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第十三話 宝箱ともどりの森

 「魔物除けの実」の長所は、弱い魔物を遠ざけるためしっかりと周辺に住む魔物に備えて準備すればまったく危険が及ぶ心配がない。


 しかし予期せず強い魔物がいた場合、その魔物には十分な効果が無く、逆に居場所を教えてしまうだけになってしまうのが致命的な短所だ。


 しかしダンジョンの場合、場所によって現れる魔物が数種類に限定されているため、心配する必要はない。


 だから最初の夜営には魔物除けの実から作った魔法薬を使うことにしたんだけど……


「うっぐ……ひっぐ……いやぁ来ないでぇ……」

「プラム? 僕だよ、エディだよ?」

「ひっ⁉︎ やめてぇ、プラム美味しくないよぅ……」


 プラムが魔物だということをすっかり失念していた!


 ダンジョンは石造りの迷路のような構造となっており、途中にあった小部屋で夜を過ごすことにした。


 そして早速魔法薬を飲んでみると唐突にプラムが泣き出したのだ。


 身を抱えながら涙目で見上げてくる美少女を前に、エディはオロオロすることしか出来ない。


「そうだ、臭い消しの方を飲めば……!」


 効果は歴然だった。


 臭い消しの実から作った魔法薬を服用した途端、泣いていたプラムが抱きついてきた。


「うぅ、エディ……怖かったようぅ……エディだってことは分かってるのに怖いとしか感じなかった……」

「ごめん、プラムが魔物ってこと忘れてた」

「ううん。エディがちゃんと人として見てくれてるってことだから嬉しい」


 エディは、プラムのしゃっくりが落ち着くまで優しくその背中をさすり続けた。


「エディにこうしてくっつくの、久しぶりな気がする」

「そう?」

「スライムのときは毎日抱きしめてくれたよ?」

「そりゃあ、スライムだからね。女の子のプラムを抱きしめるのは勇気がいるよ」

「むぅ、スライムでも女の子だよ?」

「ごめん、僕には区別がつかない」

「ひどいなぁ、エディは……」


 どれくらい二人で抱き合っていただろうか、二人の落ち着いた時間は魔物の出現によって終わりを告げた。


「〈スクリューウインド〉!」

「〈ウォータースプラッシュ〉!」


 魔道書で新たに覚えた魔法を駆使した結果、戦闘は五秒も数え切らないうちに終わった。


「魔物除けの匂いで居場所が知れたみたいだ。場所を変えてから夜営し直そうか」

「うん!」


 そうして離れた小部屋に移る。


 二人は消臭の魔法薬を飲み、小部屋の隅で同じ毛布に包まると、身を寄せ合って眠りについた。



 その後は何の問題も起こることなく、二人の初めての夜営は無事に終了した。


 さらに二週間は夜営の練習に費やしたがどれも無事成功し、エディはそろそろもどりの森に向かうことを考え始めていた。


 今日あたり話を切り出そうと思いながらダンジョンを歩いていると、


「あ、エディ、宝箱があるよ!」

「ほんとだ。魔物が隠れてないといいけど」


 ダンジョンにはあちこちに宝箱が存在し、魔力を流すだけで魔法が使えるという魔導具であったり、アパレルのような魔法の掛かった道具が見つかることがある。


 大抵は魔物が隠れている罠であったりするのだけど……


「今回はちゃんとした宝箱みたいだね」

「でもこのおっきな布は何かなぁ」

「マントみたいだけど、とりあえず直接触れないように持ち帰ってギルドで鑑定してもらおう」


 不審なものに直接触れて呪いにかかった経験から、未知の道具に触れる時は手袋をするようにしている。


 魔法袋に謎の布を放り込むと、エディたちは出口に向かって引き返した。


 ギルドで鑑定してもらうと「狩人のマント」というものだった。それほど珍しい物でもなく、市場でもアパレル装備と同じくらいの値段で買える物だが、持っている魔法の効果には驚きを隠せなかった。


