うちのギルドは前(株)です。 ①
「う…ん…?」
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。俺は、あの時気を失ったのか…。
というか…。
「ちょ…え…マジかよ!」
常識を超えた出来事に頭が追いつかない。
「…ここが…異世界…?」
辺りを見回し、まずは状況を確認する。
どうやら、俺は椅子に座った状態で気を失っていたようだ。
机を挟み、向かいには凄まじい形相のヒゲのおっさんが居る。
そして、左隣にはポニーテールの女。腰には細身の剣を挿している。結構可愛い。
さらに右隣には鎧を着た男。
すぐ横に立掛けてある盾と剣は彼の物だろうか…。すごく…ごついです。
分からないことだらけだったが、この部屋の厳格な雰囲気により、意外と冷静さを保つことが出来ていた。
状況から察するに、俺は両隣の二人と共に、この恐ろしいヒゲから何かしらのレクチャーを受ける予定のようだ。
「もういいかね?」
俺が、周囲の状況を確認したのを見計らって、ヒゲがこちらに語りかける。
「あ…はい。」
「初日から入社ガイダンスで爆睡とは、いいご身分だな!!」
青筋を浮かべながら、ヒゲが檄を飛ばす。
どうやら、俺は入社イベントの真っ只中に転送されたらしい。あの暴力女神め…許さん…。
正直、まだ状況を把握しきれてはいなかったが…一つ確かなことがあった。
この窮地は自力で乗り越えなければならない。恐らく俺の上司になろうお方がブチ切れているのだ。
「申し訳ございませんでした!!!」
かくして、俺は早くも社会人として初めての土下座を経験した。
そして、額を床に擦り付けること数分。
「まぁ、いいだろう。顔を上げなさい。」
ヒゲはどうやら土下座で気分を直してくれたようだ。隣に居る両名は、若干…いや結構、引いている気がしないでもない。
「私の名前はヒルゲール。一応、このターナーズで営業部長を務めている。」
こうして、各々の自己紹介が始まる。
しかし、どっちにしてもヒゲと呼ばざるを得ないな、この人。
「諸君らの名前を教えてくれ。向かって右から。」
「私の名前はフィーネ、クラスは剣士です。よろしくお願いします。」
ポニーテールがさらりと自己紹介を終える。
「次、真ん中。」
自分の番が回ってきてしまった。
「か…神崎 、大魔導です。」
緊張しながらも何とか自己紹介を終える。
「ほう、貴様が。」
ヒゲがニヤリと笑い、こちらを見る。正直、怖いから辞めて欲しい。
「まあいい、次だ。左。」
俺の心情を汲み取ってか、次へと移る。
「僕はドルグ。クラスは戦士です。よろしくお願い致します。」
右隣の男も、どうということはなく回答する。
「うむ、名前とクラスは把握した。今から諸君らは同期だ、互いに切磋琢磨するように。」
クラスというのは…恐らく自分の役割のことなのだろう。
ギルドと言うからには戦いにおける役割を指しているに違いない。となると、俺のクラスとやらは一体何なのだろう…。
紹介したつもりはないが。
気になった俺はヒゲ部長に確認をする。
「あ、あの…」
「なんだね。」
「お…いや、私のクラスというのは一体…?」
「貴様は女神様の推薦枠で入社した大魔導であろう。何を言っているのだ。」
「へ…?」
「当社の社長の夢の中に女神ライラ様が現れ、カンザキという名の大魔導を寄越すので擦り切れるまで酷使するようにとの仰せだったそうだが…女神様から聞いていないのか?」
あの女神…なんてこと吹き込みやがる!!!!
「ちなみに、身分証明?もここにあるぞ。社長の枕元に置いてあったそうだ。私には読めないが。」
俺が高速で仕上げた履歴書が、そこにはあった。
「あ、はい。間違いないです。私です。」
俺の気のない返事が虚しく響く。
特記欄:何でもやります!!の文字がヒゲに読まれなかったのが不幸中の幸いだった。