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第一話 成人と出会い

新連載はじめました

スライムロリっ子を描きたかった

「これで僕も魔物使いになれるんだ……!」


 少年は、抑えきれない喜びを感じ、居ても立ってもいられなくなり走り出した。


 少し長めの栗色の髪を揺らしながら少年が魔物使いを目指すきっかけになった男の元へと報告に向かう。


 道を行き交う人々は、少年の笑顔いっぱいに走る姿を見て、ああ今日はこの少年の成人式だったんだなと納得する。


「よぉ、エディ! 成人おめでとう!」

「その様子だと、結果は良かったみたいだね!」

「おじさんありがと! うん! 門番さんに報告してくる!」


 店先に出ていた顔見知りのおじさんやおばさんが少年に声をかけると、少年は元気よく応えた。


 少年——エディは、今日十歳になった。この国では男女共に十歳からが成人とされ結婚は十三歳までできないものの一先ず一人の大人として認められるようになる。


 しかし、十歳になるということは実はそれ以外に大きな意味合いを持っていた。


 十歳になると、神殿で神様の祝福を授かることができるようになるのだ。


 この祝福は、言わば神様による支援のようなもので、祝福を受けた者に様々な恩恵をもたらしてくれる。


「門番さん! ヴァイス!」


 街の入り口についたエディは、門の前でホワイトウルフという魔物の毛を梳かしている男に声をかけた。


「ん、誰かと思えばエディじゃないか。誕生日おめでとう、だな」

「バウッ!」


 ヴァイスと呼ばれたホワイトウルフも、知性のこもった目でエディを見つめ、祝福するように吠えた。


「ありがとう! おじさん、ヴァイス! 僕ね、スキル〈テイム〉を授かったよ!」

「おお、やったじゃないか!」

「これで僕も魔物使いになれるよー」


 スキルは、日頃の努力や実力がその分野を司る神に認められれば授与されるもので、スキルを授かるために神殿に行く必要はあるが、有るのと無いのとでは大きな違いがある。分かりやすい例で言えば〈料理〉のスキルを持っていないと料理人にはなれない。露天で料理を売っている人は別だが、一度料理屋に入ると厨房にいる人はみんな〈料理〉スキルを持っている。


 エディの持つ〈テイム〉は、魔物を従わせ使役できるようになるスキルで、このスキルを持つ者は魔物使い、またはテイマーと呼ばれる。


 エディは魔物使いになれるようにと、努力してきた。その際、魔物使いである門番のおじさんに色々と協力してもらった。


「浮かれるのはいいが、テイムした魔物の気持ちを考えるようにな」

「わかってるよ、僕もおじさんとヴァイスみたいな仲になりたいしね!」

「うむ、魔物だって知性はあるし感情もある。魔物だからという理由で無理やり命令に従わせてこき使うなんてもってのほかだ。だが最近は——」


「あは、ははは……」


 また始まった。とエディは愛想笑いを浮かべる。


 一般的な魔物使いは、魔物にだけ戦わせ、自分は戦わず安全なところで司令塔に徹するという戦い方をする。だがこの男は、魔物を相棒と呼び、一緒になって戦うのだ。そして使役された魔物を蔑ろにすることを許さない。その心構えは立派だが、語り出したら止まらないというのが玉に瑕なんだよね、とエディは思う。


「そういえば聞きたいことがあるんだけど」とエディが切り出すと、男は物足りそうにしながら語るのを止めた。

「獣神さまって知ってる?」

「唐突だな。もしかして……獣神の加護を貰ったのか?」

「うん! 〈共栄〉って加護を貰ったんだけど……」

「加護をもらえるなんて凄いな! それに人間が獣神の加護を授かるのも珍しい……」


 この世界には様々な生き物が住んでいる。大きく分けると魔物・動物・人の三種類があり、一概に人といっても、エルフやドワーフ、猫耳と尻尾が生えたデミキャットなど様々だ。獣神は文字通り獣の神であり、デミキャットを含む獣人と呼ばれる区分の人種に対して加護を授けることはあってもそれ以外に授けることはあまりない。