「匂いと気配を遮断する……か」

「なんかちょうどいいのが来たねー」

「まあ、宝箱空けたのは初めてではないし、そんなに驚くことでもないのかな?」


 しかしそろそろもどりの森に向かおうと思ったときにこれが宝箱から見つかるなんて、ダンジョンに背中を押されているようにしか思えない。


 相談した結果、二人の意見は一致し翌日からもどりの森に向かうことにした。




◇◇◇




 翌日、街から出るために門へ向かっているエディたちの前に立ちふさがる者がいた。


「お二人さん、最後に情報買ってくれないッチュか?」


 口癖でお察しだろうと思うが、情報屋のマウスだ。


 「最後に」とつけると言うことは僕たちがこの街を出ることはもう知っているんだろう。


「何の情報?」

「もどりの森ッチュ」

「分かった買うよ」

「ありがたいッチュ」


 数回の利用で彼(彼女?)の情報が正しく役に立つものであることはわかっているので、エディは迷うことはしなかった。


 また冊子を渡されるのかなと思っていると、今回は冊子ではなく口頭での説明だった。


「もどりの森原因は妖精ッチュ。だからもどりの森を歩く時は妖精の大好きな砂糖菓子を道に落としていくと迷わずにいくことができるッチュ」


 なるほど……道に迷うは妖精の仕業というわけなのか。


「この情報は非売品ッチュから他の人に教えちゃだめッチュよ」

「え……それなのになんで僕に売ってくれたの?」

「他の情報屋に浮気しないお得意さまだからッチュ! と言いたいところッチュけど、魔物使いなんッチュよね? もし妖精がテイムできたら見せて欲しいんッチュ」

「自分でテイムしたりはしないの?」

「マウスのネズミたちじゃ森の魔物に太刀打ちできないッチュ。それにネズミたちの世話でいっぱいいっぱいッチュからね」


 そう言うと彼(彼女?)は幸せそうな苦笑を浮かべた。


 彼もエディと同じく、従魔を大切にするタイプの魔物使いだった。


「そういうことなら機会があればテイムしてみます」

「頼むッチュ」


 思わぬ相手から思わぬ頼みを受けてしまったけど、やるべきことは変わらない。


 街の露店をいくつか回って、一つのリュックがいっぱいになるくらいお菓子を買い集める。


「すごいいっぱい買ったね〜」


「駄菓子屋でも開けそうなくらい買ったもんね、何か食べる?」

「じゃあコロコロしたピンクの丸いやつ!」

「飴のこと? はいどうぞ」


 瓶の中からプラムが指差した飴を取り出し渡す。

 瓶は蓋をしっかり閉めたあと部屋に置いておいた。


「好きな時に食べていいけどあまり食べすぎちゃだめだよ」

「はーい」


 その後はこの一ヶ月酷使した身体を休めるため二人でダラダラしながら過ごした。


 晩ごはんの時間になると、戸締りをして真っ暗になった部屋にはしゃぐプラムの元気さに安心しつつ、近くの飲食店に赴いた。


 いつもは宿の簡素な食事で済ませているけど、今日は明日に向けて気合を入れ直す意味も込めて、しっかりと精のつくものを食べる予定だ。


 いつもより豪華な食事はあっという間に終わった。


 食べ終わったプラムがいつものように僕の指をくわえて魔力を吸うと「エディの魔力の方がさっぱりとした甘みがあって飽きがこない」などと評論家じみたことを言う。


「ほんとに魔力に味なんかあるの?」

「吸えばわかるよー。エディも、プラムの魔力吸ってみる?」


 そう言ってプラムが指を突き出してくるけど……


「いいよ、僕は〈魔力吸収〉のスキルを持ってないし……」


 そこまで言ったあと、エディは念話に切り替える。


『仮に持ってたとしてもプラムから魔力を吸ったら死んじゃうでしよ?』


 スライムは魔力枯渇で死んでしまう唯一の魔物だ。そんな彼女から魔力を吸うなんて命を削るのと同義だ。


 それに、プラムみたいなかわいい女の子の指を咥えられるわけがないよ!


『ちょっとだけなら大丈夫だよ?』

『だーめ。プラムを危険な目に合わせたくないの』

「そっかぁ……えへへ」


 残念そうだが嬉しそうな、なんとも言えない表情を浮かべながら、プラムはエディにもたれかかってくる。


 しばらくそうしていたのだが、不意に視線を感じ、ここが公共の場であることを思い出した。


「ぷ、プラム一旦離れようか」

「えぇー」

「そろそろ店も出ないとだし、ね?」

「わかったー」


 プラムが離れると視線の圧が少し軽くなった。


(視線に込められた怨嗟の意味はわかるけど、向ける相手間違ってるよね)


