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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第2部 俺こそがエンターテイメントだ。
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最後の希望

 プロテクト・フィールド──。

 俺が浴場で入手した第二の呪文は、名前の通り……周囲に障壁を展開する防御呪文だった。

 それにより間一髪……何とか相手の攻撃を防ぐことが出来たものの…この障壁もいつまで保つか分からない。


 状況は依然としてジリ貧という他に無かった。


「フン……何とも邪魔くさい壁だ。だが、君達は既に包囲されている。それで、一体どうしようと言うんだね!」


 障壁の向こうで、ガリベールンが鼻を鳴らす。

 そして、相も変わらずにリザード達も障壁へと飛び掛かっていた。


(クソッ! 一体、どうすれば……)


 まさに、袋の鼠状態である。


「おい、カンザキ。この状況を打開するような呪文は! 何かねぇのか!」

「すみませんカイルさん。俺にはこの障壁で手一杯です。それに、もし何かあったとしても……一度この障壁を解除しないと、恐らく発動出来そうにないです」


「そうかよ。クソッ、この鎧さえ外せれば……!」


 カイルさんは忌々し気に漆黒の鎧に目を向ける。

 そして、何とか具足を外そうと、しばらく格闘したのち……諦めた。


「ダメだ! 分からん!」

「何で自分で装備した物、外せないんですか!!」


「うるせー!! しょうがねえだろ!! ドルグに着付けてもらったんだよ!!」


 俺のツッコミに、カイルさんが反論する。


 思えば……日本でも着付け教室など、散々に宣伝しているのを目にしている。

 あるいは、それに近い感覚なのかもしれない。


(だが、今はそんなことを言ってる場合じゃないだろう!)


 そう思った時、声はゆっくりとその場に響き渡った。


「痛ッ……あのー、僕がどうかしました……?」

「「ドルグ!!」」


 思わず、俺とカイルさんの声が重なる。

 振り返った先に居たのは、後頭部を摩りながらゆっくりと巨体を起こす、我が同期……ドルグの姿だった。


 俺たちの叫び声に、一体、何事かと……一家はこちらへと向き直る。

 そして、起き上がるドルグを見たディーノとご主人は、こちらへと駆け寄ってきた。


「パパ! 騎士が生き返った!!」

「大量の魔物が出現したり、急に変な壁が出来たり……倒れた騎士が蘇ったり、素晴らしい演出の数々。恐れ入ったよ!」


 奥さんは、そんな夫を諌めながら…後に続く。


「あなた!! 笑いごとじゃ無いでしょう!!」

「いやいや、カンザキさんの大魔導の力で以てして、最初からこうなる予定だったんだ。何も怯えることは無いじゃないか!」


「ハハ……」


 寄せられる謎の信頼に、乾いた笑いが零れ出た。

 いっそのこと、このまま一家には勘違いしておいてもらったままの方が良いのでは……などと、そんな考えが頭を過ぎった。


「確か……後頭部に急に何かがぶつかって……って、うわっ! 何だこれ……」


 一方、目を覚ましたドルグは周囲を見渡して絶句する。

 当然だろう。周囲を謎の障壁に囲まれ、その外側には大量のリザードと、かつての料理対決の対戦相手……ガリベールンがボウガンを構えているのだ。

 瞬時にこの状況を理解できる方がどうかしている。


 俺は、現在の状況を的確かつ、端的に説明した。


「ドルグ、落ち着いて聞いてくれ。

 今現在、大量のリザードとガリベンに復讐されている。俺は、呪文でその攻撃を防いでいる。そんな中……カイルさんは鎧を脱ぎ捨てたいらしい。手伝ってくれ!!」

「なにその状況!?」


 やはり、理解できなかったらしい。

 だが、俺も後に引くわけにもいかない。


「俺にもよく分からん! だが、それが今……必要らしい」

「ハァ……分かったよ。相変わらず無茶苦茶だなぁ」


 ドルグはため息をつきながらも、カイルさんの鎧を外していく。

 自身も普段から鎧を纏っているだけあって、その手付きは手慣れたものだった。


「はー、ようやく解放されたぜ!!」


 軽装になったカイルさんは、その場で体を伸ばす。

 そして、ご主人に頭を下げた。


「すんません。その剣、俺にちょっと貸してもらえません?」

「あ、あぁ……」


 剣を受け取ったカイルさんは、その場で軽く二、三回飛び跳ねた後、その場に落ちていた兜を片手で拾い、思いきり投げつける。

 すると、兜は障壁をすり抜け、一匹のリザードへと直撃した。


「なるほど、この障壁……どうやら、内から外へは出られるらしい。さすがは呪文の力だな、都合が良い」


 カイルさんは、俺に声を掛ける。


「カンザキ、この窮地を脱する手段は二つある。一つは強硬突破。そして、もう一つは……あまり気は進まないが、持久戦だ。

 もし、俺がしくじった時には……ひたすらに耐えろ。そうすりゃ、お前らの勝ちが見えてくる」

「えっ……?」

「見回りだよ。だが、部の悪い賭けだ。だから、まずは俺が行く」


 その言葉の意味を理解し、俺はカイルさんに問いかける。


「カイルさん……一体、何を……?」


「それじゃ、後は頼んだ」

 

