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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第2部 俺こそがエンターテイメントだ。
64/75

《お前を導いてやる。》

「ハァ…ハァ…。」


 日が沈み、辺りには静寂が広まる中…青年は森の中を彷徨っていた。


「アイツら…絶対に…絶対に許さないんだね。」


 行先など無い。


 ただ、大勢の前で自らに『敗者』の烙印を押し、屈辱を与えた奴等に対しての憎悪、そして…復讐心のために、彼は生きていた。


 憎っくき奴らに対して、必ず…同じ目に遭わせてやるのだと。

 大衆の前で、これ以上ない屈辱を味わわせてやるのだと。


 しかし、彼は重大なミスを犯してしまった。

 怒りに身を任せ、この身一つで街を飛び出してしまったのだ。


 当然、森の中の地形・状況など知る術もない。

 あれから数日…森の中で食用の木の実を探し、何とか飢えを凌いできたものの、それも限界を迎えつつあった。


 服は擦り切れ、水も満足に手に入れることが出来ず、木の実と樹液から水分を啜る日々。

 肉体・精神共に摩耗したその様相は、さながら脱獄囚のようだと言って差し支えないだろう。


 いつの間にか彼は自らが最も忌み嫌う、哀れみ…或いは蔑むような対象へと成り下がっていた。


「おや…。」


 だが、天は更に追い打ちをかける。

 夜の闇に中、彼の鼻先に水滴が落ちた。


 次第にそれは1滴、2滴と数を増やしていく。

 気づけば、周囲には冷たい大量の雫が降り注いでいた。


「雨じゃないかね…。」


 何とか、この状態を凌がなければならない。

 その一心で彼は、体を動かす。


「うおっ…。」


 ところが…足が思うように進まず、泥濘んだ地面でバランスを崩した彼は前方へと倒れ込む。


「これは…これはマズいんじゃないかね。…ッ痛。」


 何とか立ち上がろうとするものの、足に痛みが走る。


 雨は相も変わらず全身を打ち付け、彼の体力を奪っていく。

 全身から力が抜け…気力も失われていった。


 思えば、ここ数日…少々の木の実と樹液だけで生き長らえることが出来た…それ自体が奇跡だったのかもしれない。


 いよいよ、ここまでかと…そう彼は悟った。

 努力も虚しく、ただここで死を待つのみか…と。


 すると、頭の中に様々な情景が浮かんでは消えていった。


 幼少の頃、大切な物を奪ったガキ大将。

 自らが強くあれと力説した、大男。

 大学の中…まるで腫れ物を扱うかのごとく、距離を取る学友達。


 そして、自らを屈辱へと叩き落とした新人とアル中男。

 

 奴らに負かされ、森の中で人知れず野垂れ死ぬ…なんて惨めな死に様だろう。

 そんなことは認めない。断じて、認めてなるものか。


(奴らの言う、繋がり…それを否定する。完膚なきまでに。そして、示すのだ。私こそが強者であると。)


 そして、彼は自らの意思を口にした。


「まだ…まだ、死にたくない。こんなところで、こんなみじめに私は終わりたくない!!」


 だが、無論…それで何が起こるわけでもなく…雨は降り続ける。


「は…ハハ…。まぁ、そりゃあそうだろうね。」


 やはり、自分はここで…。


──本当にそれでいいのか。


「えっ…。」


 諦めかけたその時…不意に、声が響いた。


「い…一体、誰なんだね。」


 周囲を見渡しても、人影などない。

 当たり前だ、こんな時間に自分以外に森を彷徨っている人間が居ようものなら…それこそ、常人ではない。


「す、姿を見せるんだね。」


 だが、その言葉に答える者は居ない。

 いよいよ、幻聴まで聞こえるようになったかと…彼は嘆息する。


 しかし、声は再び…彼に問いかけた。


──お前は、ここで終わるのか。



「い…一体、何を言っているんだね。」


 


 

──お前は負け犬という烙印を押されたまま…奴らに嘲笑われたまま…惨めに終わるのか。



「違う…。」



──自らの全てを否定されたまま…終わるのか。




「違う!」




──ならば、私がお前を導いてやる。




「みちび…く。お前…は…一体。」




 不意に意識が遠のく。


(ダメ…だ、この声を…聞いていては…!)


 何とか、耳を塞ごうとする…。


 何故かは分からないが、本能がそう告げるのだ。

 この声は危険だと、決して耳を傾けてはならないと。 




──我が名は@$!!#&#%、全てを導く者。




 だが、その抵抗も虚しく、声は脳へと直接流れ込んでくる。

 すると、彼の中の何かが決壊した。


(あぁ…何故だろうね。とても心地よい…。)


 その声は、不思議なまでに甘美な響きを持っていたのだ。

 聞いてはいけないと分かっていながらも、その誘惑に抗うことが出来ないのだ。


 声の主は一体、今なんと言ったのか…それすらも分からない。


 しかし、そんなことはもう…どうでもよかった。

 今はただ…。




──強き者、ガリベールン。我が導きを受け入れよ。




(ただ…この声に身を委ねていたい。)

 


 その願望に従い、彼は小さく答える。


「は…い…。」



 その瞬間…彼の意識は闇へ飲み込まれていった。


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