうか。じゃあ、ゴブリンを倒すぞ」


「うん」


さすがに、通路の幅的に、二人で並んで長い得物を振るうのは危険なので、短剣を抜く。アリサも剣を抜く。


近づいてきてわかったが、追われているのは、女の人だ。何故かメイド服を着ている。左手には弓を持っている。

なるほど。だから、たぶんなのか。

状況からみて、逃げてくる人間は冒険者しかいないが、確かにあれを見て、冒険者だとは思えない。


さらに近づいてきて、後ろから追ってきているゴブリンは八体。


メイド服の女が俺たちに気づいた。


「……た、助けてください!」


助けを求めながら、俺に向かって走ってくる。


左拳を握り、とりあえず、怪しいので、左拳を振るい、メイド服の女を殴り飛ばす。


「ぐっ……!?」


メイド服の女は壁まで吹き飛び、地面に転がる。


「な、何しているの!? カナタ!?」


予想外の出来事に驚いて、アリサがこちらを向いて責めるように言ってくる。


「目の前の敵に集中しろ!」


戦場で敵から目を離すのはいけないなあ。


「え? ……あ、うん」


今、優先すべきは目の前に迫ったゴブリンを倒すことだとアリサは前へ向き直る。

今までの素っ気ない感じとは違う。驚いて思わず素が出てしまったのだろう。


ゴブリンの首を落とし、袈裟斬りにし、頭を割る。

三体仕留めた時には、アリサが五体仕留めていた。

アリサは強いとは思うが、ゴブリン程度では実力がわからない。


ゴブリンを全部倒したので、メイド服の女に向き直る。

メイド服の女は上体を起こして、俺たちの戦いを見ていた。


「あなたたちは……?」


「冒険者だ。お前は?」


「私は、ギルドからの依頼で、ゴブリンを討伐しにきた冒険者です」


ちゃんと受け答えができるようでよかった。やっぱり、先に行った冒険者か。

「仲間はどうした? 一人で来たわけじゃないだろ?」


「……ゴブリンに殺されました」


下を向き、何かを堪えるようして答えた。


「そうか。ゴブリンの戦力は? 何がいた?」


一人の時点で仲間が死んだ可能性が高いことはわかっていた。

それよりも、ゴブリンの方が気になる。


「……ホブゴブリンが三体に、ゴブリンが……八十体くらいです」


ホブはDランクだ。ゴブリンの数が多いな。

村長の話を聞いた時から、この依頼はEランク程度では済まないと思っていたが、Cランクくらいの難易度じゃないか。

帰ったら、あの村長をとっちめるか。


「なあ、アリサ。依頼がギルドの定めたランクより高かった時は、報酬はどうなるんだ?」


「確か……追加でランクに合った報酬がギルドから貰えるはずだよ」


それなら問題ないな。割に合わないことはしたくないし。

とはいえ、俺一人ではゴブリンを全滅させるのは無理だ。ここは、アリサの意見も聞かないとな。


「進むか、退くか、どうしたらいいと思う?」


「そうね。ゴブリンの数が多いし、退くのもありだと思うわ」


「さっきみたいにゴブリンを倒していって、少しずつ数を減らしていくのならいけるか」


「それなら、いけると思うけど、どうやってやるの?」


「それなら、問題ない。適任がいるからな」


言いながら、メイド服の女を見る。


「……え? 嘘ですよね?」


メイド服の女が顔を引きつらせながら確認してくる。


「走れるよな。囮をやってくれ」


「む、む、無理ですよ。囮なんてしたくないです。死にます!」


首を左右に振り、全力で拒否してくる。


「カナタ、それはあまりにも酷だよ」


「アリサがそう言うなら、やめとくか」


それを聞いて、メイド服の女がほっと胸をなでおろす。


「……ところで、アリサ。随分、態度が柔らかくなったな。最初は素っ気なかったのに」


「そ、それは! ……い、今は関係ないでしょ!」


顔を赤くして、慌てている姿もかわいくていいな。からかい甲斐がある。

今までは、アリサとの間に壁を感じていたが、今はもうないようで良かった。


「それじゃあ、俺が最初に囮をやる。次はアリサで、その次がお前だ」


「結局、私もやるのですか!」


「何を言っているんだ? 当たり前だろ。俺たちが戦うっていうのに、後ろでのんびり見ているだけって、どんだけ面の皮が厚いんだよ」


「ええ!? そこまで言いますか!? しょうがないじゃないですか。魔力も矢も尽きてしまったのですから」


「武器がないなら、その拳で、拳も駄目なら、噛みついてでも戦えよ」


「私みたいに可憐な乙女に言う台詞じゃないですよ!?」


「フッ」


「今この男、私の事鼻で笑いましたよ! 私が可憐な乙女ではないと言いたいのですか!?」


「……よし。行ってくるか」


「って、無視しないでください!」


カナタはそのままゴブリンがいる方へ歩いて行ってしまった。



「はぁー、あの失礼な男は、いつもあんなのですか?」


「……え? えーと、まだ付き合いが短いからよくわからないけど、なんか、今までで一番生き生きとしていたね」


「ま、まさか!? あの男、女の子をいじめて楽しむ趣味を持っているのですか!?」


「さ、さあ?」

先に行った冒険者は全滅の予定だったのだが、何故こうなったのだろうか?

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