 しかし、その言葉には答えず……カイルさんは俺の横を凄まじい速さで駆け抜けていく。


「うおりゃあああ!!」


 そして、障壁を越えると同時に、ご主人から渡された剣を地面に振り下ろした。

 途端、数匹のリザード達が宙を舞う。


「今だ、カンザキ!! 全員でここから脱出しろ!!」


 カイルさんの声が響く。

 状況突破の糸口が掴めたと、そう思った瞬間……。


「次は当てる。そう、言ったよね」


 嫌味ったらしい声が聞こえた……そう思った時には既に遅かった。

 後方から発射された矢がカイルさんに向かって飛んでいく。

 そして矢は勢いのまま、右足首に突き刺さった。


「グアアアアアッ!!」


 絶叫が響き渡り、その場にカイルさんが倒れこむ。

 周囲には鮮血が流れ出した。


「お母さん、血が……」

「見ちゃダメ!」

 

 奥さんはディーノの目線を隠すべく、覆いかぶさる。

 ご主人は、二人を庇うべく……ガリベールンと無言で対峙した。


「前しか見てないから、そうなるんだよね。

 さっさと、この邪魔臭い障壁をぶち破って、全員まとめてリザード達の餌になるといいんだね!!」


 ガリベールンはその様子を見て、ケラケラと笑う。

 一方で、ドルグは戦慄の表情を浮かべていた。


「嘘でしょ……あの距離で、正確に足首を打ち抜くなんて……」


 ガリベールンからカイルさんまでの距離は、優に100mは越えている。

 その上、素早く動き回るカイルさんの足首を狙って打ち込むなど、もはや達人の技である。


 奴自身が、その特技を持っていたのか……あるいは、あのボウガンに特性があるのかは分からない。

 しかし、今、俺達が障壁から外へ出れば……間違いなくその矢を撃ち込まれことだけは確かだろう。


「クソッ!! この程度、何ともッ!!」


 カイルさんはよろけながらも立ち上がる。そして、迫りくるリザード達を薙ぎ払い、そのまま数匹を絶命させた。その様子にリザード達はたじろぐ。

 だが、その時……ガリベールンの声が再び、耳に届いた。


「チッ……いい加減、膝をつきたまえ」


 ややあって、風切り音。

 気が付けば、俺は叫んでいた。


「カイルさん!! 避けて下さい!!」


 しかし、無情にもカイルさんへ向けて、再び矢は一直線に飛んでいく。

 またしても、それは足を狙ったものだった。

 

 間に合わない──!


 負傷したカイルさんが避けるには、射出された矢はあまりに早すぎる。

 今まさに迫りくる……悲痛な光景が脳へ思い浮かんだ。


 ──ガキンッ!!


 だが、予想に反して金属音が響き渡る。

 カイルさんは避けられないと悟り、左足首に剣を構え、盾替わりに矢の一撃を防いでみせたのだ。


「避ける必要はねぇ。狙う場所が分かってれば、それを防ぐだけだ」


 冷静にそう告げるカイルさん。


「抜け目のないお前のことだ。膝をつけというのなら……さっきとは逆足に狙いを付けるだろうとは思ったぜ。その方が、より機動力は削げるからな」


 ガリベールンは、その言葉に嫌味ったらしく答えた。


「ほう、なるほど……だが、そのネタ晴らしをした以上……私は、足以外を撃つかもしれないね。頭か胴か、手首かもしれないね」

「あぁ、そうだな。じゃあ、やってみろよ」

「フン、強がりを!!」

 

 そして、再び矢を装填すると、歪んだ表情で狙いをつける。


「ど~こ~に、し~よ~う〜か〜な~?」


 それは、今まさに自分がこの場での圧倒的強者であるという、余裕に満ちた動作だった。

 故に、奴はまったく考慮していなかったのだろう。


 この場に新たに響き渡る声……そして、俺たちにとっての最後の希望──。


「おいおい、何だこりゃ。あんまりにもお前らの帰りが遅いから、様子を見に来てみりゃ……どういう有様だこりゃ」


 ──すなわち、第三者の介入を。

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