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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第2部 俺こそがエンターテイメントだ。
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次なる計画


 それからの日々はといえば、忙しないもので…気付けば広場での勝負、そしてガリ勉先輩の失踪から1週間が経っていた。

 結局、今も彼の行方はつかめないまま、時間はただただ過ぎていく。


「とりあえず、捜索を役人に依頼した。だが…正直望みは薄いだろうな。」


 静まり返る食肉レストランの事務所の中、ラフきゅんはそう言い放つ。


 聞くところによると、この世界で行方不明者が見つかる可能性というのは、お世辞にも高いとは言えないらしい。

 よくよく考えてみると、指紋照合も無ければインターネットもない。もっと言えば、無線すら無く…ただただ足で稼ぐしか無いのだ。

 それも仕方のないことなのだろう。


「ラフきゅん…すみません。俺のせいで…。」


 ガリ勉先輩の逃亡…その、最後の引き金を引いたであろう俺はラフきゅんに謝罪をした。

 自分が本当に悪かったかと問われると、正直疑問が残るところではある。

 だが、実際問題…1人の従業員が失踪するキッカケを作ってしまったことは間違いないのだ。

 場合によっては処分もやむ無しだろう。


 覚悟を決めて、俺は頭を下げる。

 その豪腕から繰り出される拳を受ければ、自分などひとたまりもないだろう。

 痛いくらいのことで済めばまだいい。下手をすれば…。


(何考えてんだ俺は…しっかりしろ。)


 自らの悪い想像を振り切るべく、目を瞑る。



 ところが、その頭上には罵倒も拳も飛んでくることは無かった。

 ラフきゅんはただ、静かに告げる。


「なに、気にすんな。お前らは正々堂々…とは言えないかもしれないが…少なくとも、お互いに決着は付けたんだ。それを、あいつは受け入れられなかった。だから、お前にどうこう言うつもりは一切無い。そんなわけで…下ばっか向いてないでとりあえず、頭上げろ。」


 俺はその言葉に従い目を開き、顔を上げる。

 すると、いつになく真剣な表情のラフきゅんがそこに居た。


「確かに企画部としては痛手だし、アイツに対して個人的に思うことが無いわけでもねぇ。だが、結局それはアイツの歪みを最後まで正すことが出来なかった俺の責任なんだ。だから、この話はこれまでだ。俺が何とかする。そんでもって、これ以上…湿っぽいのはナシだ。分かったな。」


「…はい。」


「あぁ、よく言った。それでこそ漢だ。」


 俺はラフきゅんの目を真っ直ぐに見据える。

 