「それにしても〈共栄〉か……。聞いたことないな」

「そっか……」

「すまんな力になれなくて」

「ううん、スキル習得を手伝ってくれただけですごく有り難いのに、これ以上お世話になるわけにはいかないよ。それに僕も成人したんだから自力で調べてみる!」

「おう、いい心がけだな。頑張れよ!」


 そうしてエディは、門を後にした。



「ただいまー」

「「「「おかえりー!」」」」

「あら、お帰りなさい」


 立て付けの悪い木の扉を開けるとたくさんの子供と一人の女の人が僕を迎えてくれた。


 ここは僕がお世話になっている孤児院。三年前、大規模な火災で両親と妹を亡くした僕はここの孤児院に引き取られ、今日まで過ごしてきた。落ち着いた雰囲気のシスターがここの院長先生で、僕の今のお母さんだ。子供たちはもちろん孤児で、同時に僕の弟妹たちということになる。


「願っていた通り、魔物使いになれたよ」

「そう、それは良かったわね〜!」


 院長先生は顔を綻ばせて、自分のことのように喜んでくれた。弟や妹たちも「すごい〜」「おめでとう〜」と祝ってくれた。


 しかし、院長先生の顔はすぐに暗くなってしまう。


「じゃあ、もうこの孤児院を出ていってしまうのね」

「はい……。今までありがとうございました」

「お兄ちゃん出て行っちゃうのー?」

「ヤダヤダずっとエディと居たい〜!」

「ごめんな、偶にお土産持って顔見せるから」

「皆さん、今日が最後なんだから、エディにいっぱい遊んでもらいなさい」

「「「はーい!」」」


 そうして僕は、ちびっ子の相手でヘトヘトになりながらも充実した一日を過ごした。



 翌日、孤児院を発ち早朝の冒険者ギルドに顔を出す。冒険者ギルドは、冒険者と呼ばれる何でも屋に仕事を紹介する言わば斡旋所のような場所だ。


 屋内に入ると受付のカウンターに座っているお姉さんを見つける。


「おはようございます!」

「おはようございます。エディくん、今日も早いですね?」

「はい! ランク更新に来ました」

「そういえば昨日が誕生日だったわね、おめでとう。とうとうエディくんも十歳ですか……ついこの間登録したばかりだと思ったのに」


 冒険者にはランクと呼ばれる階級があり普通は上からS・A・B・C・D・Eの六段階ある。


 本来十歳以上しか登録できないが、特別な事情がある場合にかぎりFランクとして冒険者に登録できるのだ。


 そしてエディは昨日までそのFランクだった。彼の場合は孤児であり成人後のためのお金を稼ぐ必要があったから冒険者登録をすることが認められたのだ。


 だが、成人した今、彼はEランクに上がることができる。と行っても、仕事の内容はFランクと大して変わらない。


 ランクアップの手続きを済ませると、仕事が張り出されている掲示板から適当な依頼を二、三件剥がし、受付に持って行って依頼を受ける。


「結構実績も溜まっているし、エディくんならすぐにDランクになれると思うけど、焦って森の奥に行ったりしないようにね」

「わかってますよ。僕も成人したばかりで死にたくはないですしね」


 手を振って送り出してくれるお姉さんに行ってきますを告げると、急いで街の外に向かった。


 急ぐことはないと言われたが、僕は早くDランクになりたい。と言うのもDランクからは魔物の討伐系依頼を受けることができるようになるのだ。

 僕の目指している魔物使いは、あたりまえだけど魔物と遭遇しないことには魔物をテイムできない。そもそも魔物との遭遇を避けなければならないEランクではお話にならないのだ。


 だから、まさかあんなに早く魔物をテイムできるなんて思っていなかった。


◇◇◇


 Eランクになって一ヶ月ぐらい経ったある日、僕はいつものように朝早くから平原に出ていた。


 この平原はでこぼこ高原と呼ばれ、高さ一メートルほどの溝やでっぱりがあちこちにある、かなり凹凸の激しい地域だ。歩きにくいことこの上ないが、このあたりにしか生えない薬草があるため、僕のように採取依頼で生計を立てる人間が多くやって来る。


