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強くなりたい

走れ走れ、死神に捕まらないように

苦しい。呼吸は乱れ、喉は乾き、胸が締め付けられるように痛い。足は鉛のように重く、体はふらつき、体力はもう限界だ。これ以上は走れない。


もう大丈夫なはずだ。追ってきてはないはずだ。

恐る恐る後ろを振り返る。


……あの怪物はいない。

安心して気が緩むと、木の根に躓き転んでしまう。

痛い。起き上がり近くの木に背を預ける。

止まってしまうと、疲れが一気に体に圧し掛かってくる。

良かった、生きている。ただ生きていることがこんなに嬉しいのは初めてだ。


一息つくと、感情が溢れてくる。溢れてきた感情を止められない。力任せに木を叩く。皮膚が裂け、血が出てくる。悔しさに唇を噛みしめる。唇が切れ血が流れる。


悔しい。なんで! なんで自分はこんなに弱いんだ! 勇者として召喚されたのに、たいした力もない。

あいつらに力があって、なんで俺だけがない。羨ましい。妬ましい。

力が欲しかった。力さえあればもっと自由に楽しく生きていける。死の恐怖に怯えることもなくなる。

強くなりたい。


この世界では生まれた瞬間にスキルと魔法は決まっている。これは異世界から来た勇者も例外ではない。生まれた瞬間はみな平等とかいうが、この世界では生まれた瞬間から不平等がはっきりと決まっている。


どれだけ努力してもスキルも魔法も手に入らない。この世界で才能のなかった人が強くなるのは困難だ。


努力すればある程度は強くなるだろうが、生まれながらの才能の前に敗れることが多い。強力な防御スキルや魔法を持つものにはどんな剣の達人でも傷一つ付けることはできない。だから、才能のないもので努力をするものは少ない。


才能のなかった人でも強くなる方法がないわけではない。それは、聖剣や魔剣など力のある道具、遺産を手に入れることだ。しかし、遺産を手に入れるのは非常に困難だ。

遺産の作り方はわかっているが、知ったところで意味はない。


遺産を作る条件は三つ。


一つ。最高の素材を用いて、最高の物を作ること。


二つ。作ってから百年経つこと。


三つ。製作者が死ねこと。


三つの条件を全て達成することで、特別な力を持った道具、遺産ができる。

つまり、今生きている人間が作っても、寿命で死んで、遺産を手に入れることは不可能だということだ。


遺産の力は、用いた素材と百年経つまでに溜めこまれてきた思いと扱われ方によって、その力が決まる。


教会で毎日祈りを捧げ、祝福されることによって聖剣ができる。

人を殺し、恨みや呪いを溜めこむと魔剣ができる。


作り方からわかることだが、ほとんどの遺産が誰かの所有物だということだ。

強力な道具をわざわざ手放す人はいない。例え、遺産が売っていたとしても、とても個人で買えるような値段ではない。


強くなるためにもどうにかして遺産を手に入れたい。



今はまず、生きて町にまで辿り着いくことを優先しなければならない。そうしなければ、強くなることもできない。

まだ、体力は回復しきっていないが、いつまでもここで休んでいるわけにもいかない。


真っ直ぐ走ってきたはずなので、後ろに引き返せば道まで戻れる。だが、あの場に戻りたくはないので、進行方向へ斜めに進んで行けば道に戻れるはず。


立ち上り、歩き出す。

彼方:自分の力だけで、町に辿り着かないといけない

   頼むから何も起こらないでくれ

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