 恋人とか、そういうのでは無い。


 従魔と主人という関係ではあるけど、きょうだいや家族みたいなものだと思っている。


 会計を済ませたあと、怨みがましい視線から逃れるようにして店を出た。


「今日のお店、味薄かったね〜」

「そう? 僕はちょうど良かったと思うけど」

「プラムはもっと濃い方が好きかなぁ」

「好みが孤児院のちびっこたちみたい」

「意識芽生えてまだ半年だもん。子供も子供だよ? だからちびっ子みたくエディに甘えまくるのだー」


 どーん、と言いながらプラムは軽く体当たりをするような感じでエディの腕をとった。


 不意を突かれたエディは少しよろめいた。


「おっとっと。今日はやたらと甘えてくるね」

「そうかなぁ〜気のせいだよ。エディはプラムのこといつも大切にしてくれるもんね」

「もちろん大切なパートナーだからね」


 そうして二人は仲良く腕を組みながら宿に帰った。


 宿に着いた頃には日はすっかり沈んでいて、部屋に戻った二人を窓から差す月明かりが出迎えた。


「ゆっくり食べてたら遅くなっちゃったね〜」

「まあこう言う日もあっていいんじゃないかな?」

「そうだね〜、ぼわっふ、久しぶりのベッドだ〜」


 プラムはベッドに飛び込み嬉しそうにしている。


 ここ最近、ダンジョンで座りながら寝てばっかりだったもんね。テンションが上がる気持ちもよくわかる。


 明日が楽しみで眠れないなんてこともなく、エディはすぐに寝りについた。




◇◇◇




「あれ? 瓶の飴が開いてる……」


 目を覚まして所持品を確認していたエディは、随分と中身の減った飴の瓶を見て首をかしげた。


 しばらくして目を覚ましたプラムに尋ねると……


「バレないと思ったんだけどなぁ」


 とあっさり白状した。


 僕は蓋はきっちり閉めておかないと気が済まないタイプだからね、閉めたのははっきり覚えている。


「別に食べても怒らないよ」

「でも子供っぽいって言われそうだから……」


 プラムは恥ずかしそうにそっぽを向きながらそう言った。


「昨日さんざん『子供だー』って言って甘えてきたのに?」

「それとこれとは意味が違うの!」

「まあ、別に子供だなんて思わないよ」

「ほんと?」

「うん。でも飴食べた後、ちゃんと歯磨きしてから寝た?」

「もぅ〜子供扱いしないでよぅ」

「ごめんちょっとからかいたくなった」


 それにしても、とエディは瓶を振り返った。


 見てわかるくらいには嵩が減っているけど一体幾つ食べたんだろうか。


 まあ、あまり追求するのもよくないね。


 飴の件にそれ以上触れることはやめて、エディは話題を変える。


 むくれていたプラムはすぐにいつもの調子に戻り、和気藹々と他愛もない話をしながら朝ごはんを食べ、街の外に向かった。




 もどりの森についた二人はひとまず何もせずに歩いてみることにした。


「大っきな木があるねー」


 プラムが感嘆の声を上げるように、大人五人が輪っかになってようやく一周できるような大木が木々の向こうにちらほらと見受けられた。


 エディは目についた木の一つに火の魔法で焦げ目をつけ目印にしておく。


 半ば観光気分で進んでいると三十分ほど歩いたところで見覚えのある場所に出た。


「このマーク、エディが木に付けたやつだよね?」


 プラムがペシペシと叩いた木の幹には、表面を焼いて描いた記号がついていた。


「うん。まったく同じマークを描いた人が過去にいない限りそうなるね」

「じゃあ、戻ってきたってこと? 門番のおじさんが言ってたとおりなんだね」


 エディもプラムも実際に体験してみて本当にこんなことがあるのかと驚いていた。


 断崖の賢者は山の麓に住んでいるということなので、樹間の切れ間から時折見える山の頂に向かってまっすぐ進んでいたはずなのに元の場所に戻って来た。


 どんな魔法なのか想像もつかない。


「それじゃあそろそろ試してみようか」

「妖精さんっ♪ おっ菓子だよ〜♪」


 マウスに教えられたようにお菓子を落としながら歩き始める。


 何度か印をつけながら歩いていたけど、一時間歩いても印を再び見ることはなく、山の頂が少しずつ近づいて来ているのが分かった。


 それに太い木の割合がちょっと多くなっている。


 魔物に出くわし、二人で仕留めては休憩した後歩き出すことを繰り返していると次第に日が傾いて来た。


「よし、ここらで一旦夕ご飯にしよう」

「え? まだ早くない?」

「いや、料理の匂いで魔物を呼び寄せてしまうから、早めに夕ご飯を食べたら十分に離れないといけないみたいなんだ」

「なるほど〜」


 それから二人は夕ご飯の準備に取り掛かった。


 プラムが土の魔法でかまどを作っている間、僕は魔法袋から鉄板を取り出し、倒した魔物から取った脂をしく。


 振り向いた時には火の準備も終わったかまどがあった。


 行動を起こしてから火が安定するまでに五分とかからなかった。


「魔法って便利だね〜」

「僕らが一流の冒険者になれるんだもんなぁ」


 一流の証拠に、プラムの服装はこんな森の中にも関わらず女の子らしいスカート姿だ。


 今ではすっかり見慣れていてドギマギしなくなったけど、何度見ても可愛さは失われない。


 平鍋が十分に熱くなったところに魔物の肉を投入。薄くスライスしておいたためすぐに火が通った。魔力の回復を早めてくれる魔活草で作ったソースをつけて食べると少々苦いが意外と不味くはない。


「即席だけど思ったより美味しいね」

「そうだね。ちょっと苦いけど」

「そうかなぁ、あまり気にならないよ?」


 料理の評価もそこそこに、肉を噛みながら手も動かして後片付けをする。


 僕が水魔法で鉄板を洗ううちにプラムが土魔法で燃え後をごとかまど土の下に埋めた。


 調理時間含め二十分もかけずに食事を終え、赤みが増しつつある空を確認しながら速やかにその場を離れる。


 もちろんお菓子を落としておくのも忘れなかった。

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