 また、このあたりはスライムが出る。


 スライムという魔物はかなり弱く、攻撃方法も生き物の顔に張り付いて窒息させるだけ。顔にさえ気をつければ僕でも倒すことができる。しかし、素人が無謀な戦いをしないように、Eランクが魔物の素材を持って行っても買い取ってもらえないという決まりがあるため、誰も好んで狩りはしないのだ。


「よし、これで依頼の分は集まった」


 薬草の束をひとまとめにして鞄に放り込み、背中を伸ばすために立ち上がる。


 スライムが近寄ってきていないか確認しようと見回すと、数メートル離れた岩の陰に見慣れないものが見えた。


「ん、あれは?」


 気になった僕は岩場を一つ二つ乗り越えると、それが何かわかった。


 結果から言えばそれはピンクスライムというスライムの亜種だった。しかし亜種とは言っても普通のスライムと色が違うだけ。普通のスライムは青色と緑色の中間のような色をしているのだが、そのピンクスライムはピンク色なのだ。


「ピンクスライムを見られるなんて運がいいなぁ」


 ピンクスライムは見ると幸運が舞い込んでくると言われている。ちょっと嬉しくなりながらしばらくピンクスライムを見ていた。


 しかし、様子がおかしいことに気づく。


 なんだか「しなっ」としているのだ。


(もしかして弱っている?)


 僕は、いつでも逃げられるように警戒しながら近づいた。


 案の定ピンクスライムは、すぐそばに近寄っても襲いかかることも逃げることもせず、地面にべたりと広がったままだった。


 助けてあげたい、と思った。


 でも何が原因となっているのかがわからないから、どうすることもできない。


「何を考えているのかわかるといいんだけど……。あ!」


 僕は、門番のおじさんが相棒のヴァイスと心を通わせているのを思い出した。


 そうだ! テイムすればこの子の考えていることがわかる!


 魔物使いは、テイムすることによって魔物と精神的な繋がりを得、言葉の通じない魔物に様々な指示をすることができる。


 そして、その気になれば、従えた魔物(従魔)の伝えようとしていることを知ることもできるのだ。


「て、〈テイム〉!」


 相手に干渉するこの手のスキルは抵抗されることもあるというが、ピンクスライムは全く抵抗することなく、簡単にテイムすることができた。


 そして精神的なバイパスが通った瞬間に、スライムから猛烈な空腹感が伝わってきた。


「お腹が空いたんだね⁉︎ じゃあこれを食べて!」


 カバンの中から昼食用に持って来ていた乾パンを取り出し、ピンクスライムの上に置く。乾パンはピンクスライムの中にずぶずぶと沈んでいき泡となって消えた。


 だが、伝わってくる空腹感は全然足りないことを物語っている。


 僕は、少し考えた後、鞄の中にある薬草の束をピンクスライムに食べさせた。


 後で分かったが、このピンクスライムは魔力が欠乏して動けなくなっていたようだ。


 食べさせた薬草の中に魔力を回復する効能をもつ魔力草があったおかげでピンクスライムはみるみる元気を取り戻して行った。


「そうだ、テイムしたんだから名前を付けてあげないとね。プニっとしたスライムだからプラムでどう?」


 すっかり元気になって僕の足の上でプニプニと揺れているピンクスライムは、分かっているのか分かっていないのか一度大きく体を震わせた。


 かすかに喜びの感情が流れてくる。どうやら気に入ってくれたみたいだ。

【神殿】

一般的な認識は、神様からスキルを授かるところ。

ここに赴いて祈りを捧げることで、神様に今までの努力・経験を晒し、それが評価されると褒賞としてスキルを授けられる。


【スキル】

 一般的な認識は、特定の技術をサポートするもの。

 各分野の神様に見込みありと判断されると褒賞として授けられ、技術の質を向上してもらえる。

 基本的にはサポートであるため、スキルがなくても技術があれば同じことができる。

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