 嘘を言っているようには見えない、そして「俺が何とかする。」という、ひどく曖昧な言葉も信じられるような…そんな気がした。


「よろしく…お願いします。」


 その言葉にラフきゅんは大きく頷く。



 しばしの静寂…そしてその後、彼自身が何かを吹っ切るかのごとく、突然声を上げた。




「ってなわけで…そんな漢たるお前が今、気にするべきはこいつだあああああ!!」



 ラフきゅんは言葉と共に一枚の書面を指差す。

 俺はその切替の早さに驚愕しつつも、先程と同様の返事をした。


「だから…それは…いくらなんでも無理ですって…。」


 しかし、この大柄な企画部長にとっては、俺の意見など逆風にもならないらしい。


「いーや、無理じゃねえ!あのガリ勉を…経験無しにいきなり負かして見せたんだ。お前には人を集めるセンスがある。」


「それは結局身内が…。」

「だまらっしゃい!!いいか、この…()()()。こいつを!お前は今!考えなけりゃならねえんだ!!」


 そして、再び机を叩くラフきゅん。

 熱い。それから、机が壊れそうで怖い。


「安心しろ。もし不足の事態が発生しても…俺が全力でカバーしてやる!!さぁ、書け!!書くんだ!!カンザキ!!」


 それが一番不安なんだよなぁ…とは口に出すわけもいかず、目を伏せる。

 だが、俺も真っ白な灰になるのはゴメンだ。


「ほんと、勘弁して下さいよ…。」


「いいぜ…カンザキ。どうしても書かないというのなら…俺にも考えがある。」


「ど、どうしようっていうんですか…。」


「お前を殺して俺も死ぬ!!」


「どうしてそうなった!?」


 何だか面倒くさいメンヘラみたいなことを宣い始めるラフきゅん。

 一体、どこの世界にこの大男と心中して喜ぶ男が居るというのだろう。


「じゃあ書いてくれるんだな!」


「あーもう。分かりました。分かりましたよ。考えます。」

「おう、よく言った。期待してるぜ、大魔導さんよ。」


 俺の言質を取って大満悦なご様子の企画部長…ラフきゅん。


 一体、大魔導としての能力が今回…何の役に立つのかも分からないが、ラフきゅんはと言えば「これでもう安心だ。」などとウンウン頷いてみせる。


「んじゃ、そういうワケでヨロシク!」

 

 そして、似合わないステップなど踏みながら、自らの名前を冠するレストランを後にする。

 去り際に「おうおう、今日も疲れさーん!」と軽快に去っていく様は実に彼らしいと言えるのかもしれない。


 一方、1人重圧の中で取り残された俺は、いつかのように、再び頭を悩ませていた。


(またもや…えらいことになってしまった。)


 というか…どうしていつもこうなるんだ!!

 






 勝負の翌日からのここ一週間、俺達はガリ勉先輩が運営を任されていた洞窟型食肉レストラン、ラフ・キューンで労働へと勤しんでいた。

 逐電した先輩に代わり新たに店長に就任したテフォルさんは、まさに敏腕という2文字が似合う女性であった。

 

 店長としての指示は出しつつも、店内の誰よりも率先して仕事に取り組む彼女の姿は、まさに責任者のあるべき姿と言って差し支えないだろう。

 その結果として、店内にはいい意味での緊張感が満ちており、従業員は皆それぞれ充足感を得ることが出来ていた。


 俺達3名もまた例に漏れず、厳しいながらも充実した日々を送っていた。

 そして、この日々が研修が終わるまで続くものだと…そう、心のどこかで思っていた。


 そんな中、迎えた本日。ラフきゅんと言う名の嵐が吹き荒れた。


 来客のピークも過ぎ去った頃…唐突に来店したラフきゅんは俺1人をラフ・キューンの事務所へと呼びつけた。


 そして、入室早々に1枚の書面を俺へと手渡したのだ。

 それこそが先程の「お前を殺して俺も死ぬ!!」などとラフきゅんに言わしめた書類である。


 俺はその表題を眺めつつ、ひとりごちる。

 

「新規ダンジョン利用施設の計画書…ねぇ。」


 そして、表題の下に書かれている文章はたった2行のみ。


 『ダンジョン詳細については追って連絡する。

       自由な発想でゼロから計画を立案せよ。』


 まさしく無理難題である。俺にはダンジョン利用の計画どころか、そもそも施設の計画を立案したことなど無いのだ。

 当たり前と言えば当たり前だろう。こちとら元の世界ではただのNNT、あるいは腐れニートなのだ。そんな機会などあろうはずもない。

 

 ところが、ラフきゅんはと言えば、俺の事情を考慮することも無く、ただ「お前なら出来る。」と言うばかりであった。


 ハッキリ言って、一切の容赦も有りはしない。

 それどころか…この無理難題に更に条件をつけたのだ。


「いいか、基本的には何をしても構わねえ。だが、一つだけ条件がある。子供が!笑って!楽しく過ごせる施設!!そいつが絶対条件だ。」


 どうにもラフきゅんは『子供』に何か思い入れがあるらしい。

 一方的な押しつけなのだから、そんなものは無視してしまえばいいのかもしれない。


 しかし、思い起こした彼の言葉の熱量にはどこか常ならぬものがあった。 

 恐らく、この条件は避けては通れないだろう。


 もちろん、端っから夜のお店などやるつもりはない。

 実入りはいいかもしれないが、あまりにハードルが高すぎる。


 だが、子供にフォーカスした施設ともなると、選択肢の幅が狭まるのは避けようがないだろう。


「あー、どうしたもんかねー。もう。」


 気になっていたガリ勉先輩についての情報は貰えたものの…基本的には言いたいことだけ言って、無理難題を押し付けた上で去っていった企画部長。

 その大きな背中へと恨み辛みをぶつけつつ、俺の時間はただ、無為に過ぎていくのだった。



第2部も終盤です。

あと、もう少しお付き合いいただけると幸いです。

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