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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1部 新人営業のススメ。
5/75

神とトイレと天使たち

 そこは広い平原だった。俺の目の前には数多の仲間達。

 彼らはみな、一様にこちらに手を振りながら遠ざかっていく。


 い…


「行かないでくれええええええ!!」

「え…何ちょっと、私お手洗い行きたいんだけど…」


 目覚めた俺の目に入ったのは、こちらに対して嫌悪感を露わにするスーツ美女だった。


「えと…あの…はい…すいません。あ…あと俺にお茶淹れて下さい。」

 って…何口走ってんだ俺は!?


「こ…この変態があああああああああああああ!!!!」


 紅潮した美女のビンタを一身に受ける俺。

 我々の業界では…ご褒美です…。



「ここまでの変態は久々だわ。」

 緑茶を飲みながら、例の謎美女は俺に対してそう言い放つ。もちろんれっきとしたお茶である。


 気が動転していたのか、ついお茶まで要求してしまった…。

「えっとあのすいません…」


「まあ、いいわ。とりあえず自己紹介しとく。あたしはライラ。神よ」

「へー、凄いざっくりですね…」

「もうちょっと驚きなさいよ!」

「いや…なんかね…スーツ姿でそれ言われましてもね…」


 ありがたみゼロである。


「しょ、しょうがないじゃない!怪しまれない服装にしなきゃいけないんだから!」

「へぇ…そんなもんなんですか…」

「し、信じてないー!!!」

 

 きっと、彼女は頭のおかしい新興宗教にでも嵌っているのだろう、哀れだ。


 そして俺は、あることに気づく。


「あれ?さっきまで失神してたおじいさん達はどこへ?」

「帰ったわよ。」


 まあ、そりゃそうか。


「天へ。」


 ってえええええええええええええええええええ!?


「う…嘘だろ…。」


 お…俺が下らない見栄張ってイオ◯ズンとか言ったばっかりに、老人を3名も天へと送ってしまったのか…。

「け…警察は呼ばないでええええええ、俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない!!」


 そうだよ、あいつらは勝手に自滅したんだ!!

「なぁそうだろ!ライ…」


 バチーン!!!再び俺の頬に手の平一閃。

「うるさい。」

「はい…スンマセン…。」


 その衝撃に、俺は平常心を取り戻した。

 やれやれといった様子で話しを続ける自称女神様。


「天に帰った。っていうのは本当に天界へ文字通り帰ったのよ。」

「ちょっとよく分かんないです。」

「…もう一回ビンタいっとく?」

「いえ、結構です…。」


 しかし…何かこの自称女神、物理攻撃多くないか…。


 気を取り直して、と一呼吸置いてから自称女神は改めて説明を始めた。

「まず、彼らは新入りの天使達なのよ。」

「そうは見えないけど…。」


 相変わらず何を言っているのか良くわからない。彼女もこちらの様子を察してか、溜息をつく。

「いいわ、一から説明する。」

「そりゃどうも。」


 まず、と前置きをすると自称女神は、天使についての解説を始めた。


「人の死後、条件を満たしたものは天使になる場合があるわ。」

「へー。」

「彼らの姿は、死後間もないから、その時のイメージを再現しているの。長い年月を経て、彼らは自分の能力が一番発揮出来る頃の姿を取り戻すわ。」

「じゃあジジイが新人で、逆に若い奴らが先輩なのね…」

「そゆこと。」


 見た目新人の上司と見た目死に際の新人か…天界も楽では無いな。


「じゃあ、あの服装は?」

「私の趣味よ。」


 ジジイにコスプレさせて何が楽しいのか…理解に苦しむ趣味であった。


「まぁその辺り諸々含めて、未だにあんたが神だっていうの、信じられないんですが。」

 

 俺は率直に意見を伝える。どうしても、今この場にいる胡散臭い女性が女神だとは思えなかった。確かに見てくれは大分良く、神秘的な雰囲気を纏っているが…いかんせん中身が…。


「いいわ、見てなさい。」


 そう言うと、自称女神は姿を消した。そして、先程の老人が5m程先に出現する。


「変身とテレポートの合せ技!ちなみにこの部屋も私の力で作った空間よ。」


 そう言うと自称女神は部屋の壁の至る所にドアを出現させた。だからジジイの格好で女言葉喋るなよ…。


 何はともあれ、ここまでやられてしまっては認めざるを得なかった。彼女はやはり神か、あるいはそれに近い存在なのだろう。


「あーはいはい。よく分かりましたよ女神サマ。」

 

 嫌々、拍手をする。


「ふっふーん♪ようやく認めたわね!」


 元の姿に戻りつつ、上機嫌な女神様。


「あーはい…あー」

「凄まじく不服そうね。」

「それで、女神様が俺に面接の真似事まで仕込んで何用ですか?」

「そうだ!!すっかり忘れてた!!」

 

 目的忘れてたのかよ…。


「私ってー、世界と世界とのやり取りを管理する神じゃない?」


 いや、知らないよ。


「それで、今回は暇してるNNTさんを折角だから異世界に飛ばしてみようかな~とか思ってー。テヘッ」

「はい?」

「その見極めのために、新入りの天使たちには面接を手伝ってもらったのよ。純粋で可愛いかったでしょー。」


 可愛くは…ないなぁ…。


「そうそう、向こうに着いたら、ターナーズ・ギルドに就職してもらうからよろしくね。人見知りっぽかったけど、私相手にここまで話が出来るなら大丈夫でしょ。」


「それは、あんたが余りにも滅茶苦茶過ぎたから我を忘れて…。ってか、ちょ…え!?実在すんの?㈱ターナーズ・ギルド!ってか異世界って?何言ってんの!?ライラさん!?」


「話は通してあるから。じゃあ、善は急げってことで、はい!転送陣てんかーい!!」


 そう女神は告げるやいなや、俺の足元に巨大な陣が展開された。


「うわっ、何だこれ。どうなってんだ!?ってか俺はどうなるんだ!?」


挿絵(By みてみん)

 余りの事態に平静さを取り戻すことが出来ず、声を上げてしまう。一応、このままで居れば、そのギルドとやらには就職できるようだが…。


 そんな俺の様子を見かねてか、女神ライラは俺に施しを与えて下さった。


「じゃあ最後に、一つだけ質問を受け付けましょう。」


 焦る俺をよそに陣は輝きを増していく。

 落ち着け、落ち着け俺。まだ確認していない大切なことがあるはずだ。



「じゃ…じゃあ質問…」


「はい、どうぞ。」


「神様ってトイレ行くんですk…」


 質問を言い終わる前にいただいた解答は、鳩尾への一撃であった。

 俺、神の裁きにより本日二度目の失神。

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